福井県文書館の小展示と情報発信―もっと文書館を知ってもらうために―

福井県文書館 
柳沢芙美子

1.はじめに
   平成28年度の全国公文書館長会議は、「公文書館の利用普及」をテーマとして開催され、当館は尼崎市立地域研究史料館とともに話題提供の報告を行う機会をえた。文書館が保存する公文書等をさらに利用してもらうため、また文書館の業務を広く知ってもらうための取組みについては、全国の文書館ですでにさまざまな試みが重ねられてきている。
   ここでは、当館の取組みのなかから、とりわけ10年にわたって継続してきた閲覧室での小展示とそれに関連した情報発信(2・3)についてその成果と課題を考察し、さらに特徴的と思われる見学の受入れ、バックヤードツアー、大学との連携(4)について概略を紹介したい。

2.資料と業務を紹介する小展示

小学生の見学

小学生の見学

   館長会議に先立って国立公文書館が実施したアンケートによれば、87館中施設整備中を含む83館が何らかのかたちで展示に取り組んでいる。当館でも開館3年後の2006年(平成18)5月から、閲覧室(113平方m)入口側の3分の1ほどを展示スペースとして、ケース(幅180cm、奥行100cm)2本を設置し、壁面ケース(幅4.2m)も利用して展示を行ってきた。

   この展示は、テーマごとに月替わりで数十点ほどの原本資料等を紹介する小規模な展示である。展示替えのサイクルを2011年度から原則として2か月毎に変更し、現在に至っている。短いサイクルと小規模という点では、岡山県立記録資料館の「収蔵資料展」や山口県文書館の「資料小展示」に類似していると思われる(展示の開始から2008年度までの報告は、「月替え収蔵資料展示の実践とその課題」当館紀要参照)。

   また一般の博物館展示とは異なる手法として、資料の複製本もあわせて閲覧テーブルに広げるようにしている。これは、両面に書かれた資料や冊子体の展示部分以外も見てもらうための配慮であり、来館者のなかには椅子に座ってじっくり見ていかれる方もおられる。県史編さんの複製資料を引き継ぎ、開館後も職員によるデジタル化を継続し複製本を作成していることで可能となっているものである。

幼稚園児の見学

幼稚園児の見学

   小展示の歩みをふり返ってみると、その成果は展示観覧のための利用者を増やしたという一時的な側面にとどまらず、この過程で文書館資料と業務について、Web上で提供する情報のストックを増加させたことがとりわけ重要だったと考えられる。こうしたデジタルコンテンツの拡充は、展示という手法を採っていない尼崎市立地域研究史料館の事例でも同様であることは興味深い。

   展示概要は、職員による拙いものだがその都度ホームページ「今月のアーカイブ」に掲載してきた。これによって、小展示は単なる集客のイベントにとどまらず、文書館資料と業務について、定期的に情報発信するための仕掛けとなり、展示終了後でも利用されるコンテンツとして蓄積されていった。

   2014年11月、この蓄積をもとに展示を9つのカテゴリー(「近世」「近代」「時代を通して」「歴史的公文書」「写真」「くずし字入門」「資料保存」「他機関との連携」「活動紹介」)に整理した「収蔵資料紹介」のページを作成し、現在約80テーマほどが掲載されている。



中学生の見学

中学生の見学

   「収蔵資料紹介」と名付けてはいるが、資料を傷める諸要因や補修の技術、管理上の留意点を紹介する「資料保存」のための展示も2010年以来継続して取り組んできた。「活動紹介」では、学校や公民館・福祉施設等に貸し出せる地図やすごろくなどの大型複製資料とその利用例、出版や放映で“出張”した資料の紹介、資料集で翻刻した資料や紀要論文の成果の紹介も含まれている。こうした業務を紹介する展示も、小展示であるがゆえに、容易になっているといえるかもしれない。


3.ホームページでの情報発信

利用者数・閲覧点数・ホームページ閲覧数

利用者数・閲覧点数・ホームページ閲覧数【クリックすると拡大します】

   文書館の業務を知らせるという点では、2014年2月のシステム更新と同時に始めたFacebookでは、展示・講座等の催しの広報とともに、公文書の収集や搬入、二酸化炭素処理、撮影やスキャニング、資料集の編集作業、公開補修、中学生・高校生の職場体験、大学講座の活動など、閲覧室からは見えないバックヤードでの業務を紹介することも重視してきた。公文書の収集や公開補修など資料保存関連の業務への関心がとくに高く、多くの「いいね」をもらっている。

   この小展示のための経費としては、ポスター・パネルとも職員がWord等で作成し館内で印刷しており、大きなコストはかかっていない。短いサイクルでの展示替えのうえに、関連のホームページの作成を同時に行うことで職員の業務量はけっして少なくないが、展示のために吟味した解説や関連パネルの情報は、一定の信頼性があり、文書館資料と業務を知らせるWeb上のコンテンツとして利用価値は高い。こうした発想から積み重ねたファイル数(html・pdf)は、開館当初の3,600ファイル(県史通史編や年表等)から、展示や読解講座の成果、紀要・広報紙・資料集等全出版物の掲載によって、現在、5,000ファイルを超えている。

月替展示ポスター

月替展示ポスター

   2014年2月のシステム更新によって、目録情報に固定URLを付与できるようになったことで、資料紹介がより効率的に行えるようになった。具体的には、寄贈資料を中心にシステム上で画像を公開しているものについては、展示概要のページから固定URLへリンクをはって複数ページにわたる内容を見てもらうことができるようになっている。

   さて、こうした取組みはどれほど効果があったのだろうか。開館以来の利用者数(講座を含む来館者)は、2011年に落ち込みをみせたもののその後回復し、3倍をこえるまでになった。ホームページ閲覧ファイル数も2006年に大きく伸びたあとは、利用者数とほぼ同様な傾向で推移している。
   展示という手法とこれにかかわる情報発信は、閉架式で、一見「敷居の高い」文書館に立ち寄ってもらうための手だてとして、一定の成果をあげてきたとみていいだろう。

   もちろん展示で多数の入館者をえても、また古文書講座を通してくずし字を読める人を増やす試みを続けても、システムの使い方を丁寧に案内しても、それが容易に閲覧に結びつくものではないことは、これまでたびたび指摘され、また経験上もよく理解できることである。



「ぶんしょかん」を知ってもらう

「ぶんしょかん」を知ってもらう

   展示等で文書館に立ち寄ってくれた来館者にむけては、開館当初から『利用案内』・『文書館だより』、その後「文書館ふくい」(月刊、A4両面印刷、2010年5月~)や展示解説シート(展示毎、A4両面印刷、2016年1月~)をくわえて用意しているが、おそらく全く異なった発想のアプローチが必要なのだろう。

   一方で、閲覧点数においては、2014年2月のシステム更新以降、来館しなくてもWeb上から閲覧できる資料画像を確実に増やしており(2015年度末、30,900件・303,000画像)、文書館資料の閲覧者数・閲覧点数を来館での閲覧申込者数・閲覧点数のみで把握することでは十分でなくなってきている(システム上の閲覧画像数2014年度178,000画像、15年度287,000画像)。グラフには示せなかったが、開館当初406人であった閲覧申込者数は、2013年には591人まで増加したが、Web上で閲覧できる資料が増えてきたここ数年は頭打ちとなっている(2013年591人、14年583人、15年558人)。



バックヤードツアー(書庫)

バックヤードツアー(書庫)

   目録を縦横に検索し、複数の資料を閲覧しながら自らの問いを深めていく探究的な閲覧者は、確かに文書館利用者のなかのもっともコアな部分であり、民主主義を支えるリフレクティブな住民のひとりだろう。文書館を知っている一般の方が文書館資料の閲覧者となる多様な筋道をどう捉えるか。同時に、文書館資料のもつ豊かな内容と文脈の面白さ、文書館の使命を間接・直接に伝える展示の試みも、ようやく始まったばかりだ。県民一般の方がたにもっとわかりやすく、もっと利用しやすくするための一層の洞察とノウハウの蓄積が求められている。


4.見学・バックヤードツアー・大学との連携

落書ワークショップ

落書ワークショップ

   館長会議の意見交換の場でも発言があったように、教育機関との連携については、埼玉県立文書館、栃木県立文書館、岡山県立記録資料館をはじめとして、より充実した取組みを継続している館は少なくない。
   ここでは、当館の事例が参考になると思われる見学の受入れ、子どもを含む家族を対象にしたバックヤードツアー「図書館探検隊」、6年めに入った福井大学教育地域科学部との「地域史実践研究プログラム」について簡単に紹介しておきたい。

   まず、5分から10分ほどの短時間の閲覧室の見学は、小学校や児童館を中心に昨年度で74件を数えている。図書館との併設館であるために、校外学習などで比較的多く見学を受け入れている。そこでは、「文書館(当館は「ぶんしょかん」)」という施設の名称や、おじいさん・おばあさんの時代やそれ以前の古い資料を保存し、子どもでも(だれでも)利用できる施設であることなどを短時間で説明している。見学で入館した子どもたちが、のちに家族や友だち同士で立ち寄ってくれることもある。

   バックヤードツアー「図書館探検隊」は、図書館・文学館との共同企画で、夏休み等に小学生とその保護者(子どもだけの参加も可)を対象に、普段見ることのできない図書館・文書館の書庫、燻蒸室を見学するものである。資料に穴をあけてしまった“犯人”探しをしたり、重たい扉のなかの真っ暗な文書館書庫に驚いてもらい、その理由を考えてもらったりしている。異年齢の子どもたちの新鮮な反応に職員も得るものが少なくない。

大学生によるポスターセッション

大学生によるポスターセッション

   また「地域史実践研究プログラム」は、福井大学教育地域科学部の半期の講座であり、社会科教員を志望する学生を対象に、文書館資料などの地域資料の調査方法や活用方法を学習・研究するもので2010年度から継続している。文書館資料の検索方法や、『福井県史』の記述の典拠となった資料を確認したり、目録作成などを体験したりした後、互いに興味をもった分野を話し合い、共通の研究テーマを決定。資料収集や読解を進めて、その成果をパネル展示とポスターセッションで発表するもので、これまでに「地域史料にみるふくいの震災記録」「わかるかな?昔の中学入試問題」「いつから始まった!? 福井の修学旅行」「お仕置き申しつける? 福井の罪と罰」が共通テーマとして取りあげられてきている(当館『文書館だより』第23号参照)。


5.おわりに―潜在的なニーズと出会う場―

「資料の補修、のぞいてみませんか?」(公開補修)

「資料の補修、のぞいてみませんか?」(公開補修)

   展示や講座等の取組みであっても、利用者(当館のような自治体文書館にあっては、地域住民)と直接かかわる機会は、来館・非来館での閲覧・レファレンスと同様に、文書館への潜在的なニーズと出会う場である。

   ここからは、展示等のテーマや見せ方といった直接的な対応にとどまらず、目録や資料ガイドのあり方、整理の方法、調査収集(選別)へと資料管理と業務の流れを“川上”に遡って調整しなければならない場合もでてくるかもしれない。アメリカのアーキビストたちは、この調整過程こそが普及業務outreachであるとしている。利用促進の活動を単なる利用者数の増減のみで評価するのではなく、自らの業務と制度の内側にむかって再構成する契機ととらえている点はたいへん示唆深い(「文書館における普及業務を考える」当館紀要)。

   同じ文書館施設であっても、設置目的やその経緯、施設上の条件、予算規模や人的配置によって、利用促進の取組みの手法、その優先順位や重心の置き方は、多様な選択肢がありうるだろう。当館の事例が、さらなる改善や次の取組みの小さなきっかけとなればありがたい。