国立公文書館所蔵資料展「明治日本とふくいの軌跡」を開催して

福井県文書館
中村 賢

「国立公文書館所蔵資料展 明治日本とふくいの軌跡」リーフレット(表紙)

「国立公文書館所蔵資料展 明治日本とふくいの軌跡」リーフレット(表紙)

はじめに

 平成30年1月20日(土)から3月18日(日)までの間、福井県ふるさと文学館(以下、ふるさと文学館)企画展ゾーンにおいて、「国立公文書館所蔵資料展 明治日本とふくいの軌跡」(以下、「本展示」)が開催された。本展示は、独立行政法人国立公文書館(以下、「国立公文書館」)、ふるさと文学館、福井県文書館(以下、「文書館」)の3館共催で実施した。会場となったふるさと文学館は福井県立図書館(以下、「図書館」)の閲覧室内に位置し、図書館を中核に併設の文書館との複合施設である。
 本展示は、過去に全国各地で行われていた国立公文書館の館外展示に倣い、国立公文書館所蔵資料を中核に据え、開催地の資料で補足する形で展開した。同時に複合施設である利点を活かし、本展示と関連する展示をふるさと文学館の別ゾーンや文書館閲覧室において開催した(ふるさと文学館企画展:「明治維新150年 近代文学の夜明け」、文書館:「明治ふくいのすがた-新聞と写真から-」)。事前の広報もあって県内外から高い関心が集まり、開催中(47日間)に37年ぶりの豪雪に見舞われたものの、8,464人と多くの方にご観覧いただいた(1日平均約180人)。以下本稿では本展示開催の経緯と概要について紹介する。


1、公募・準備

会場になった福井県ふるさと文学館(福井県立図書館内)

会場になった福井県ふるさと文学館(福井県立図書館内)

 平成28年11月、国立公文書館より館外展示会開催の公募があり、文書館で協議の上、応募することになった。しかし文書館の閲覧室は小規模なものであり、展示ケースなども少なく公募基準に対応することができないため、併設するふるさと文学館の企画展ゾーンを展示会場として申し込むことになった。これはふるさと文学館が博物館機能を備えているため多彩な資料の展示が可能であることや、図書館・ふるさと文学館・文書館職員が日常的な業務でも交流が多く、事業を行う上で連携が図りやすいという理由からの会場選択であった。
 展示時期については平成30年2月に図書館および文書館が開館して15周年、ふるさと文学館が3周年を迎えることもあり、同年の1~3月を希望とした。
 平成28年12月に開催決定の通知を受け、年が明けた平成29年3月に国立公文書館の職員の方に打ち合わせにご来館いただき、大まかな作業スケジュールと広報の分担の確認、展示会場の実見、展示内容についての打ち合わせを行った。その後はメールでの連絡が主となったが、展示構成や資料の選定などを担当者間で協議を重ねた。主として国立公文書館側で素案を作成していただき、それを受けて文書館側で修正を加える形で進めた。8月に再び国立公文書館の職員の方にご来館いただき、展示内容について詳細な打ち合わせを行った。9月に展示構成が概ね固まり、明治20年代までの日本の近代化に関すること、そのなかでの福井ゆかりの人々の活躍の様子、福井県置県に関することなどを主テーマとすることとなった。同時に展示資料の選定もほぼ固まったが、県内外の資料保存利用機関が持つ資料(画像資料)については、文書館から各機関に資料借用や画像利用の申請を行った。また、対象となる時代が明治前半となることから、副タイトルに明治を冠し、「明治日本とふくいの軌跡」とすることとした。

「国立公文書館所蔵資料展 明治日本とふくいの軌跡」入口

「国立公文書館所蔵資料展 明治日本とふくいの軌跡」入口

 平成29年10~12月に国立公文書館において展示ポスター・リーフレット、文書館において展示パンフレットなどを作成し、それぞれ順次発送を行った。明けて平成30年の1月17日に国立公文書館より展示資料が会場に運び込まれた。展示品は多数に及んだが、国立公文書館の小宮山敏和上席公文書専門官、竹田俊一公文書専門員の尽力やふるさと文学館の尾崎秀甫学芸員、岩田陽子学芸員の助力もあり、1日半ほどで資料の設置および会場設営は終わり、19日に内覧会、20日に開幕を迎えることができた。

2、展示内容

 本展示のテーマは2章立てとして、第1章を「明治日本の近代化とふくいの人々」、第2章を「福井県誕生」と題し、いずれも国立公文書館の資料を中心に据えながら地元の資料を組み合わせて補足する形をとっている。また展示している資料が文字資料中心となるため、明治のどの出来事や人物に関連しているものなのかを来館者が視覚的に捉えられるように地図や人物肖像などの画像資料を副次的に添える工夫を凝らしている。
 第1章では明治元~20年頃までを対象に日本の近代化の様子とそれに関わる福井に関係する人々について紹介した。五箇条の御誓文、お雇い外国人、自由民権運動、文明開化、憲法と議会などを小テーマとして14点の資料を展示した。展示資料の中心となったのは、五箇条の御誓文、自由民権運動、大日本帝国憲法など教科書にも記述されるような歴史的事項に関する資料(「五箇条ノ御誓文」、「民撰議院設立建白書」、「大日本帝国憲法(複製)」)である。これらは歴史の知識として一般的な認知度が高い反面、公文書として管理された実際の資料を目にする機会はほとんどないので特に来館者の注目を集めていた。来館者からは、「民撰議院設立建白書に元福井藩士の由利公正や、(慶応3年に坂本龍馬と共に由利を訪ねた)岡本健三郎が署名していることは知らなかった」、「(大日本帝国憲法の)御璽はいつから使われているのか、何でできているのか」など多くの感想や質問をいただいた。同時に歴史的事項と福井との関連についても大きな関心が集まり、特に「五箇条ノ御誓文」とその源流となった由利公正による「議事之体大意」の並列展示は、一つの出来事の出発点と最終的な記録を同時に見学できるものとしてこちらも来館者の注目を集め、本展示の一つの目玉となった。

「民撰議院設立建白書」(国立公文書館所蔵)

「民撰議院設立建白書」(国立公文書館所蔵)

「五箇条ノご誓文」(右、国立公文書館所蔵)「議事之体大意」(左、福井県立図書館蔵)

「五箇条ノご誓文」(右、国立公文書館所蔵)
「議事之体大意」(左、福井県立図書館蔵)



福井県域の変遷を示す地図群

福井県域の変遷を示す地図群

 第2章では版籍奉還から明治14年の福井県置県に至るまでの越前・若狭の領域におけるめまぐるしい変遷を紹介した。版籍奉還、廃藩置県、敦賀県と足羽県、敦賀県の廃止、福井県の成立などを小テーマとして20点の資料を展示した。やはり展示資料の中心となったのは、版籍奉還から福井県置県に至るまでの公文書(「藩ヲ廃シ県ヲ置ク」、「福井県ヲ置キ堺県ヲ廃スルノ件」など)であったが、領域の変遷を視覚的にとらえてもらうために展示した地図も効果を発揮した。現在の福井県の地図とは上下逆となる敦賀中心で描かれた地図(「敦賀県治一覧表」)や、石川県・滋賀県に吸収され福井県が一旦なくなった状態を示す地図(「石川県管内図」、「新撰滋賀県管内全図」)、福井県設置後の明治15年の地図(「福井県管内地図」)などである。これらは複雑な変遷を遂げた明治初期の福井に対する理解の一助となったようである。
 本展示と関連展示の同時開催の利点を活かし、本展示に紹介しきれなかったものを関連展示で紹介した資料もある。「福井新聞」(明治15年)は、本展示においてパネル紹介し、資料の実物は、文書館において展示した。また杉田定一に関わる資料として、「北陸自由新聞」も文書館において展示した。これらは本展示を見た後に文書館展示にも足を運んでもらえるなど相乗効果があった。

3、展示の広報・期間中のイベント

展示解説の様子 解説者は国立公文書館の竹田俊一公文書専門員(左端)

展示解説の様子
解説者は国立公文書館の竹田俊一公文書専門員(左端)

 広報活動については、年内からふるさと文学館を中心として報道機関や関係団体、県庁内への働きかけが積極的に行われた。開催前に県内のマスコミ各社に大きく取り扱っていただいたこともあり、開催して2日間の来館者数はあわせて638名と幸先の良いスタートとなった。
 期間中のイベントの中心となったのは展示解説である。開催初日の平成30年1月20日は、国立公文書館の竹田公文書専門員に解説していただき、それ以後は文書館職員が担当した。ポスターに記載したのは2日間のみであったが、実際には館内(図書館、ふるさと文学館、文書館)で講演会や研修会が開催された時や、それぞれの関係団体の訪問に応じて数十回行った。そのほとんどはふるさと文学館の展示と共同で行い、双方の展示を見てもらえるように努めた。担当職員の間で緊密に連携し、図書館やそれぞれの館が主催する講演会や講座、外郭団体など来館の際に展示解説を行う旨をアナウンスし、積極的に本展示へと誘うことができた。展示解説の時間を来館者の都合も鑑みて、文学館企画展とあわせて30分程度~1時間と状況に応じて変更したり、予定していない展示解説にも柔軟に対応したりすることができたので、ここでも日常的に業務を連携している強みが発揮されたと思う。1月31日に福井県の西川一誠知事や東村健治教育長が来館し、2月2日には加藤丈夫国立公文書館館長に知事を表敬訪問していただいた後にご来館いただいた。
 1月を終えて来館者数も順調に伸びていたのだが、2月5日以降、福井県内は37年ぶりの大雪に見舞われた。幸い施設上の大きなトラブルはなく臨時休館は1日のみで済んだものの、来館者数は大きく落ち込んだ。降雪が一段落した後も、不要不急の外出が控えられたことや交通手段の回復などが進まなかったこともあり、来館者数は伸び悩んだ。

「明治新政府と近代文学の裏ガワ うんちくトーク」の様子

「明治新政府と近代文学の裏ガワ うんちくトーク」の様子

 そこで館内で協議した結果、もう一度マスコミに取り上げてもらい、本展示を盛り上げる意味合いで展示の裏側を紹介する「明治新政府と近代文学の裏ガワ うんちくトーク」を実施した。これは展示に関連して担当者が知り得た資料にまつわる裏側を紹介するというもので、本展示については文書館職員2人、ふるさと文学館展示については尾崎学芸員が担当した。3人によるリレー形式(20分×3)での講座で、「岩倉使節団に参加した由利公正。アメリカに残された3枚の写真と、意外な随行者とは?」、「字は体を表す?!(明治帝国憲法に署名した大臣たち)」「岡倉天心のボストン美術館での給料は、○○○○ドル!」などをテーマとした。説明が終わった後は、展示会場に移動し実際に資料をみてもらうという流れをとった。急遽開催したものであったが、福井新聞、日刊県民福井などに広報していただいたこともあり、2月25日と3月3日の2日間の開催で合計50人程度の方に参加していただくことができた。参加者の多くは既に一度本展示をご覧になられている方々であったが、担当者の話を聴講するだけでなく、展示を見て気づいたことやわからないことを話してくださる方もおられた。本展示に限らず長期間におよぶ展示は、新規の来館者だけでなくリピーターの獲得が命題となる。今回のように来館者により深い資料の楽しみ方を提供する講座を途中で開催することもその一つの解決策になるのではないかと感じた。

4、展示をふりかえって

 会場内で実施したアンケートで満足度の内訳を見ると、大変良かった(47%)、良かった(37%)、ふつう(8%)、よくなかった(1%)、未記入(4%)となっており、概ね好評をいただけた様子が伺える。個別の意見では「資料集でしか見たことのないものを間近で見られて感動しました」、「福井県成立までの経緯が実物の資料で分かりやすく説明されていて良かったです」、「今後も、福井ではめったに見られない資料の展示をよろしくお願いします」といったものがあり、やはり国立公文書館所蔵資料を福井の地で見ることが出来た点、明治150年の節目の年に地元について知ることができた点などが高い満足度につながったといえる。
 担当としては、予定していた資料の全てを展示できたわけではなかったことが大きな課題として残った。福井県史編さん時には確認できた資料が、本展示の際に所在が不明瞭であるため利用できないということもあった。それらについては今後も継続した調査が必要だと感じている。

5、おわりに

 今回、展示の素案はほとんど国立公文書館より提案していただいたが、その中には過去に文書館において実施した展示が素地となっている部分もあった。その意味では開館して15年間の積み重ねと国立公文書館の資料がうまくマッチングし、本展示に活かされたともいえる。今回の成果に満足することなく今後も地道に展示、講座などを継続・蓄積し、他館との連携を積極的に図っていきたいと考えている。
 最後にこのような貴重な機会を与えてくださった国立公文書館の方々、資料および画像の提供や展示の広報でご協力いただいた関係機関の皆様、本展示にご来場いただいた多くの皆様に厚く御礼申しあげたい。