(巻頭エッセイ)ふるさとの記録と記憶を守る取り組み

国立公文書館長
加藤 丈夫

大仙市アーカイブズの開館式で挨拶する加藤館長

大仙市アーカイブズの開館式で挨拶する加藤館長

   先日(5月3日)、秋田県の「大仙市アーカイブズ」の開館式に出席しました。
   施設は閉校となった小学校を改装したものですが、木材をふんだんに使った新品同様の立派な建物で、延床面積が4,464平方メートル、書架延長は7,309メートルもあり、資料は27万点を収納できるという規模の大きさに驚きました。
   名称も敢えて「アーカイブズ」(全国の自治体では天草市に次いで二つ目)と付けたのは、老松大仙市長が開館の挨拶で述べた「ふるさとの記録と記憶を守る」という決意のように、行政文書だけでなく広く地域の歴史的な文書を収集・保存していこうという意気込みの表れでしょう。
   資料の搬入はこれから始まるということで、事業を軌道に乗せるにはまだまだ苦労が多いようですが、東北の市町村では初めてとなるこのアーカイブズへの期待も大きく、私自身も関係者の話を伺いながら「国立公文書館としても何かお役に立ちたい」という気持ちを強くしました。
   一方、国立公文書館についても、4月に新館建設の場所が決まり、計画の具体化に向けて動き始めたところですが、現場の運営に携わる私たちにとっての最大の課題は、新しい建物に相応しい内容を整備することであり、そのためにはこれを推進する人材の確保と育成に取り組まなければなりません。
   こうした対策の一環として、現在当館では人材育成の基礎資料となる職務基準書の策定を進めており、将来は専門家としてのアーキビストの認証制度に結び付けたいと考えているのですが、この4月、学習院大学で開催された「日本アーカイブズ学会」の2017年度大会でもこの問題を取り上げたシンポジウムが行われました。私もこれに出席して当館の取組を報告しその後の討論に参加したのですが、会場の学会関係者からは活発な意見が相次ぎ、改めてこのテーマに対する関心の高さを感じました。
   改めて言うまでもなく、人材の確保と育成は全国に約90か所ある公文書館・アーカイブズ共通の課題であり、この解決には公文書館だけでなく大学や学会その他の関係団体が緊密に連携して取り組んでいく必要がありますが、いまそうした動きは確実に広まりつつありますし、大仙市に出かけて考えた「国立公文書館として何か役に立つこと」のポイントもそこにあるように思います。
   いま国が推進している「地方創生」は必ずしも成果が上がっているところばかりではないかもしれませんが、大仙市アーカイブズが掲げるような「ふるさとの記録と記憶を守る」取り組みはその有効な対策の一つになるのではないでしょうか。
   その意味でも新しいアーカイブズの成功を心から期待しています。

(終わり)