平成29年度企画展「明治150年~秋田県の誕生~」の開催

秋田県公文書館 公文書班
主任学芸主事 佐々木 康久

1 はじめに

   秋田県公文書館(以下当館)は、平成5年、東北地方で最初の公文書館法に基づく公文書館として設置された。
 当館は、秋田県(以下本県)の公文書と廃藩置県前の秋田藩から引き継いだ文書を中心に、およそ公文書7万3千点、古文書6万8千点、その他行政資料2万7千点の合計17万点の資料を所蔵している。秋田藩を統治していた佐竹家から旧秋田県立秋田図書館を経て当館に移管された文書群である「佐竹文庫」、秋田藩から秋田県が引き継いだ「秋田県庁旧蔵古文書」などの藩政期の文書や、戦前期の「秋田県行政文書」などの公文書を閲覧に訪れる研究者も多く、年間およそ7千名の来館者を迎えている。
 また、毎年、本県の永年保存と保存期限が到来した公文書の引き渡しを受け、評価、選別をして保存、廃棄の決定を行い、プライバシー点検の作業を経て公開を行っている。
 開館以来当館では、一般県民に向けて公文書館の周知や利用促進のため、公文書館講座や県政映画上映会などの普及活動を行っている。ここでとりあげる企画展による当館所蔵資料の紹介も普及活動の一環である。

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企画展ポスター[図をクリック]

2 企画展「明治150年~秋田県の誕生~」への取り組みと内容構成

 今年度の企画展は、本年が明治150年にあたることから「明治150年~秋田県の誕生~」をテーマとして開催している。幸い例年以上に好評で、前期は約3千名が来場し、後期も順調に来場者数を伸ばしている。
 当館の企画展はこれまで、原則として公文書班(主に秋田県の公文書担当)、古文書班(主に近世の文書担当)が隔年で交互に担当してきた。しかし当館の中期業務ビジョンの策定において、今後の企画展を両班共同で担当し、1つのテーマで江戸期以前から明治期以降を通して事象を見ることによる多面的多角的な展示を目指すことになった。
 今年度から新たな体制となった企画展への当館の取り組みについて、以下で紹介していきたい。

(1)企画展準備の視点
 明治維新は日本全体の出来事であるが、中央から見た視点で説明される学校の教科書とは、展開の順序が異なる地域も多い。実際、秋田では、江戸城が無血開城され江戸が東京となった時、まだ戊辰戦争は始まっていなかった。明治に改元された後でも、東北地方ではまだ戦いが続いていた。また、奥羽越列藩同盟でひとまとめにされる北日本であるが、各藩はどのように進むべきかで揺れており、様々な駆け引きがあった。秋田藩などは結果的にこれを脱退し、周辺各藩との戦いが起こった。したがって、当館の企画展では、明治維新や近代化が「秋田で」どう進んだのかを重視し、展示資料の選択やコーナー構成を行った。
 また、中期業務ビジョンで策定された学校との連携を推進する取り組みの一環として、学校の児童生徒が理解できることを意識した展示の内容構成とするようにしている。

展示室全景

(2)展示資料選択について
 企画展では、できるだけ原資料を展示するようにしている。やはり、現物は何かを伝える力を持っていると感じる。しかし展示では、資料を1枚1枚めくって読んでもらうことはできないため、特に簿冊形式が中心の公文書資料は、パネル等の展示に適した形状にした複製品を作製して展示する必要が生じる。資料を選択する際、展示可能な形状の原資料をあくまで選ぶか、複製品が多くなってしまっても見せたい資料を選ぶのか、悩ましいところである。
 また、一般県民に向けた展示である以上、予備知識がなくても読むことや理解することができる内容であることが必要である。それにある程度の展示の見栄えは、一般の人の来場を促すためには必須である。そのため、絵や図の形式になっているものや、少しでも色気のある(墨一色ではなく)ものを展示資料として選択するように心がけている。こうした面で展示資料の選択には、いつも苦心させられる。

複製資料の例(全景の一番左側の資料)※簿冊をA1サイズに拡大。

(3)展示資料を見てもらう工夫~キャプションと複製作製時の留意点~
 展示をする側は、どうしても展示資料に詳細な説明をつけてしまう傾向がある。しかし,来場者にとって説明を読まないとわからない展示は煩わしく、展示から来場者を遠ざける結果になってしまう。また、展示に付されているキャプションを詳細にすればするほど、文字が小さく読みづらくなる傾向がある。
 そこで数年前から、資料そのものをじっくり見て、読んでもらおうという意図から、できるかぎり展示資料に説明をつけないようにしており、説明をつける場合でも3行以内におさめるようにしている。また、複製資料を展示する場合は、資料の文字が十分読める大きさに拡大して作製するようにしている。さらに、説明や題名、資料番号は大きな文字で表示するよう意識し、題名や説明の別により大きさは分けているが、最小でも掲示で38ポイント以上の太字、展示台の上に置いているものでは34ポイント以上の太字を使っている。他の展示施設の職員からは「字が大きすぎるのでは」と指摘されることもあるが、来場者の年齢層が比較的高いこともあり好評である。

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会期中のツイッターの一例[図をクリック]

(4)関連行事
 詳細な説明がない展示で本当に来館者に理解してもらえるのか意見があることと思う。それを補う意味でも公文書館講座の1つとして、企画展の内容を解説する講座も実施している。企画展全般の解説に加え、準備段階での裏話や展示できなかった資料についても取り上げ、資料の利用促進を図っている。本年は館内開講とし、展示室での解説も加えた。例年40名ほどの出席で、展示内容がより深くわかると好評である。
 さらに要望があれば、ギャラリートーク(展示解説)も実施している。

(5)広報活動
 今年度から新たな広報手段として“ツイッター”を採用し、少なくとも週に1回は、所蔵資料の紹介を中心とした情報発信を行っている。開催の1か月ほど前からは、集中的に企画展を取り上げ紹介した。企画展へのマスメディアの取材でも当館のツイッターによる情報発信が話題になった。
 また、学校との連携を図るため、学区内の小中学校と秋田市内の全ての高校には、パンフレット、ポスターを配布している。
 若年層の来場者が例年より増加した印象があることから、これらの効果があったものと考えている。

複製パネルの修正作業

(6)外部発注と内部作製
 企画展開催のためには、展示用パネルの作成やパンフレット、ポスター等の作製が必要である。こうしたものの作製は外部発注をすることも多いが、当館では、パンフレット、ポスターの印刷を除いて内部作製としている。特に制約をつけられているわけではないが、やはり館全体の予算ということは意識せざるをえない。手間はかかるが、近年の機器の進化から外部発注した場合とさほど遜色のない仕上がりが期待できるようになってきている。それ以上に、仕上がりが考えていたものと異なる場合などは修正がフレキシブルにでき、単に経費の削減だけではないメリットがある。


(7)内容構成
   以上の視点から準備を行い、内容構成は次のようにした。

3 おわりに ~来年度への課題~

 今年度企画展への取り組みの概略は以上である。
   取り組みの結果として、次の点が来年度への大きな課題となった。
      ① 中期業務ビジョンによる、近世から現代を貫くテーマでの取り組みの難しさ
      ② 一般県民の当館への理解を図るためのテーマ設定や資料選択の難しさ
      ③ 原資料を展示することと、原資料のよりよい保存条件確保とのジレンマ
      ④ 文書館施設での展示のあり方はどうあるべきか
   こうした課題も、来年度に向け、企画展への早期の取り組みで解決していきたいと考えている。

 なお、この企画展は平成29年11月29日(水)まで開催している。是非、御来場いただき、御高覧いただければ幸いである。
 企画展をとおして、先人の業績に思いをはせ記録を残し伝える公文書館の役割を、少しでも多くの県民の皆様に伝えていければと考えている。