千葉県文書館開館31年目へむけて

千葉県文書館
副主幹 飯島 渉

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1、はじめに

 千葉県文書館は1988(昭和63)年6月15日に開館し、2018(平成30)年の今年で30周年を迎えた。当館の概要等については、開館20周年の時に『アーカイブズ』33号で触れているので、今回はその後の10年間の当館の状況について、「千葉県史編さん事業の終了」、「他機関との共催展示」、「歴史公文書判定アドバイザー制度の導入」の3点を紹介する。

2、千葉県史編さん事業の終了

 1991(平成3)年度から開始した千葉県史編さん事業は、2008(平成20)年度をもって終了した。当初の計画では15か年計画であったが、1998(平成10)年に計画を3年間延長して、18年間で全51巻(『千葉県の歴史』39巻、『千葉県の自然誌』12巻)を刊行した。
 千葉県における県史編さん事業は、これまで3回行われている。第1次県史編さんは、1902(明治35)年から1918(大正7)年までに、『稿本千葉県誌 巻上下』2巻を発刊した。第2次県史編さんは、1950(昭和25)年度から1990(平成2)年度までに、全35巻が刊行されているが、編さんの目的は、資料集の編さんであった。そのうち、通史編は2巻刊行されたが、「明治篇」と「大正昭和編」で、明治以前の通史は予定されなかった。都道府県史の編さんは明治100年を機に行われる場合が多かったことを考えると、戦後まもなく始められ、資料の散逸防止に眼目が置かれていたことは特筆すべきことである。
 第3次県史編さんは、千葉県の通史がないことから、千葉県の原始古代から現代までの通史を編さんすることが大きな目的となった。併せて、最新の歴史研究の成果を反映させて通史を作るため、新たな資料発掘、悉皆的な資料調査を行うこととした。
 特徴とすべき点のもうひとつは、歴史だけでなく自然誌を取り入れたことである。千葉県の人々の歴史は、房総半島の大地とそこに生き続けてきた動物・植物と共生してきたということを、認識させるうえで先見的であった。その結果、12巻という大部の『千葉県の自然誌』が完成した。
 現在は、第3次県史編さん事業で収集した複製資料等約24万点の整理を進めており、約17万点の目録が完成し、利用可能となっている。今後も、県史編さんでの成果をさらに活用できるようにしていきたい。
 県史編さん事業で収集した資料以外では、県内各地域に伝えられてきた古文書について、53万点余を収蔵しており、資料散逸の防止に益している。整理が終了し、閲覧等の利用が可能な古文書は、約32万点となっている。

企画展「房総へいらっしゃい」パンフレット

企画展「房総へいらっしゃい」パンフレット

3、他機関との共催展示

 宮内庁宮内公文書館との共催展「皇室がふれた千葉×千葉がふれた皇室」を、平成27年9月25日から12月19日まで開催した。千葉県文書館が、初めて他館と共催した展示である。2,891人、1日平均約43人の入場者があった。普段目にすることができない資料が数多く展示され、入場者の多くが興味深く見学していた。
 また、共催展のテーマに関連して、千葉県・宮内庁の資料からたどる皇室と千葉の近現代をテーマに講演会を開催した。
 それまで、他機関と共催で展示を開催したことはなかったが、この展示はメディアにも取り上げられ、来館者増に繋がった。他機関との連携や共催によって館事業を展開することは、館のPRの面で有効である。
 なお、現在は明治150年記念展示として「房総へいらっしゃい-千葉の観光のあゆみ-」と題した企画展を開催している。
 茂原市立美術館・郷土資料館の協力を得て、茂原―長南間の人車軌道の人車(実物)を展示している他、千葉県や関東近県の駅で販売された駅弁の掛け紙コレクションなど視覚的に楽しめる資料も数多く展示しているので、来館していただきたい。

4、歴史公文書判定アドバイザー制度の導入

 2016(平成28)年11月に、日本アーカイブズ学会から、千葉県文書館の文書管理のあり方について質問状をいただいた。さらに、翌年3月には、歴史学等の学術研究学会14団体が千葉県文書館に来館し、文書管理の見直しについて意見交換を行った。
 同年4月に、千葉県文書館において歴史的に重要な公文書を誤って廃棄した事実が判明し、千葉県及び文書館は謝罪するとともに適切な文書管理を行うため、見直しに着手した。
 最初に、歴史公文書の選別から移管を受けるまでの手続きの再確認とチェックの徹底を行った。誤廃棄の原因が、移管・廃棄の選別結果リストが錯綜し、最終リストではないもので決裁されてしまったためであったことから、業務の節目節目でのダブルチェック、複数の目で確認することを徹底した。新たに「業務マニュアル」を作成し、担当職員に徹底させた。
 また、併せて適正に歴史公文書を移管するための見直しも行い、制度の整備と体制づくりも進めている。
 そのひとつは、「歴史公文書の判断基準に関する要綱」を見直し、同要綱中の別表『具体的な判断の指針』を修正した。歴史公文書として選別すべき文書の事例を具体的にするなど明確化し、各課の担当者が歴史公文書と判断がつきやすいように見直した。歴史公文書として移管される公文書が数的にも多くなることが予想される。
 さらに、選別にあたり、公正性・客観性を確保するため、第三者によるチェック機能として、「歴史公文書判定アドバイザー制度」を平成30年8月に制定・施行した。
 アドバイザー制度を導入するにあたり、県では県行政文書管理規則を改正し、各課は簿冊の廃棄にあたっては、あらかじめ文書館長の同意を要するとの規定に改めた。
 アドバイザー制度の概要は、各課から提出された廃棄等対象簿冊リストをもとに、文書館の職員が選別案を作成し、アドバイザーがこれに対する助言を与えるというものである。
 アドバイザーには、2名を選任した。記録管理専門の大学准教授と県内の自治体史編さんに携わり、行政文書を多く調査している研究者の2名である。アドバイザーの幅広い知見を選別に反映させるだけでなく、担当職員もどういった文書を歴史公文書として残していくべきなのか、県民が文書館に求めているものはどういったことなのかをこの機会を通して吸収・蓄積して、選別作業を行っていくことが重要であると考える。
 今回、千葉県文書館において、歴史公文書を誤廃棄したことは、あってはならないことである。これを重く受け止め、誤廃棄発生の原因究明とその対策を徹底的に講じておかなければ、数年後、数十年後に、また同じことを繰り返す可能性がないとは言えない。現在までに、マニュアル、選別基準の見直しやアドバイザー制度等できうる対策は行ってきたが、これが最終形だとは思っていない。今後も、見直し・修正を加えていく必要があると考えている。
 さらに、これらの制度・体制などの整備だけではなく、文書館職員の専門的スキルの向上、県職員の公文書管理・歴史公文書への理解が進まなければ、適切な公文書管理を行っていくことはできないと思う。

5、31年目に向けて

 現在、千葉県文書館でもツイッターによる情報発信をするための準備をしている。千葉県文書館に求められることのひとつは、外部への情報発信であると思う。これまで、千葉県文書館において、館の情報を発信していくという面が少なかった。外部へ情報発信することは、県民や他の諸機関からも注視され、結果いろいろな指摘を受けることにも繋がるが、自館を見直すきっかけを与えてくれることも多いだろう。
 今回の誤廃棄の件は、公文書の適正な管理、資料の散逸防止など文書館業務の見直しを行う機会をいただいたという気持ちで31年目を迎えたい。