内閣府公文書監察室の発足と活動状況

内閣府公文書監察室
参事官補佐 村上 耕司

はじめに
 平成30年7月20日に行政文書の管理の在り方等に関する閣僚会議において決定された「公文書管理の適正の確保のための取組について」(以下「閣僚会議決定」という。)は、「一連の公文書をめぐる問題により、行政への信頼が損なわれている。」との一文から始まっている。内閣府公文書監察室(以下「公文書監察室」という。)は、このような強い危機感の下、公文書管理の適正化に係るPDCAサイクルを確立するために発足した組織である。本稿においては、公文書監察室の発足及び各府省における公文書管理体制の強化について概要を整理するとともに、公文書監察室の活動について概況を解説したい。なお、本稿のうち、解釈・意見にわたるものは筆者の私見であり、筆者が属する組織の公式見解ではないことを申し添える。

1.公文書監察室の発足
 公文書管理の適正化に係るPDCAサイクルの確立のため、閣僚会議決定において、「特定秘密の指定等の適正を確保するための検証・監察事務を現在担っている独立公文書管理監を局長級に格上げし、各府省における行政文書の管理状況について常時監視するなどの一般の行政文書のチェック機能を追加する。併せて、この独立公文書管理監(「政府CRO」と通称)の下に、同機能を担当する審議官を配置するとともに、増員を行って「公文書監察室(仮称)」を設置する。」等とされた。
 これを受け、平成30年9月3日に内閣府本府組織令が改正[1]され、独立公文書管理監が局長級に格上げ、一般行政文書のチェックに係る所掌事務が追加された。また、同日、当該所掌事務を助ける組織として、公文書監察室が設置された[2]。独立公文書管理監に追加された事務及び公文書監察室の事務は、公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第66号。以下「法」という。)の施行に関する事務のうち、①行政機関への報告・資料の徴収、実地調査に関する事務(法第9条第3項、同条第4項)、②①の結果に基づいて行う勧告に関する事務(法第31条)である。
 これらの所掌事務は、第三者的な立場からのチェック体制を整備するため、従来は内閣府公文書管理課(以下「公文書管理課」という。)において担っていた法の施行事務を切り出し、内閣府の専門の組織に担わせることとしたものである。

公文書監察室概要

公文書監察室概要

2.各府省における文書管理体制の強化
 各府省における文書管理体制の強化を図るため、閣僚会議決定において、「各府省において、総括文書管理者の機能を分担し、各府省における行政文書の管理及び情報公開の実質責任者となる「公文書監理官(仮称)」(「各府省CRO」と通称)を大臣官房等に設置する。公文書監理官は審議官級など、適切なチェック機能が働くクラスとする。また、公文書監理官の下に、府省内の行政文書の管理及び情報公開への対応の適正性や統一性を確保するため、「公文書監理官室(仮称)」を設置する。」等とされた。
 これを受け、令和元年度(平成31年度)に各府省において総括文書管理者の機能を分担し、行政文書の管理等の実質責任者として公文書監理官(各府省CRO)が設置されることとなり、各府省の組織令等において規定された。また、各府省の公文書監理官を支える組織として、公文書監理官室等が置かれ、同室の体制整備のために行政機関全体で24人の新規増員が図られることとなった[3]。
 これらの体制整備については、「行政文書の管理に関するガイドライン」(平成23年4月1日内閣総理大臣決定。以下「ガイドライン」という。)においても、第73回公文書管理委員会(平成31年2月22日)における議論を経た後、平成31年2月26日のガイドライン改正により反映されている。具体的には、「公文書監理官は、総括文書管理者の職務を助け、及び公文書管理に係る通報の処理に関する事務を行うものとする[4]」旨を各行政文書管理規則に定めるとともに、留意事項において本省の公文書監理官の外局等の文書管理体制への位置付け方、副総括文書管理者及び監査責任者との関係等が明記されている[5]。

3.公文書監察室の活動状況

(1)平成30年度における実態把握調査
 第68回公文書管理委員会(平成30年9月28日)において、公文書監察室の業務運営の基本的な考え方[6]とともに、平成29年末に改正されたガイドラインによる新ルールについて、各府省の取組実態を把握すること、実態把握を通じて①新ルールの浸透・徹底、②文書管理のPDCAサイクルの確立を目指すこと等が説明された。
 その中で、実態把握調査の調査項目として、①電子文書の保存、②正確性の確保ルールへの対応、③1年未満保存文書への対応、④文書管理担当者の指名が設定された。
 このうち、①電子文書の保存及び④文書管理担当者の指名については、第71回公文書管理委員会(平成30年12月19日)[7]に報告された。
 ①電子文書の保存については、行政文書の電子的な管理の充実に係る議論に資するよう、電子文書の保存場所、共有フォルダの管理、個人的な執務参考資料等の管理、随時更新文書の管理、電子メールの保存等について、課題と共に工夫した取組事例について実情を把握することに特に重点を置いて実施・報告されたものである。
 また、②正確性の確保ルール及び③1年未満保存文書への対応については、第76回公文書管理委員会(平成31年4月23日)に「行政文書の管理に係る取組の実態把握調査の結果について」として報告された。
 同調査は、正確性の確保、1年未満保存文書に加え、両者に共通する項目である政策立案に係る行政文書の管理状況を柱とし、国立公文書館職員の協力も得て行われた[8]。
 報告書では、個々の論点の調査結果及び調査結果への考え方を示した上で、調査結果のまとめとして、「新たなルールについて、おおむね各府省に浸透している状況を把握することができた」こと、「他方で、今後の運用改善が必要な事項や、ルールの解釈に差が生じている状況もみられた」ことを指摘した上で、横断的課題として、跡付け・検証の確保の観点からは、現在の担当者が分かればよいという姿勢ではなく、将来の担当者等にも経緯等が分かるようにする等の基本認識について個々の職員のレベルまで浸透させる必要があること、保存期間表の重要性を認識し、その不断の見直しを行うこと等を指摘している。

(2)今後の監査方針
 第76回公文書管理委員会(平成31年4月23日)において、平成31年度における公文書監察室の監査方針として、①地方支分部局等における文書管理状況の把握、②各府省における点検・監査及び実態把握調査等を踏まえた改善状況の把握を挙げている。また、「監査の進め方」として、年内を目途に監査結果を取りまとめることとし、公文書管理委員会に報告するとともに、監査結果等を踏まえて翌年度の監査計画を策定することとしている。
 これらの方針は、地方支分部局等で行政文書ファイル等の紛失等が多く発生していること、また、前出のとおり令和元年度(平成31年度)より各府省に公文書監理官が置かれること等から公文書管理の適正化に係るPDCAを本格化していく必要性等を踏まえたものである。

おわりに
 これまで概況を説明したとおり、公文書管理の適正化に向けた体制整備は相当程度進んだといえる。今後は、内閣府公文書監察室(政府CRO)による一般行政文書のチェックと各府省公文書監理官室等(各府省CRO)の文書管理の適正化の取組について有機的にPDCAサイクルを回すことで、政府全体で公文書管理の適正化を図っていくことになる。加えて、文書管理が行政機関の全活動に関わるものであることから、適正な文書管理が業務全体の効率化・適正化に資するものであることを各職員に実感してもらい、各職員が業務を進める中で適正な文書管理が行われるよう好循環が作られていくことを期待したい。

註(以下の各種報告については、コチラを参照)
[1]内閣府本府組織令の一部を改正する政令(平成30年政令第245号)。
[2]公文書監察室の設置等について、第67回公文書管理委員会(平成30年9月13日)において報告がなされている。なお、公文書監察室とは別に、特定秘密の検証・監察の事務を担う組織として情報保全監察室が置かれている。
[3]これらの体制整備状況について、第72回公文書管理委員会(平成31年1月30日)において報告がなされている。
[4]「公文書管理に係る通報の処理」は、関係閣僚会議決定において「「公文書監察室」及び「公文書監理官室」において、職員からの公文書管理に係る通報を受け付ける窓口を設置する」こととされたことを受けたものである。
[5]行政文書の管理に関するガイドライン第2-2(公文書監理官)及び第2の留意事項参照
[6]「業務運営の基本的な考え方」では、組織の基本理念として、「第三者的な立場からチェックし、その結果を制度所管部局や各府省にフィードバックすることにより、①文書管理のPDCAサイクルの確立、②政府全体で共通・一貫した文書管理への考え方の転換を目指す」、「不適正事案発生時は、再発防止の観点から、当該府省の対応状況を厳正にチェックする」等が示されている。
[7]第71回公文書管理委員会においては、1年未満保存文書への対応状況の書面調査の結果も報告されている。
[8]国立公文書館職員の同行は専門職員の試行的派遣の一環として行われたものであり、その概要及び評価については、第76回公文書管理委員会(平成31年4月23日)において「平成30年度における専門職員派遣の試行結果(報告)」として報告されている。