特別展「国立公文書館所蔵資料展~公文書で再発見! 近代日本と福岡のあゆみ」を開催して

福岡共同公文書館
佐藤 浩介

1 はじめに

特別展のチラシ(表面)

特別展のチラシ(表面)

   当館では、平成29年2月21日(火)から3月19日(日)まで、平成28年度特別展「国立公文書館所蔵資料展~公文書で再発見! 近代日本と福岡のあゆみ」を開催した。本展示の主催は、独立行政法人国立公文書館(以下、「国立公文書館」という。)と福岡共同公文書館(以下、「当館」という。)による共催としたが、タイトルに「国立公文書館所蔵資料展」と銘打つことで、これまで当館単独で開催してきた企画展との違いを際立たせ、より多くの集客を見込んだ。
   結果的に、展示期間中は、休館日の月曜を除く24日間で1,206人の方に御来場いただき、これまでにおける当館の企画展等の来場者数を上回る過去最多記録となった。
   以下、本稿では本展示開催の経緯と概要について紹介する。

2 開催の決定

   国立公文書館は、年に1回、地方での館外展示を実施している。平成28年度の開催会場の公募について、平成27年11月に国立公文書館から案内があったため、当館で協議の上応募することとなった。当館は、前年度にも応募したが選に漏れたという経緯があり、「毎年応募することに意味がある」と、今回はあまり期待せずに参加意思表明書を提出したところ、12月に開催決定の通知があり、そこから国立公文書館との具体的な調整が始まった。

展示会場となった1階展示室

展示会場となった1階展示室

   年が明けて2月に国立公文書館の職員の方に御来館いただき、大まかな作業スケジュールと広報、展示構成、展示資料、開催期間等について打合せを行った。開催期間については、既に当館で夏季の戦争関連の企画展を予定していたため、冬季での開催を検討していたところであったが、天候の影響を極力避けるなど、より集客を見込むことのできる時期として、2月21日からの1か月間とすることとした。
   その後、8月に再び国立公文書館の職員の方に御来館いただき、展示内容や広報手段の詳細等について打合せを行った。その他の連絡調整は全て電子メールでのやり取りとなったが、当館からの質問や要望に対して、国立公文書館の担当職員からは非常に丁寧に対応をしていただき、準備を円滑に進めることができた。

3 展示内容

八幡製鉄所に関する展示

八幡製鉄所に関する展示

   本展示のコンセプトは、近代日本と福岡のあゆみを公文書で振り返るというものであったため、我が国の歴史を物語る資料は勿論であるが、福岡にゆかりのある資料も展示の候補として入れていただいた。
   八幡製鉄所の関係では、日清戦争の賠償金が製鉄所開設の財源の一部となったことから、「日清両国媾和条約別約・御署名原本・明治二十八年・条約五月十日」の複製と、「製鉄所官制○製鉄所職員官等俸給令ヲ定ム」の原本を、また、九州帝国大学創立の関係では、「九州帝国大学ニ関スル件ヲ定ム」の原本を展示した。また、八幡製鉄所については、明治日本の産業革命遺産として世界遺産に登録されたこともあり、県の世界遺産登録推進室から写真の提供を受けることができた。九州帝国大学についても、九州大学大学文書館から当時の写真を提供していただき、それらの写真をパネルとして壁面に展示した。
   福岡ゆかりの資料については、他にも、福岡県の誕生を示す明治初期の資料や、福岡県秋月での士族の反乱に関する資料、昭和の大合併における福岡県内市町村の廃置分合に関する資料などを展示し、全体として日本と福岡の歴史を関連付けながら理解できる内容となった。

戦災概況図(複製パネル)のロビー展示

戦災概況図(複製パネル)のロビー展示

   さらに、戦時下の福岡に関係するものとして、国立公文書館が約130都市分を所蔵している「全国主要都市戦災概況図」(空襲被害の状況を示す地図)の中から、福岡、門司、小倉、八幡、戸畑、若松、久留米、大牟田の8都市分を展示した。展示室のスペースの都合上、同時に8枚を展示することが困難であったため、その一部を期間中に展示替えすることにより対応し、これとは別に、展示室の外のエントランスロビーには、8枚分の原寸大の複製パネルをパーテーションに貼った状態で展示した。ロビーでのパネル展示のメリットとしては、展示替えにより原本を出していない期間であっても、パネルとして見ることができるようになった点と、ガラスケース越しでなく、間近に地図を見ることができるため、小さい文字や道路の詳細な状況を確認し、現在の同じ場所と照らし合わせることが容易になった点が挙げられる。
   ちなみに、エントランスロビーでは展示期間の前半と後半で、大日本帝国憲法と日本国憲法の原本の全文を長尺の巻物状にインクジェット出力した複製物をそれぞれ展示した。特に日本国憲法は、施行70周年の年であったことから時宜を得たものとなった。

   他方で、当館の所蔵資料としては、明治4年の廃藩置県の時期に作成された「辞令原簿」と、昭和19年の北九州地区の空襲概要が記された「県政重要事項」の2点を国立公文書館所蔵資料と合わせて展示した。当初は、国立公文書館と当館の資料を同じ分量で展示してはどうか、という意見が館内にあったが、今回は滅多に見ることのできない貴重な資料が福岡にやってくるという、せっかくの機会であるため、国の資料を中心とした展示構成とした。

「福岡の公文書がたどった145年」の一部

「福岡の公文書がたどった145年」の一部

   ただし、今回はメインの展示とは別に「福岡の公文書がたどった145年」と題して、当館の所蔵資料を綴じの形態や印刷手法に着目して展示するコーナーを設けた。この中では、明治期の公文書が、墨を使った手書きのものから活版印刷やガリ版など近代的な印刷物となっていく変遷や、戦時中のスローガンが印字された福岡県の罫紙、戦後の公文書が縦書きから横書きに変わった経過などを紹介した。

4 広報

   本展示の開催に当たっては、県広報テレビ番組やラジオ、県だより平成29年1月号で紹介されたほか、県内各市町村の広報紙にも掲載を依頼し、インターネット版を含む複数市町村の広報紙で紹介していただいた。県政記者クラブには、展示開始の約3週間前に記者提供資料の投げ込みをしたところ、ケーブルテレビを含む地元のテレビ局4社と、新聞社3紙で取り上げられた。特に、地元のブロック紙である西日本新聞で、展示期間中を通して複数回にわたり本展示の記事を掲載していただいたことは、最終日まで来場者数を維持できた要因の一つであると思われる。
   その他には、国立公文書館及び当館のホームページや、県庁の庁内電子掲示板による周知、国立公文書館Twitterでのツイートといった取り組みを行った。来場者の中には、「Twitterを見て展示を知った」といった声もあった。
   また、本展示のチラシとポスターについては、国立公文書館に作成していただいたほか、来場者への配付用として展示解説パンフレットを当館で作成したが、解説文の原稿執筆については、5頁のうち4頁を国立公文書館に依頼した。

5 期間中のイベント

展示解説会の様子 解説者は国立公文書館の中島康比古公文書専門官(当時)

展示解説会の様子 解説者は国立公文書館の中島康比古公文書専門官(当時)

   本展示の初日には、国立公文書館職員による展示解説会を行った。事前の広報が不十分であったことから、当日は人が集まるか若干の心配があったものの、開始時刻の午後2時前後に来場者が増え始め、最終的に30名の方に参加していただいた。当館の展示室は、床面積が約100㎡と狭いため、30名の参加は、多すぎず少なすぎず、理想的な人数であったと思われる。
   2月25日(土)には、福岡市博物館長の 有馬 学 氏をお招きし、展示内容と関連したテーマで、講演会「明治日本の近代化とローカルなネットワーク―文書史料が語る官民の摩擦と協調―」を開催した。講演では、明治日本の基礎を作った「地方の時代」や当時の福岡県の状況について、企業家や政治家などの活動を紹介しながら説明していただいた。本講演会には64名の方に参加していただいた。
   3月4日(土)には、福岡女子短期大学准教授の倉本優子氏による「和綴じ講座」を開催し、20名の方に参加していただいた。本講座は例年当館で開催しているものであるが、公文書館に馴染みが薄い方でも気軽に参加できるものとして、来館者からの人気が高い。講座の開始前には館内見学を行い、本展示をご覧いただくことで、幅広い層の来館者に展示を知っていただく機会となった。

6 展示を振り返って

   冒頭でも触れたとおり、本展示には1,206人の方に御来場いただき、そのうち98人の方がアンケートに回答していただいた。(回答率8.1%)
   その中で「興味を引いた資料、印象に残った資料」を尋ねたところ、第二次世界大戦中の米軍撒布の伝単ビラが最も多かった。これは、米軍機が日本国民に向けて投下したビラで、裏面の空襲予告都市の中に、本県の「久留米」も含まれている。ビラの大きさは137mm×216mmと小さいものであるが、拡大したものをB1パネルで展示した。その他には、戦災概況図、終戦の詔書、宣戦の詔書などの戦争関係資料を挙げた方が多く、大日本帝国憲法の関連資料や民撰議院設立建白書など、歴史の教科書に出てくる資料も人気が高かった。
   全体の感想としては、「満足」が65.3%、「どちらかといえば満足」が31.6%で、その多くが国立公文書館所蔵の資料を目にすることができてよかったというものだった。また、興味を引いた資料、印象に残った資料として「福岡の公文書がたどった145年」を挙げた回答も意外と多く、「時代や技術の変化に対応して少しずつ形式や印刷方法が変化していることが分かった。展示の必要性と面白さを感じた。」との感想をいただけたことは、当館職員としても励みとなった。

7 おわりに

   当館は平成29年に開館5周年を迎える。今後も展示会をはじめ様々な催しを地道に続けていくことで、地域住民に公文書館の存在とその役割を知っていただくよう努力していかなければならない。そのような中で、今回の展示を国立公文書館と共催で実施できたことは、これからの当館の活動においても大いに参考となるものであった。国立公文書館の方々、資料の提供やキャプション内容の検討・修正、展示の広報等で御協力をいただいた関係機関の皆様、そして、本展示に御来場いただいた皆様に厚く御礼申し上げたい。