倉敷市歴史資料整備室の取組みについて

倉敷市総務局総務部
山本 太郎

1. はじめに

歴史資料整備室がある倉敷市真備支所

歴史資料整備室がある倉敷市真備支所

   倉敷市は、岡山県南部の瀬戸内海に面する、人口約48万人、面積約356㎢の市で、鉄道網と高速道路網が市内で交差する広域交通網の結節都市である。昭和42年に倉敷市・児島市・玉島市が合併し、新しい倉敷市が誕生した。平成14年に中核市に移行し、平成17年に船穂町・真備町を編入した。倉敷市で公文書館機能を担っている総務課歴史資料整備室の取組みについて紹介する。

2. 市史編さんから歴史資料整備室へ
   倉敷・児島・玉島の旧3市合併による新市発足20周年を記念して、後世に誇り得るわが郷土の歩みを集大成し、市民共有の文化的財産としてこれを継承していく」ために、倉敷市は平成元年度から、『新修倉敷市史』全13巻編さん事業に取り組んだ。平成元年11月に第1回倉敷市史編さん委員会と倉敷市史研究会発足会を開催し、平成2年度には総務局総務部内に市史編さん室を新設した。
   市史編さんの基本方針のひとつが、「資料の収集は、できるだけ広範囲におこない、収集した資料を客観的に解釈し、これらをもとに記述する」ということであり、市史編さんにあたっては、資料調査は可能な限り幅広く行い、目録作成やマイクロフィルムでの撮影を推進した。近世・近代地方史料調査は、個人95件・寺社13件・機関27件になった。市史編さん完了後の資料の保存と活用を見据えて、民間からの資料寄贈や市役所内からの歴史公文書の移管も積極的に進めていった。
   平成5年度から『新修倉敷市史』の刊行が始まり、平成17年3月に全13巻が刊行された。平成13年度から市史編さん室は総務部総務課に統合され、総務課が市史編さん事業を引き継いでいた。平成15年度までは「市史編さん事業」を行ったが、平成16年度には新たに「歴史資料調査研究整備事業」を設けて「市史編さん事業」と並行して進め、平成16年度で市史編さん事業が終了したのに伴い、平成17年度から「歴史資料調査研究整備事業」だけになった。倉敷市総務局総務部総務課の事務分掌のうち「歴史資料の調査、収集及び整理に関すること」「歴史資料の保存及び活用に関すること」がある。
   編入合併を間近に控えた平成17年8月、編入する船穂町・真備町長宛に市長名で、合併に伴って貴重な公文書等が散逸したり、安易に廃棄されたりすることのないよう、特段の配慮をお願いする依頼文を送付した。
   倉敷市が、市史編さん終了後も歴史資料整理と研究紀要の発行を責任ある体制で行うことを支援する組織として、平成17年度から「倉敷市文書館(アーカイブズ)研究会」を発足させ委託契約した。構成員は市史編さんに携わった有識者11人で、委託業務は、歴史資料として重要な公文書・古文書等の調査・収集・整理、研究誌『倉敷の歴史』の編集、公文書館に関する調査研究その他の業務である。平成21年度からは、事業の透明性を高めるため研究会を直営事業とした。
   市史編さん室のときの平成5年度から市役所本庁舎10階の部屋で執務していたが、平成18年4月1日から、部屋の名称をそれまでの「総務課市史編さん」から「総務課歴史資料整備室」に変更した。市史編さん事業の過程で収集した膨大な古文書・公文書等の歴史資料は非常に貴重な資料であり、市民の大切な財産でもある。そのため、歴史資料の調査・収集・整理と、保存・活用を継続して推進することが重要であるからというのがその理由である。

3. これまでの活動

種類
点数
 古文書
 138,968 
 歴史公文書
 40,331 
 寄贈フィルム
 33,933 
 寄贈写真
 12,226 
 書籍
 9,540 
 その他
 44,629 
 合計
 279,627 

    市史編さん事業終了時に、市議会において公文書館設置について多数の質問がされたことにより、倉敷市としての公文書館のあり方について、関係部署から意見等を聴取するとともに、歴史資料として重要な公文書等の定義、調査・収集・整理及び保存・活用方法など基本的な方向性を示すことを目的として、市職員による「公文書館のあり方検討会」を設置し、平成18・19年度の両年度で公文書館の設置について調査・検討を進めた。検討会の構成は総務部長を会長として、関係部局の職員13人で、古文書を含めた公文書館の設置に向けて調査・検討を進め、平成19年11月に報告書を作成した。
   歴史資料整備室が保管する歴史資料は、市役所本庁舎10階・市立美術館収蔵庫・文書史料庫等に分散して保管していたが、より安全で質の高い保存環境を確保し、体系的な整理を行うため、平成21年11月に倉敷市真備支所3階(旧真備町の議会スペース)に集約して保管し、歴史資料整備室もそこへ移転した。これは既存遊休施設の有効利用という視点もあったと思われる。

   総務課歴史資料整備室所蔵資料は、平成28年3月末現在で約28万点であり、内訳は表のとおりである。ただし、整理途中であるため、数量は概数部分を含んでいる。特徴としては、古文書・歴史公文書ともに現物資料が豊富にあることである。また、写真業を営み、市域の空撮や定点撮影業務を請け負ってきた市民から、フィルムや写真を多数寄贈された。これらのうち、約21万6000点は目録ができており、閲覧可能になっている。
   歴史資料整備室の人員は現在のところ、正規職員1人、非常勤嘱託員3人(うち2人は歴史資料専門員)である。事業としては、図のように、Ⅰ歴史資料の調査・収集・整理、Ⅱ歴史資料の保存・利用、Ⅲ普及事業という柱がある。
   Ⅰのうち、歴史公文書の移管では、保存期間が満了した市の行政文書を、現物をみながら選別し、保存期間を超えて必要な情報が含まれるものは歴史資料整備室へ移管しているほか、合併した旧町村役場の公文書も歴史資料整備室へ集約している。また、地域の歴史資料の調査や寄附受入も継続している。

平成28年度資料展示会の様子

平成28年度資料展示会の様子

   Ⅱでは、所蔵資料は目録を作成して閲覧・複写・掲載等に対応している。利用者の便宜のためホームページ上での所蔵資料の目録公開を進めている。平成27年度には資料利用のため531人が来室した。幅広い問い合わせにもレファレンスサービスをしている。レファレンス業務についてはエクセルで記録することにより蓄積し、質を高めるよう努力している。保存環境の整備では、温度湿度管理のほか、収蔵庫のガス燻蒸とモニタリング調査を行っている。
   Ⅲとしては、資料展示会を中国四国地区アーカイブズウィークに合わせて6月の第1週に行っており、多くの人が訪れる歴史資料整備室の一大行事になっている。本年は「御陣屋大変―倉敷代官所襲撃・大橋敬之助(立石孫一郎)没後150年―」展を真備保健福祉会館大会議室で4日間行い、325人が来場した。そのほか、普及事業として古文書解読講座(年3回)・歴史資料講座(年4回)・文書調査報告会(年1回)を行っている。また、研究誌『倉敷の歴史』を平成2年度以来毎年度発行しており、希望者が倉敷市域に関する歴史研究・聞き書き・諸史料の紹介・話題・展示会の記録等を発表する場となっている。

4. 今後の課題
   倉敷市で公文書館機能を担っている総務課歴史資料整備室であるが、現在は総務部総務課内の一つの部屋の名前に過ぎない。歴史資料整備室には上述したように大量の貴重な資料が蓄積されている。これらの資料を活かし、市として責任をもって歴史資料の保存・利用・調査研究を行うために、公文書館を設置することが課題である。限られた予算や人員の中で、設置後の運営を見通した実現可能な公文書館の具体的なあり方やスケジュールについて、多くの方々の協力を得ながら模索したいと考えている。