山形県における公文書管理条例制定にかかる経緯について

山形県総務部学事文書課
築達 秀尚

はじめに
 山形県では、平成31年3月に「山形県公文書等の管理に関する条例」を制定、公布しました。令和2年4月1日の施行(一部は施行済)に向けて、現在、施行規則や文書管理規程の案文作成の作業を行っているところです。本稿では、本県が公文書管理条例を制定するに至った経緯について紹介したいと思います。

1.見える化委員会での検討の背景
 山形県は、平成29年3月に策定した「山形県行財政改革推進プラン」の中で、「県民視点に立った県政運営の推進」を柱に掲げ、県民との対話や県政運営の透明性確保に向けた情報公開等の取組の推進を図っており、特に、県政の透明性を一層確保する取組の具体化を検討課題としています。
 また、山形県情報公開条例の制定から20年を迎え、個人情報保護への県民の意識の変化、ICTの発達など、社会情勢も大きく変化しており、県政運営の透明性の確保・向上を図るためには、不断の検討・検証を継続していくことが必要と考えているところです。
 このような中、外部有識者の視点も入れ、政策決定過程の一層の透明化に留意しつつ、改めて、情報公開・提供全般について、幅広い観点から現状を検証するとともに今後の在り方について検討することとし、平成29年11月に「情報公開・提供の検証、見直し第三者委員会」(以下「見える化委員会」という。)を設置しました。

2.見える化委員会の検討内容と経過
 見える化委員会では、情報公開、文書管理、歴史公文書の保存、庁内会議の記録の作成・保存など11のテーマを取り上げ、検討を行いました。
 検討期間中に、公文書の改ざんや誤廃棄など政府の公文書管理に関する問題が連日報道されたこともあり、文書管理に関するテーマについては、特に活発な議論が行われました。
 約1年間にわたる検討の結果、平成30年10月に委員会報告書が取りまとめられ、文書管理及び歴史公文書の保存に関して、公文書管理条例の制定をはじめ、数多くの改善案の提言が行われました。この提言には、平成30年7月に政府の行政文書の管理の在り方等に関する閣僚会議が取りまとめた「公文書管理の適正の確保のための取組について」の内容(研修の充実強化、懲戒処分、電子決裁システム等)についても可能な限り取り入れられています。

 以下は、公文書管理条例に関する提言の抜粋となります。

 [改善案]
 公文書管理法[註]の趣旨に則り、本県においても文書管理に関する条例を制定する。
 制定にあたっては、下記の内容を基本とし、文書管理、歴史公文書等に関する専門家の意見を参考に検討するものとする。
(1) 行政文書(公文書)の管理(職員の文書作成義務を含めた管理の基本的事項)
(2) 法人文書の管理(県設立の地方独立行政法人の文書管理に関する基本的事項)
(3) 歴史公文書等の利用、保存等(利用請求を含めた、歴史公文書の利用、保存等に関する基本的事項)
(4) 公文書管理委員会(仮称)(公文書管理に関する各種諮問に係る調査審議を行う第三者機関の設置等についての事項)
(5) 雑則(職員の研修に関する事項 等)

見える化委員会

見える化委員会

3.山形県公文書管理条例検討委員会による検討
 見える化委員会の報告を受け、直後に開催された山形県行財政改革推進本部会議(知事を本部長とし、部局長等をメンバーとした会議)において、平成30年度中に公文書管理条例を制定する方向性が決定されました。
 このため、有識者からなる条例検討組織(山形県公文書管理条例検討委員会)を立ち上げ、具体的な公文書管理条例の内容について検討を行うこととしました。
 委員は、東北公益文科大学教授(公益学)、山形大学准教授(行政法、山形県情報公開・個人情報保護審査会委員)、弁護士(山形県情報公開・個人情報保護審査会委員)、国立公文書館統括公文書専門官、山形新聞社論説委員長、郷土史研究家(元市教育委員会職員)の6名です。
 平成30年11月に開催された第1回委員会では、国立公文書館統括公文書専門官(当時)の依田健委員から「公文書の管理と公文書館の役割」と題した講義をいただくとともに、これまでの見える化委員会での議論や、提言内容について事務局から説明を行い、意見交換を行いました。
 その後、12月の第3回委員会までの間、事務局作成の条例案骨子案を基に、公文書管理法、先行して条例を制定している他都県の条例と比較しながら、検討を行いました。特に、第三者機関を設置している「熊本県行政文書等の管理に関する条例」については、大いに参考とさせていただき、公文書管理法と本県の条例骨子案との比較三段表を作成し、検討資料として活用させていただきました。

公文書管理法、各都県条例比較表(クリックで大きくなります)

公文書管理法、各都県条例比較表(クリックで大きくなります)


公文書管理法、熊本県公文書管理条例、山形県条例骨子案三段表(抜粋)(クリックで大きくなります)

公文書管理法、熊本県公文書管理条例、山形県条例骨子案三段表(抜粋)(クリックで大きくなります)



山形県公文書の管理に関する条例(仮称)案検討における主な論点と検討結果は、次のとおりです。

(1) 実施機関の範囲をどのようにするか。
  ⇒ 情報公開条例における実施機関と同様とする。(議会は、情報公開条例も個別に制定しており、議会の判断に委ねることとする。)
(2) 県が設立する地方独立行政法人を実施機関とするのか。
  ⇒ 情報公開条例では、実施機関と位置付けていることから、実施機関と同じ又は準じた取扱いとする。
(3) 職員の公文書の作成義務、作成範囲はどのようになるのか。
  ⇒ いずれも公文書管理法に準じた規定とする。
(4) 歴史公文書の利用請求はどのようになるのか。
  ⇒ 利用請求権を規定する。
(5) 利用請求に係る救済制度はどのようになるのか。
  ⇒ 審査請求にかかる諮問先を公文書等管理委員会とする。
(6) 第三者委員会(公文書等管理委員会)の役割をどのようにするか。
  ⇒ ・ 条例に基づく、規則、規程等の制定、改廃時における諮問機関
    ・ 公文書の保存期間満了に伴い廃棄する際の意見聴取機関
    ・ 歴史公文書の利用請求に係る不服申立てがあった場合の諮問機関
(7) 歴史的価値の高い資料の民間等からの寄贈・寄託はどのようにするのか。
  ⇒ 公文書センターのスペースの関係から、直ちに受け入れることは困難であるため、将来の課題とする。

 2カ月月間といった短い検討期間でありましたが、平成30年12月に開催された第3回検討委員会において、条例の骨子案について了承し、取りまとめました。

山形県公文書管理条例検討委員会

山形県公文書管理条例検討委員会

4.委員会による検討後

 <パブリックコメントの意見反映>
 条例骨子案について、パブリックコメントを実施し、多くの意見が寄せられましたが、これらの中で、「保存期間が満了した公文書について、移管・廃棄の決定権者を知事とすべき」との意見が複数あったことから、これらの意見を踏まえ、公文書等管理委員会への意見聴取に加え、知事への協議・同意が必要となるよう条文を追加することとしました。

 <現公文書センターの公文書館への転換について>
 山形県では、歴史的に価値のある公文書について、平成27年から、山形県公文書センター(公文書館法に基づく公文書館ではない)において保存、閲覧に供していますが、センターは、山形市の北西約20キロに位置する寒河江市にある県の総合出先機関の一室に置かれていることから、利便性を考慮して、令和元年度中に山形市内の遊学館(県立図書館を含む複合施設)の一室への移転を予定しています。
 センターの移転と公文書管理条例の制定を契機に、センターを公文書館法に基づく公文書館にできないかという議論にもなりましたが、結果的には、移転予定先の遊学館において、歴史公文書のための保存スペース、閲覧・展示スペースが十分に確保できないこと、公文書館に置くことが必要な専門職員の確保が難しいこと等のため、すぐには公文書館とすることは難しく、将来の課題ということになりました。しかし、将来的にセンターを公文書館とするという県の意思を明確にするため、公文書管理条例案の附則に経過措置として、項を追加することとしました。

 (山形県公文書等の管理に関する条例附則(抜粋))
8 知事は、公文書館法(昭和62年法律第115号)第4条に規定する公文書館が設置されるまでの間、特定歴史公文書を保存し、及び一般の利用に供すること等の業務を行うための施設(以下「公文書センター」という。)を設けるものとする。

おわりに
 前述のとおり、条例制定の背景が「情報の公開・提供」といった視点からの検討から始まったことや、短い検討期間であったこと(見える化委員会からの議論も含めれば1年3か月ほどでありますが)などから、郷土の歴史を研究する方々からは、「検討期間が短く、拙速である」とか「歴史的な視点からの考察が不十分である」などの御指摘もいただきましたが、全国的に公文書に関する関心が高まっている状況の中で、有識者の意見を賜りながら条例の検討を行えたことは、大変有意義だったと考えております。今回の条例制定が、新たな公文書管理の第一歩と捉えて、これで終わりではなく、今後も、適宜見直しを行いながらよりよい仕組みにしていきたいと考えています。
 これから、公文書管理条例を制定しようとしている自治体の参考となれば幸いです。
 おわりに、二つの委員会の委員の皆様はじめ、条例・規則の制定、運用等の検討に当たり、国立公文書館、熊本県、鳥取県、島根県の関係者の皆様には、御協力をいただきまして誠にありがとうございました。紙面をお借りして厚くお礼を申し上げます。

註:「公文書等の管理に関する法律」平成21年法律第66号。