巻頭言 理事就任のご挨拶に寄せて~物事にまつわる「ストーリー」~

国立公文書館
理事 中田 昌和

フィリピン文化芸術国家委員会主催第6回アーカイブズ評議会席上にて

フィリピン文化芸術国家委員会主催第6回アーカイブズ評議会席上にて

 本年4月1日に国立公文書館の理事に就任いたしました中田と申します。5月1日には、元号が「平成」から「令和」へと改められましたが、この新たな「令和」の時代を、「時を貫く記録を守る」仕事の現場である国立公文書館で迎えたことに、縁を感じているところです。今後とも、皆様方には、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げたいと存じます。
 先頃、ネット系のイベントに参加してみたところ、質問の時間に、参加していたある演奏家の方から、個人ブログでどういう記事を書けばいいか悩んでしまい書き続けるのが難しいというような質問がありました。これに対し登壇者からは、“ご自身がどういう思いや経緯で今の演奏家になったかなどを書かれてはどうですか、興味を持つ方が結構いらっしゃると思いますよ”というようなご回答がありました。確かに、単にモノだけではなくそれに関わる体験が重要だというようなことも言われる昨今、自分の知らない生き方、それに至る「ストーリー」に興味を持つ方が多くいるということだろうなと勝手に理解したところです。
 物事が生じる背景には、いろんなストーリーがあり、多くの方々の交わりがあるのでしょうが、それを聞いたり、追体験したりすることは、興味をかき立てられる面白みもありますし、新たな視点や知見を抽出することもできるのではないかと思います。個人的にも、企業・団体などの方のお話を多く聞くように努めているところですが、自らを見つめ直す視点を与えていただくようなことが多くあります。もちろん、仕事や製品などの裏話などから楽しみも与えていただいているところでもあります。当館所蔵の資料などは、まさに、国や独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録ですから、さまざまな切り口で先人たちの取組に思いを巡らせる材料になるのではないかと思いますので、研究者はもとより、多くの方々にご活用いただきたいと思います。
 また、近年では、従来型の工場見学や企業視察だけでなく、さまざまな施設で、施設の裏側、その職員の方の働く様子なども見られるバックヤード・ツアーのような企画が人気だと聞きます。何年か前に、私自身、ある水族館でそういう様子も拝見したことがありますが、大変興味深いものでした。当館でも、バックヤードもご覧いただける「ふらっとツアー」なども実施しておりますので、機会がございましたらご参加いただき、公文書を巡るストーリー、我々の仕事や思いを、より知っていただける機会になれば幸いです。