情報公開・個人情報保護制度の運用面における諸課題―現実と新たな動向

日本大学法学部
教授 友岡 史仁

はじめに

   行政文書に関する情報公開・個人情報保護制度が整備されて以降、国民の間にはその存在が広く認識されるようになり、制度として成熟化してきている。このことは、特に制度の利用者である国民において、制度の利用率が増加し、またそのことにより様々な具体的な諸課題が生ずることにつながる。
   すなわち、開示請求を行う側(利用者である国民)と開示請求を受ける側(行政文書を保有しそれを求めに応じて提供する行政)との間で利害の“対立”が生じる可能性があることを意味する。具体的には、行政文書の開示請求があった行政機関等が不開示とされるべき情報(以下、「不開示情報」という。)に該当するとして不開示の決定を行い、この決定に対する不服を申し立てた時に行われる一連の手続において求められる公正・透明性、といったことなど、行政文書の開示というモメントにおいて求められる諸種の原則が本当にその利用者のために機能しているのかが問題となる場合があり、開示請求を行う側の利益という視点を今一度想起する必要があるものと思われる。
   そこで、こうした視点から、本稿では、2017年1月17日に国立公文書館において実施されたアーカイブズ研修Ⅱの中で本稿筆者が担当した講演(「情報の公開・利用と個人情報保護―基本的考え方―」)で用いたレジュメ等を基にしながら、地方公共団体(以下、「自治体」という。)における行政文書の不開示処分に対する不服申立てに際し、実施機関により諮問され答申を出す審査会(その他「審議会」といった名称を用いることがあるが、本稿はこれに統一する)の委員として務める自らの経験等を踏まえたうえで、情報公開・個人情報保護制度が抱える現在的な諸課題をいくつか取り上げることにしたい。

1 不開示情報の該当性において考慮すべき課題

1.1 条文構造の確認
   行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下、「行政機関情報公開法」という)を例にとれば、次のような条文の構造となっている。
   ①   何人も行政文書の開示を請求する権利があること(3条)
   ②   行政機関の長には不開示情報に該当しない限りは請求された行政文書を開示する義務があること(5条本文)
   ③   不開示情報には6つのカテゴリー(個人情報、法人情報、国の安全等情報、犯罪捜査等情報、審議検討情報、事務事業情報)が設けられていること(5条各号)
   ④   全部開示を原則とし、開示の方法には部分開示(6条)、公益上の理由による裁量的開示(7条)、存否応答拒否による不開示(8条)による複数の方法が別途規定されていること
といった具合である。この構造の全体を要約するならば、何人も開示請求権を有する行政文書にあっては、条文に規定された不開示情報のカテゴリーに該当しない限り原則全部開示されなければならず、そうではない場合に複数の開示・不開示の方法が規定されることになる。
   この構造において、制度の運用上今一度注意しなければならない点としては、上記②と③の関係性であり、行政機関情報公開法5条本文が明示するように、不開示情報の「いずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない」とあることから、不開示情報はあくまで例外的な場合にのみ認められるという原則である。
   したがって、例えば行政機関の長として、開示請求があった後はとりあえず不開示情報に該当する決定を行ったうえで、この決定が不服である場合にその開示・不開示を判断しようとする対応は、以上のような行政機関情報公開法における条文の構造からも認められないことになる。
   ここでは、行政機関情報公開法に限定して説明したが、同じことは、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律のほか、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下、「行政機関個人情報保護法」という。)などの行政文書に関わる個人情報保護制度、そして、地方公共団体における情報公開・個人情報保護制度についても妥当する。

1.2 踏まえるべき諸課題とは?
   次に、不開示情報の該当性を判断するうえで、行政機関の長としてふまえるべき諸課題とは何か。以下では、代表的なものを挙げておきたい。
   第1に、不開示決定が行政手続法における「申請拒否処分」に当たる点であり、この場合に同法は「理由の提示」を必須としているように(8条)、なぜ不開示とせざるを得ないのかを、開示請求者に対し、記載自体から了知しうるようにしておかなければならない[1]。これは、行政手続法における理由提示の程度の解釈問題になるが、判例(最判昭和60・1・22民集39巻1号1頁)にも示される通り、不開示決定の場合は開示請求された当該行政文書がなぜ一つまたは複数の不開示情報に該当するかを明確に示しておく必要がある。
   そもそも、この不開示に係る理由提示の機能として、恣意抑制機能や不服申立便宜機能が一般的に掲げられるところ[2]、不開示情報の該当性を語るうえでも、この点を当然意識する必要があろう。中でも、不服申立便宜機能とは、不利益処分の名宛人が不服申立て段階で主張しやすいよう事前に理由を明らかにしておくことを意味するが、これは次に見るように、特に行政機関の長から諮問を受けた審査会が不開示決定の具体的内容を審査するうえでの重要な判断事由になることも忘れてはならない。
   第2に、不開示情報のうち、容易に使われやすいカテゴリーの一つに事務事業情報がある。行政機関情報公開法でいえば、「国の機関……が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」(5条6号本文)として条文にはその例示が規定されている(事務事業情報は、自治体レベルでは「行政運営情報」と称されることがある)。
   事務事業情報の特徴は、仮にそれらが開示されることで被る不利益がもっぱら行政運営上のそれを意味する[3]。条文の規定も「当該事務または事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」とあるが、本来、「おそれ」とは蓋然性を指すとされるところ[4]、想定される「支障」を行政運営側に引き寄せる形で、蓋然性に満たない状態であってもそれに含めようとする場合が想定される 。これは、事務事業性のある行政活動は広範囲に上るため、条文の構造上はあくまで例示せざるを得ず、仮にその中に明示されないものであっても不開示情報の該当性を容認する趣旨と解されることに基づく。しかし、だからこそ、不開示決定の段階において不開示情報の該当性を十分に根拠づけておく必要があると考えるべきであろう。

2 不服申立てに際し配慮すべき諸点

2.1 行政不服審査法との関係
   開示請求者は不開示決定を受けた後、その決定を不服として審査請求を行うことができる。この請求は行政不服審査法に基づくものであり、同法に規定する手続に従い行われるものである。
   行政不服審査法は、平成26年法律第68号による改正(以下、「改正行審法」という。)に伴い、簡易迅速な審理とあわせ、公正な審理の確保を実現する新たな諸制度を導入した。しかし、次に見るように、行政機関情報公開法18条と行政機関個人情報保護法42条は、改正行審法によって導入された審理員制度に関する関連規定を適用除外としており、その結果、引き続き情報公開・個人情報保護審査会による審理が認められている。同じことは、自治体にも当てはまる。
   しかし、不服申立人と処分庁(行政機関情報公開法の場合は「行政機関の長」)との間に立って、審査会が客観的立場から「公正な審理」を実現するためには、改正行審法の趣旨に照らして配慮すべき諸点があることも事実である。これを次に見ておくことにしよう。

2.2 審査会の客観的審理を充実化させるために
   改正行審法が「公正な審理」を実現すべく同法第2章第3節では「審理手続」としているところ、先述のようにこの規定は審理員制度に関わるものであるため、行政機関情報公開法18条1項および行政機関個人情報保護法42条1項ではともに改正行審法第2章第3節を適用除外にしている。しかし、不開示情報の該当性を審理するに当たり、それが審査請求によってなされた手続に則る以上、改正行審法の趣旨を極力踏まえることが重要である。例えば、改正行審法では行政機関の長による弁明書とそれを受けた不服申立人による反論書のそれぞれの提出権を保障しているが(29・30条)、反論書を前提として弁明書の提出がなければならないことを念頭に、行政機関の長による弁明書の提出が積極的に行われ、当事者間での充実した審理に貢献することなどが期待される。
   以上のほか、改正行審法とは直接関係しないが、審査会が開示請求の対象とされた行政文書を直接見分したうえで審査し答申を出す「インカメラ審理」を行う場であることを、今一度忘れてはならない。この点に関わる一例として、請求対象文書が大量であることもありうる点である。すなわち、実務上、大量の文書を審査会で審理する際、事務作業の煩雑さから、例えば文章の一部を抜粋するといった作業が考えられる。確かに、この場合であっても、委員から求められれば、開示請求に際し特定された行政文書を後日にでも提出できる状態にしておく準備ができていればよいとの見方もあり得る。また、とりあえず開示請求があった行政文書の範囲を特定し、後日、審査会の議論があれば、もう一度特定しなおすといった運用方法も考えられないではない。
   しかし、いずれも行政側から見た事務作業の煩雑さゆえに生ずる運用方法であると考えられる。むしろ、実際に文章を見てこそ公正な審理を実現できるとするのが、先にとらえた「インカメラ審理」の趣旨と解される。このためには、文書全体を眺めながら必要に応じて開示または一部開示といったできるだけ開示請求を行う側の立場に立ち公正な審理が行われるためには、委員の要求に応ずるか否かにかかわらず、審理の場で開示請求対象の行政文書を正確に特定したうえで、それらに即アクセスできるようにしておくよう事前の準備を欠かさないことが求められよう。

3 最新の展開を見据える意義―行政文書の利活用という視点

講義風景(友岡教授)

講義風景(友岡教授)

   インターネット社会の中で、行政文書もその利用価値が高まっているが、その利用(活用も含めて「利活用」と称する)の仕組みを整備することで、社会への還元が期待されるところである。ここで利活用とは、行政文書がデータ化され、それが機械判読可能な情報として第三者に利活用されることを念頭に置くものである[6]。
   利活用の方法は、行政機関が事前に定めるべきものではなく、第三者がこれをビジネス・チャンスととらえて開発を目指すものである。したがって、これまでの情報公開・個人情報保護制度とは一線を画する別次元の話となる。
   上記の講演では情報公開制度を中心に、1.および2.の項目を取り上げたため、データ化された行政文書の利活用については、簡単な言及にとどまった。ここでも詳述する余裕はないが、行政文書は秘匿すべきものとの発想では利活用の実現可能性がないため、そうした環境が整うのに先立っては、少なくとも情報提供という視点に立って、行政機関自らが行政文書を積極的にデータ化し、それらを第三者に開示する姿勢が強く求められよう。
   平成28年法律第51号による行政機関個人情報保護法の改正によって、従前は行政文書として開示請求の対象に含まれてきた「個人情報」とは異なる新たなカテゴリーとして「行政機関非識別加工情報」が規定されたが(2条9項、第4章の2)、それに関わる行政文書の利活用が、今後の本格的な運用上の争点となる。
   なお、これとあわせて、第192回国会において平成28年法律第103号として官民データ活用推進基本法が成立したことは、上記に見た利活用を行政機関が自ら促進する意識を高める必要性があることを物語るものといえよう。

おわりに

   本稿では、行政文書に関わる現代的課題について、行政機関情報公開法を中心に、類似の制度を持つ行政機関個人情報保護法を視野に入れ、取り上げてきた。そして、情報公開・個人情報保護制度が成熟化し国民に対し浸透している証拠として、不服申立制度の活用を指摘できるが、本稿では、その場合に存する制度固有の課題について言及した。その際、行政文書が原則開示されるべきであるといった基本に立ち返る必要性があることを強調しておきたい。
   この場合、開示請求者という利用者側の視点が重要であることは言を俟たないが、それを充実化させるためには、手続的な配慮が求められるのではないか。今後とも、そのような制度運用を心がけ、制度を利用する国民自身の立場を踏まえた運用がなされるべきである。

[1]   したがって、不開示決定については行政手続法の規定があるが、行政機関情報公開法9条2項は、全部不開示のほか存否応答拒否および文書不存在の時には不開示決定し、書面により通知を行うものとしている。その際の理由提示の程度については、宇賀克也『新・情報公開法の逐条解説〔第7版〕』(有斐閣、2016年)136―137頁参照。さらに、友岡史仁「「行政機関情報公開法」の適用」法学教室408号(2014年)8頁参照。
[2]   判例も含め、塩野宏『行政法Ⅰ行政法総論〔第6版〕』(有斐閣、2015年)296頁参照。
[3]   友岡史仁「行政運営情報と公務員情報」岡田正則ほか編『現代行政法講座Ⅳ自治体争訟・情報公開争訟』(日本評論社、2014年)255頁以下参照。
[4]   例えば、宇賀・前掲注(1)118頁参照。
[5]   「おそれ」の文言に関する解釈の違いとして、友岡・前掲注(1)5―6頁参照。
[6]   これは「オープンデータ」と称される新たな制度であるが、この制度の意義を情報公開制度からアプローチして論じたものとして、友岡史仁「日本におけるオープンデータ法制の構築と課題」行政法研究16号(2017年)103頁以下参照。