記録管理の国際標準ISO15489-1の改定について

国立公文書館 統括公文書専門官室
公文書専門官  中島 康比古

1.はじめに
   2016年4月、記録管理の国際標準ISO15489-1の第2版(ISO15489-1:2016 -Information and documentation-Records management-Part 1: Concepts and principles.「情報及びドキュメンテーション-記録マネジメント-第1部:概念及び原理」。以下「第2版」という[1]。)が、国際標準化機構ISO(International Organization for Standardization)から発行された。これは、2001年9月に発行された第1版(Information and documentation -Records management -Part 1:General.以下「第1版」という。)を約15年ぶりに大幅に改定したものである。
   ISO15489-1の第1版は、1996年に策定された記録管理に関するオーストラリア標準(Records management : Australian standard AS4390 -1996.以下「AS4390」という。)をベースに国際標準化された。第1版は、世界各国で国内標準として採用されており、我が国においても2005年7月にJIS化された(JIS X 0902-1:2005「情報及びドキュメンテーション―記録管理―第1部:総説」)[2]。
   ISO15489-1の原案や改定案の作成などは、ISOの専門委員会(TC)の一つであるTC46(情報とドキュメンテーション)に設けられた分科委員会SC11(アーカイブズ/記録管理)が行っている。ISOTC46/SC11では、これまでに記録管理のためのメタデータに関する標準ISO23081[3]や記録マネジメントシステム標準ISO30300シリーズ[4]などの原案作成などを行ってきたが、これらの標準策定の経験をふまえ、電子化の更なる進展や組織活動の透明性・公開性向上に対する社会からの要請の高まりなど、記録管理をめぐる環境の変化などを背景にして、第2版は発行されたと考えられる。
   本稿では、ISO15489-1第2版について、注目すべき点をいくつかピックアップして紹介することとしたい[5]。なお、当館は、平成18年度以降、ISOTC46/SC11の国内委員会に職員を委員として派遣しており、その大半の期間、筆者は同委員会委員を務めているが、本稿は、筆者個人の見解に基づくものであり、当館及びISOTC46/SC11国内委員会のいずれのものでもないことをお断りしておく。

2.適用範囲(scope)と定義-何を対象とするのか?
   第2版は、記録の作成、捕捉(取込み(capture))及び管理への対処法策定の基盤となる概念及び原理を定義するとし、それらの概念及び原理は、
・記録、記録のためのメタデータ及び記録システム
・効果的な記録管理を支える方針、責任の割り当て、監視及び研修
・業務コンテクスト分析の循環及び記録要求事項の特定
・記録制御(records controls)
・記録の作成、捕捉及び管理のためのプロセス
などに関連するとしている。また、第2版は「時を超えた」(over time)記録の管理等に適用されるとしている。これは、アーカイブズ機関内部のアーカイブ記録の管理を含まないとしていた第1版との大きな相違点として、注目に値しよう。
   次に、「記録」(record(s))の定義について。第2版では、「組織又は個人が、法的義務の履行又は業務遂行において、証拠として、及び資産として、作成、取得及び維持する情報」(下線は引用者による。以下同じ。)と定義された。これに対して、第1版では「組織又は個人が、法的義務の履行又は業務遂行において、証拠及び情報として、作成、取得及び維持する情報」と定義されていた。第2版における「記録」の定義は、第1版の「情報」という語の繰り返しを避けるとともに、過去から現在までに作成・取得された記録が、現在及び将来の活動を支える「資産」として活用しうることに着目したものと言えよう[6]。

3.記録、記録管理及び記録システムに求められるもの
   第2版が記録管理の基盤として定義する原理とは、次のものであるという。
・記録の作成、捕捉及び管理は、あらゆるコンテクストにおいて、業務遂行の一体不可分な要素である。
・記録は、真正性、信頼性等の特性を備えているとき、業務の信頼できる証拠となる。
・記録は、内容及びメタデータから成る。メタデータは、時の経過に伴う管理のみならず、記録のコンテクスト、内容及び構造を記述する。
・記録の作成、捕捉及び管理に関する意思決定は、業務上、法的及び社会的コンテクストにおける業務活動の分析及びリスク評価に基づいて行われる。
・記録管理のためのシステムにより、記録制御及び記録の作成・捕捉・管理に係るプロセスの遂行が可能になる。また、そのシステムは、特定された記録要求事項を満たすため、方針、責任、監視・評価及び研修の決定に拠る。
   これらの原理に基づいて、記録は、真正性(authenticity)、信頼性(reliability)、完全性(integrity)及び利用性(useability)を備えているとき、信頼できるものとなる。また、そのような信頼されるべき記録を扱う記録システム(records systems)は、記録制御を適用し、記録の作成・捕捉・管理のためのプロセスを実行し、記録の内容と記録のためのメタデータ(metadata for records)の論理的関係の作成・維持を支えるべきであるとされる。そのためには、記録システムは、信頼性(reliable)、安全性(secure)、コンプライアンス(compliant)、包括性(comprehensive)及び体系性(systematic)を備えるべきであるとされる。
   第1版では、「原理」に関する記述は、記録管理に係る要求事項を扱う章で、「記録管理プログラムの原理」として、記録の特性と並列的に置かれていたが、第2版では、独立した章で、記録管理全体を貫く原理として端的に示されており、論点が明確かつ分かりやすくなったといえる。一方で、記録及び記録システムが備えるべき特性に関する記述は、ほぼ第1版の考え方を引き継いでいる[7]。
   なお、第1版では、「記録システムの設計及び実施」として、オーストラリアのニュー・サウス・ウェールズ州公文書局及び連邦政府の国立公文書館において策定されたDIRKS方法論と同様の詳細な手順が示されていたが、第2版では、全面的に削除されている[8]。

4.評価(appraisal)
   「1.はじめに」で述べたとおり、ISO15489-1の第1版は、AS4390をベースに策定されたが、その際、AS4390に元々存在していた「評価」(appraisal)の概念は採り入れられなかった。AS4390において「評価」は、

業務上のニーズ、組織のアカウンタビリティ要件およびコミュニティの期待を満たすために、どのような記録を捕捉し、どの程度の期間保存する必要があるのかを決定するための業務活動の評価プロセス

と定義されていた。
   これに対して、今回の第2版では、「評価」の概念が採り入れられ、独立した1章が与えられた。その定義は、

どの記録が作成・捕捉される必要があるか、及びどの程度の期間保存する必要があるのかを決定するための業務活動の評価プロセス

というものである。そして、「評価」のプロセスとして、(1)実施範囲の決定、(2)業務の理解、(3)記録要求事項の確定、(4)記録要求事項の実現が示される。そのうち、記録要求事項の確定は、業務活動とそのコンテクストの分析に基づき、業務上の必要性、法的・規制的要求事項及びコミュニティ又は社会の期待に由来するとしている。
   このように、第1版で採用を見送られたAS4390における「評価」概念と同様のものが第2版において国際標準化されたといえ、今回の改定における重要なポイントの一つとなっている。付言すれば、第2版には、「評価」(appraisal)という語の伝統的用法を拡張するとの注記があり、原案作成者たちの「意気込み」のようなものを感じることができる[9]。第2版においては、「評価」の対象は、記録ではなく、むしろ、記録が必要とされるコンテクストとしての業務活動であり、作成された記録を選別するのではなく、どのような記録を作成・捕捉すべきなのか、そして、その記録を管理すべき期間の長さはどれくらいなのかを決定するための「評価」であるとされていることを確認しておきたい。

5.記録のためのメタデータ(metadata for records)
   記録を適切に管理するためには、メタデータの適切な管理も必要であるといわれる。特に、人間が直接的に認識できない、電子記録などの「機械可読」(machine-readable)記録の管理においては、必須であるともいわれる。
   ISO15489-1の第2版では、メタデータに関する記述が、第1版に比べて豊かになった。
   まず、「記録のためのメタデータ」は、

時間の経過に伴う、ドメイン内部及びドメイン間における記録の作成、管理及び利用を可能にする構造化又は半構造化された情報

と定義される[10]。
   その上で、記録のためのメタデータは、業務コンテクスト、記録及び記録システム間の依存等の関係、法的・社会的コンテクストとの関係、並びに記録を作成・管理・利用するエージェント(agent)との関係を表現すべきであるとする。また、付与する時期により、記録が作成又は捕捉される際に付与される「捕捉時メタデータ」(point of capture metadata)と、記録が存在する間に記録に対してなされる行為等について記述する「プロセス・メタデータ」(process metadata)があるとされている[11]。
   メタデータは、評価(appraisal)の結果から得られる情報を踏まえて策定されるメタデータ・スキーマに記述・記録されるべきであるとの指摘もある。メタデータ・スキーマは、「メタデータ・エレメント間の関係を示す論理的計画」であるとされる。また、記録制御(records controls)のツールの一つと位置付けられ、「記録」「エージェント」「業務」等のエンティティ(entity)と関わる。記録管理で用いられるメタデータには、次の6つのクラスがあるとされる[12]。すなわち、
・エンティティを特定する「アイデンティティ」(identity)
・エンティティの性質を示す「記述」(description)
・エンティティの利用を促す「利用」(use)
・処分(disposition)情報などエンティティの管理に用いられる「イベント・プラン」(event plan)
・エンティティとメタデータの双方に関わる過去のイベントを記録する「イベント・ヒストリー」(event history)
・エンティティと他のエンティティの間の関係を記述する「関係」(relation)
である。
   以上のような第2版におけるメタデータに関する記述は、その多くを記録管理のためのメタデータに関する標準ISO23081に負っており、そのエッセンスが活用されているともいえる。

6.おわりに
   以上、ISO15489-1第2版について、かいつまんで紹介した。
   本稿では詳しく触れなかったが、第2版では、記録管理に関わる者の責任の割り当てに関して、「記録専門職」(records professionals)は「記録管理の諸側面に全体的又は部分的に責任を有する」とされており、「記録管理専門職」(records management professionals)が「記録管理の全側面に責任を有する」としていた第1版との興味深い変化なども見られる[13]。
   本稿が、記録・文書の管理に関心を有する方々に対するISO15489-1第2版の案内として、役立つものとなっていれば幸いである[14]。

[1]各標準の日本語標題については、一般財団法人日本規格協会のウェブストアで提供されている仮訳によった(http://www.jsa.or.jp/store/index.html)。
[2]ISO15489の第1版を解説・紹介などしたものに、斎藤修・西川康男「国際規格『レコードマネジメント』の制定」『行政&ADP』2002年1月号、小谷允志「国際標準から見た日本の文書管理の課題-ISO15489の意味するもの-」『レコード・マネジメント』第45号(2002年)、同「記録管理の国際標準ISO15489」『情報管理』第48巻第5号(2005年)などがある。
[3]ISO 23081-1:2006 -Information and documentation -Records management processes - Metadata for records - Part 1: Principles(「情報及びドキュメンテーション-記録マネジメントプロセス-記録用メタデータ-第1部:原理」)、ISO 23081-2:2009-Information and documentation - Managing metadata for records - Part 2: Conceptual and implementation issues(「情報及びドキュメンテーション-記録用メタデータの管理-第2部:概念及び実施上の問題点」)などがある。なお、朝日崇「ISO23081-1、23081-2について」『レコード・マネジメント』第56号(2008年)も参照。
[4]ISO 30300:2011-Information and documentation -Management systems for records -Fundamentals and vocabulary(「情報及びドキュメンテーション-記録のためのマネジメントシステム-基本及び用語」)、ISO 30301:2011-Information and documentation - Management systems for records - Requirements(情報及びドキュメンテーション-記録のためのマネジメントシステム-要求事項)などがある。なお、渡邊健・小谷允志・伊藤真理子・小根山美鈴・白川栄美・山田敏史「記録管理の国際標準『ISO30300』への期待と和訳試案」『情報管理』第57巻第5号(2014年)も参照。
[5]本稿作成に当たり、ニュージーランド国立公文書館(Archives New Zealand)のブログポストThe digital world and records management – ISO 15489を参照した(http://records.archives.govt.nz/toolkit-blog/the-digital-world-and-records-management-iso-15489/ accessed on July 12, 2016.)。
[6]第2版における「記録」の定義は、2011年に発行された記録マネジメントシステム標準ISO30300のものと同一である。
[7]記録システムの特性中、第1版で「完全性」(integrity)とされていた内容が第2版では「安全性」として説明されている以外は、第2版は第1版の考え方を継承している。
[8]第2版では、記録の管理等に係る「プロセス」として、作成、捕捉、分類、アクセス制御、保管、利用・再利用、マイグレーション/コンバージョン及び処分(disposition)について記述されている。なお、オーストラリア連邦政府では、現在、DIRKS方法論は、リソースを過剰に消費することなどから、廃止されている(DIRKS方法論については、拙稿「レコードキーピングの理論と実践:レコード・コンティニュアムとDIRKS方法論」『レコード・マネジメント』第51号(2006年)等を参照。)。
[9]本稿では、伝統的用法の拡張という第2版の意図を汲んで、appraisalの訳語として、伝統的な「評価選別」ではなく「評価」を試みに用いた。
[10]この定義は、2007年に発行されたISO23081-2のものと同一である。なお、ISO15489-1の第1版における「メタデータ」の定義は「記録のコンテクスト、内容及び構造並びに時の経過に伴う記録の管理について記述するデータ」であった。
[11]国際公文書館会議が2005年に作成した報告書『電子記録:アーキビストのためのワークブック』における「記録管理(recordkeeping)メタデータ」と「アーカイバル・メタデータ」の区別を想起させる(国際公文書館会議電子環境における現用記録管理委員会『電子記録:アーキビストのためのワークブック』(日本語改定版、2006年)49頁(https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/ICASTUDY16_ELECTRONIC_RECORDS_JPN.pdf))。
[12]第2版では、メタデータ・スキーマ以外の「記録制御」のためのツールとして、業務分類体系、アクセス許可ルール、処分規準(disposition authorities)が挙げられている。
[13]ただし、「記録専門職」(records professionals)という用語は、今回のISO15489-1第2版が初出ではない。ISOTC46/SC11が扱う記録管理に関する国際標準では、管見の限り、2009年発行のISO23081-2に見られる。
[14]本稿の脱稿後、西川康男「デジタルコンテンツの時代に向けて ISO15489-1が15年ぶりに改定発行」『RECORDS & INFORMATION MANAGEMENT JOURNAL』第31号(2016年6月)を入手した。