滋賀県公文書等の管理に関する条例等の制定について

滋賀県総合企画部県民活動生活課県民情報室
室長補佐 秦 哲也

1.はじめに
 本年3月15日、滋賀県公文書等の管理に関する条例(平成31年滋賀県条例第4号。以下「本条例」という。)が制定され、一部例外を除き、令和2年4月1日から施行されます。
 本条例は、概ね、公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第66号。以下「公文書管理法」という。)の枠組みおよび考え方に沿って、公文書のライフサイクルを全体通じた全庁共通のルールを定めるものです。
 同様の条例は既に7都県において制定されており、また、本条例は現時点で未施行でありますが、直近における条例制定の事例をお伝えすることで多少なりとも皆様の御理解に資するところがあれば幸いです。

2.本条例の制定に到る経緯と目的
 本県での検討は、平成27年7月から翌年8月まで設置された「滋賀県公文書管理に関する有識者懇話会」(外部の有識者5人で構成)からの提言を踏まえ、平成28年9月に県の方針を定めたところから始まりました。

大津事件関係文書(クリックで大きくなります)

大津事件関係文書(クリックで大きくなります)

(1) 歴史公文書の保存・活用の制度化の検討
 検討の出発点は、歴史的な価値のある記録を残し、保存・活用する仕組みの必要性の認識でした。
 本県では、戦災や大規模災害の影響を受けず、全国的にも貴重な歴史的文書(明治期からGHQ施政下までに作成された公文書で、歴史的資料として特別に管理している9,068簿冊、約75万件)を保存するとともに、戦後期においても滋賀県政や県民の足跡を記す様々な公文書を保存しています。
 平成20年度には、県民情報室内に「県政史料室」を開設し、この「歴史的文書」を県民の皆さんに利用していただく環境を整えてきましたが、このような歴史的な価値のある公文書の取扱いが制度化されていないことが主な課題として挙げられました。
 すなわち、現用公文書として用いなくなった公文書の保存について全庁統一の仕組みがなく、現用公文書から歴史的文書への移行がなかなか進まないこと、県政史料室で管理する公文書は県民等の利用を目的とするものであるにもかかわらず、現用公文書の場合に情報公開条例が保障する公開請求権のような県民等の権利の定めがないこと、加えて、県政史料室は、各種レファレンスや展示、企画展、情報紙の発行、講演会等を行うなど実質的に公文書館の機能を果たしていますが、法的な根拠等を欠くため、その位置づけの明確化や機能の向上が必要といった課題がありました。

(2) 公の施設の設置と附属機関の設置を併せて一体的に行うため、3条例をセットで制定
 そこで、本条例の検討と並行して、県政史料室を改編し、正式な公の施設として新たに滋賀県立公文書館を設置するための条例を整備することとしました。また、本条例において外部有識者によるチェック機能を持たせるため、附属機関の設置に関する条例も併せて整備することとし、これら3つの条例案をセットで提案する方針としました。
 一方、現用公文書の適正管理の確保も本条例の重要な柱です。適正な公文書管理は情報公開制度の基礎であり、いわば車の両輪であることから、滋賀県情報公開条例との整合を図るとともに、同条例の一部も併せて所要の改正をしています。
 本条例の制定を得て、情報公開条例の目的である「県民の知る権利の尊重」がより確固たるものとなったといえると考えています。

3.検討過程

(1) 検討の主体
 本条例および関連する2条例は、いずれも公文書管理制度を所管する県民情報室が主体となり検討を行いました。

(2) 検討時の課題
 条例制定に向けた検討は平成29年度から始まりましたが、必ずしも全てが順調に進んだわけではありません。とりわけ、庁内からは、多忙な中で新たな事務が発生することへの不安や、抽象的で実務上の取扱いが不明瞭といった懸念の声が少なからずありました。これらの意見は、本条例がその動機においては県民との関係に主眼を置きながらも、運用においては優れて内部管理的な色彩を帯びていることを反映したものであり、本条例の運用は職員が日々行う公文書の取扱いに懸かることから、対外的な説明もさることながら、この点の調整が検討において少なからぬ比重を占めることとなりました。

(3) 合意形成の手続
 本条例の目的には、県民に対する説明の責務を全うすることと併せて、県政を適正かつ効率的に運営することが掲げられています。後者は専ら公文書が適正に作成・保存等されることにより達成されるものですが、同時に、公文書の作成・保存等のために新たに過大の労力を要することとならないとの要請も含むと考えています。
 このことを念頭に、職員の懸念等に対応するため、平成30年度には具体的な運用の考え方を示すとともに、条例の制定を待たずに対応すべき当面の文書作成の方針を示しました。
 なお、この検討に当たっては、県内外の公文書等の関係者を対象とした講演会や関係団体からの意見聴取等と並行して、庁内の幹部層による検討の場を設けて議論を深めましたが、この検討の場は、庁内での円滑な合意形成に大変有益であったと考えています。

4.本条例の内容

(1) 構成
 本条例の構成は次図のとおりです。同図の上段、第1章のとおり、目的は、現用公文書の適正な管理および特定歴史公文書等の適切な保存・利用等を図ること、それらにより県政の適正かつ効率的な運営を図るとともに、県民に説明する県の責務を全うすることとしています。また、条例の対象となる実施機関は、情報公開条例と同じく、県の全ての機関等に及びます。
 現用公文書の管理については、中段第2章のとおり、公文書のライフサイクルに沿って、公文書の作成義務の内容、編綴の方法、保存期間およびレコードスケジュールの基準の策定、廃棄時の第三者機関の関与など、管理の基本となる事項を統一的に定めています。

公文書管理条例の概要(クリックで大きくなります)

公文書管理条例の概要(クリックで大きくなります)

 また、特定歴史公文書等の保存・利活用については下段第3章、第4章にあるとおりで、これを人的・物的に支えるため、県立公文書館が設置されます。
 施行日は、施行前に管理の基準の策定、文書管理システムの変更や新設が必要となることから、1年間の準備期間を置くこととしました。また、施行日前に作成・取得された文書には本則の適用はありませんが、経過措置において、概ね類似の取扱いとする考えです。
 なお、警察本部においては、従前の文書管理の方法は知事部局とは大きく異なるものでしたが、今回の条例制定を機に切り替えを進められました。このことにより、警察本部や行政委員会といった各実施機関で統一的な方式をとることが可能となりました。

(2) 特徴的な規定
 本条例でいくらか特徴的といえる規定を挙げると、目的においては、「県民の知る権利」の尊重を明記したこと、現用公文書の管理においては、管理の基準、歴史公文書への選別基準その他の基準を知事が制定改廃しようとするとき、および実際に現用公文書または特定歴史公文書等を廃棄しようとするときには外部有識者(附属機関)の意見を聴く仕組みとしたこと、出資法人や指定管理者にも適正な文書管理を求めること、県立公文書館の運用においては、審査請求事件を附属機関で審議すること、教育機関等との連携などを進めること、また、人材育成のため研修等を実施すること、などが挙げられます。

公文書館館設置予定イメージ(クリックで大きくなります)

公文書館館設置予定イメージ(クリックと大きくなります)

(3) 関連する2条例の概要
 滋賀県立公文書館の設置および管理に関する条例は、現在、県政史料室が置かれている本庁舎の一角をそのまま利用して公の施設を設置するもので、本条例と併せて令和2年4月1日から施行します。
 また、附属機関に関する条例(滋賀県公文書管理・情報公開・個人情報保護審議会設置条例)は、公文書管理制度と情報公開制度および個人情報保護制度とが密接な関係を有することに鑑み、既存の情報公開審査会および個人情報保護審議会を改組して、公文書管理関係の権限を付加した附属機関としたものです。公文書管理の基準等の策定に際し意見を聴くため、既に平成31年4月1日から運用しています。

5.おわりに
 公文書管理制度は、文書主義を原則とする行政機関にとってまさに一丁目一番地ともいえ、ゆるがせにできないものであることは多言を要しませんが、日常のあらゆる事務執行と結びつくだけに、公務遂行の能率にも大きな影響を与えるものです。多様な業務について具体の運用を想定するほどに、国の省庁や先行する自治体の苦心の一端を垣間見る思いですが、本県ではまさに目下検討の途上にあり、本稿で運用の実例を示すことはかないませんでした。また、電磁的記録に係る制度設計など今後の検討課題として残っている領域もあり、他団体の取組なども参考にさせていただきながら、検討を進めたいと考えています。
 最後に、既述のとおり、本県の制度は、条例の組立てにおいても具体的な基準においても、公文書管理法の仕組みに多く範を採っています。この点に関して、加藤丈夫国立公文書館長をはじめ、国立公文書館の皆様からは格別の御支援と御配慮を賜りました。末筆となりますが、改めて深く謝意を表します。