開設7年目を迎えた上越市公文書センターの概要と取組

上越市公文書センター
武石 勉

上越市立公文書センター(2階及び3階)

上越市立公文書センター(2階及び3階)

1.はじめに
 上越市公文書センターはあくまで略称であり、上越市総務管理課公文書センターが正式名称である。平成23年4月に開設し、今年で7年目を迎えた。前身は、上越市史編さん事業終了後の平成17年4月に設置された公文書館準備室である。その名称からも分かるとおり、当初は新規に公文書館を建設する構想があったが、最終的に財政上断念することになった。その後、複数の既存施設を有効活用して公文書館機能を有する公文書センターを設置することとなった。
 現在、当センターの事務室と閲覧室は清里区総合事務所の2階にあり、3階には古文書と歴史公文書の書庫(320㎡)を設置している。このほか、廃校になった小学校校舎1校を公文書の書庫(613㎡)として、もう1校を主に新上越市発足(平成17年1月)以前に刊行した市町村史の保管庫(293㎡)として利用している。
 平成30年度の職員数は、正規職員及び臨時職員を合わせて9名である。正規職員は、所長1名、上席学芸員1名、指導主事1名、学芸員1名、主任1名の計5名である。非常勤職員は、古文書資料調査専門員1名、公文書整理専門員1名、歴史公文書等整理補助員2名の計4名である。

2.管理する主な文書等
 当センターで管理する主な文書等は、次の3つである。
 第1は、公文書である。本庁で作成された公文書は、作成後2年目に本庁の書庫に移動し、4年目に当センターが管理する書庫に移動している。毎年、約1,000箱の分量になる。統一ルールに基づいた公文書管理は、当センター開設時から開始した。ルールを職員に浸透させるために、毎年、「文書整理説明会」及び「公文書管理研修会」を開催している。公文書の庁内貸し出しは、イントラネットに構築した文書検索システムを用いて行っている。午前中に貸し出し依頼があれば、庁内連絡便を使って依頼日に届けることが可能である。平成29年度の貸し出し件数(複数の簿冊貸し出しがある場合も1件とカウント)は212件であり、年々利用は増加している。
 第2は、歴史公文書である。保存期間が満了した公文書は、廃棄するか保存期間を延長するか、文書作成課等に照会する。その後、当センターで廃棄文書から歴史公文書を選別し、文書作成課からの移管手続きを実施する。歴史公文書についても文書検索システムを用いて庁内貸し出しを実施している。
 第3は、古文書等の歴史資料である。平成6年度から16年度まで上越市史編さん事業が行われたが、「上越市史編さん計画」には「関係資料の収集に当っては、埋もれた地域の文化遺産に注目するとともに、広く市域を超えて系統的に収集し、その成果を組織的に整理保存する。」という一項が明記され、古文書を含む歴史資料の収集を積極的に行ってきた。新上越市の発足に際しては、編入された地域の旧町村史編さん事業で収集した古文書も公文書館準備室へ移管され、これを当センターが引き継いだ。現在、所蔵する古文書は約15万点を数える。このほか、市町村史編さん事業で撮影したマイクロフィルムが2,528本あり、デジタルデータ化を進めている。

公文書書架(旧櫛池小学校)

公文書書架(旧櫛池小学校)

歴史公文書書架(清里区総合事務所庁舎3階)

歴史公文書書架(清里区総合事務所庁舎3階)


3.資料の一般利用
 利用者の利便性を向上させることを目的として、ホームページ上で次のデータを公開している(公開点数は、いずれも平成29年度末現在)。
 第1は、合併前上越市発足(昭和46年4月)以前の歴史公文書の簿冊目録である。議会関係の目録を中心に897点を公開している。
 第2は、上越市が所蔵し、かつ当センターで閲覧(マイクロフィルム及びデジタルデータを含む)が可能な古文書の資料目録である。14家36,981点を公開している。
 第3は、当センターが所蔵する戦前の郷土紙の目録である。市内のお寺の住職が個人的にスクラップしたもので、明治35年10月から昭和20年5月までの主要記事の見出し624点を公開している。
 資料の一般利用では、古文書の閲覧が最も多い。当センターでは平成27年度から5か年計画でマイクロフィルムのデジタルデータ化に着手した。現時点での進捗率は約93%であり、閲覧及び複写については、可能なものはデジタルデータで対応している。古文書原典及びマイクロフィルムでの対応に比べて、労力や時間の節約になり、利用者にとっても利便性が高く好評を博している。
 ちなみに、平成29年度の一般利用者からの閲覧申請は125件、特定利用申請(貸し出し、転載、放映・配信等)は40件であった。同規模の自治体と比較するといずれの申請件数とも少ないが、これは当センターが市街地から遠方にあり、また交通の便にも恵まれていないためだと考えられる。
 なお、当センターでは公文書の閲覧には対応していない。これは、公文書が当センターに移管されていないためである。公文書については、利用者からの情報公開請求を受けて、文書作成課等が対応している。

古文書書架(清里区総合事務所庁舎3階)

古文書書架(清里区総合事務所庁舎3階)

マイクロフィムルスキャナー

マイクロフィムルスキャナー


4.市民との協働による古文書の整理
 古文書の整理は、当センターの職員だけでは対応しきれない。このため、市の広報紙やホームページなどを通じて「古文書資料整理ボランティア」を募集している。現在は、市内2会場で、それぞれ月2~4回のペースでボランティアと協働して整理を行っている。内容は、古文書の埃払い、のり付けなどの修復、袋入れ、カード取りなどである。ボランティアは経験が浅いほど「古文書が読めるようになりたい」という希望が強いため、作業に入る前に古文書解読の学習会も実施している。これが、継続した参加への意欲づけにつながっていると考える。平成29年度は、延べ67回開催し、延べ260人の参加があり、4,298点の整理が終了した。

所蔵資料出前展示会(高田図書館)

所蔵資料出前展示会(高田図書館)

5.所蔵資料出前展示会の開催
 公文書センターのPR及び古文書や歴史公文書をはじめとする歴史資料の保存の重要性の啓発を大きなねらいとして、平成27年8月から所蔵資料出前展示会を開催している。それ以前も当センター内で資料展示を行っていたが、市街地からかなり距離があり、資料展示を見ることを目的とした来訪者が皆無に近かった。このため、市街地にあり市民が多数利用している高田図書館内に常設会場を確保した。展示会は2か月サイクルで実施している。会場はフリースペースであるため、閲覧人数は把握していないが、出前展示会実施後に展示テーマにかかわったレファレンスや感想などが多く寄せられるようになった。また、展示会の概要についてはホームページに掲載しているため、市外や県外からの問い合わせも増えている。

 【最近実施した展示会のテーマ】
 平成29年11・12月 「資料から探る上越地域のサメ食の起源」
 平成30年1・2月 「60年前の戌年 昭和33年(1958)の出来事」
 平成30年3・4月 「観桜会の起源とこれまでの歩み」
 平成30年5・6月 「高田図書館110年の歩み」
 平成30年7・8月 「戊辰戦争と高田藩」

6.歴史資料の取り扱いにかかわる庁内連携
 上越市では、平成27年3月に「文書や資料等における人権・同和問題への配慮の基本方針」及び「文書や資料等における人権・同和問題への配慮について【ガイドライン】」を策定した。平成27年4月に、古文書を所蔵する当センターと高田図書館・歴史博物館(平成30年7月名称変更)、これに人権・同和対策室を加えた「人権・同和問題連携会議」を立ち上げた。現在は、古文書以外の歴史資料を取り扱う機会の多い文化振興課と社会教育課も参加し、2か月に1回のペースで会議を開催している。会議の内容は、差別表現が含まれた古文書や古絵図・出版物等に関する情報交換、所蔵資料の閲覧や特定利用で問題が生じそうになった事例の紹介、その対応策の協議などである。市内での話題が中心ではあるが、人権・同和対策室からは市外で生じた問題事例を紹介してもらっている。定期的に連携会議を開催することで、各担当者の危機管理意識が持続するとともに、同一姿勢での対応が可能となることから、その開催意義は大きいと感じている。
 連携会議を積み重ねてきたことで、人権・同和問題の未然防止とは別の観点での連携も進んできた。
 第1は、古文書資料の活用にかかわる連携である。これまでの経緯から、当センター(約15万点)と高田図書館(約4万点)・歴史博物館(約2千点)はそれぞれ古文書を所蔵している。このため、利用者から資料に関するレファレンスが寄せられても、的確な回答ができないこともあった。そこで、連携会議が発足した1年後の平成28年3月、「各施設の資料目録等の情報を共有し、市民からの利用の要望に的確かつ迅速に対応できる体制を築くこと、施設間の資料の貸し出しを促進し市民向けの資料展示の充実を図ること」を目的として、イントラネット内に「古文書資料活用連携業務フォルダ」を作成し、3施設の職員にアクセス権限を付与した。同フォルダには、古文書資料目録のほか、当センター及び高田図書館が所蔵する戦前の郷土紙の目録などを置いている。現在は、文化振興課と社会教育課にもアクセス権限を付与している。
 第2は、デジタルデータの共有である。先述したように当センターでは平成27年度から古文書のマイクロフィルムのデジタルデータ化を開始した。これを当センター専用のハードディスクに保存するとともに、バックアップ用にDVDにも保存している。後者のDVDについては、配付を希望する施設分も作成している。さて、高田図書館では戦前の地域紙約1万5千点を所蔵している。これらはマイクロフィルム撮影し、閲覧サービスを行っていたが、機器の老朽化により利用できなくなった。平成28年度に、高田図書館から依頼を受けてこのデジタルデータ化を実施した。このデータもDVDに保存し、高田図書館のほか希望する施設に配付した。戦時下の物資不足により、新潟県内では郷土紙の統廃合が段階的に実施され、昭和17年10月に新潟日報一紙のみとなる。高田図書館は、新潟日報の昭和35年までのマイクロフィルムも所持している。このマイクロフィルムについても、今後デジタルデータ化を行う予定である。

7.おわりに
 公文書のうち長期保存文書は年々新たに増加する。保存期間が満了した廃棄文書から選別を行う歴史公文書や個人から寄贈を受ける古文書等も同様である。このため、当センターの書庫は、いずれも飽和状態に近づきつつあり、新たな書庫の確保が大きな課題となっている。
 当市では、平成29年11月に「公有財産活用調整会議」が組織された。その目的は、市が保有する土地・建物等の供給及び需要の情報を一元化し、これらの活用を適切に進めていくことにある。当センターも、新たな書庫として確保したい施設の諸条件を挙げて要望書を提出したところである。
 このほか、長期的な書庫整備計画を作成するため、全庁の課等の文書量調査を実施中である。調査対象となる文書は、各課等が執務室及び各課等が独自に確保している書庫等で保管する文書としている。
 上記の手立てにより、課題の解消を図るとともに、機能の強化を進めていきたいと考えている。