評価選別基準(細目基準)の策定又は見直しについて(平成27年度アーカイブズ研修Ⅱグループ討論1班報告)

堺市総務局行政部法制文書課 清瀬 麻美

1. はじめに

   本編は、平成27年度アーカイブズ研修Ⅱのグループ討論における第1班の討論内容を要約したものである。
   本グループにおいては、「評価選別基準(細目基準)の策定又は見直しについて」を討論のテーマとし、評価選別において判断しやすい基準(細目基準)をいかに策定するかについて議論した。
   なお、本グループの参加者及び役割分担は次のとおりである。

長谷川貴志(国立公文書館:書記)、菅真城(大阪大学アーカイブズ:司会)、奥田直文(富山県公文書館:発表)、高村恵美(常陸大宮市文書館:発表)、清瀬麻美(堺市:本稿執筆)、小幡英樹(一橋大学(経済研究所):書記)、奥角文子(江東区:発表)、奥山徹(平塚市:司会)(名簿順。敬称略。所属は研修当時のもの。)

2. 討論の進め方

2.1 現状報告

1班 グループ討論の様子1

1班 グループ討論の様子1

   本グループの参加者は、上記1に記載したとおり、大学、公文書館、行政といったバックグラウンドの違う多様な立場であったことから、さまざまな現状報告や意見が出された。主なものとして、次のようなものが挙げられる。
・大枠の評価選別基準(10~20項目)しかないことから、評価選別がその時の判断や状況によりぶれが生じることがある。また、個人裁量の部分が非常に多いことから、属人的な選別になってしまう。
・行政の業務に携わったことがない職員等が、大枠しか決まっていない評価選別基準に基づき選別を行うことから、行政の施策として本当に重要なものに係る文書を適正に選別できていない可能性がある。
・評価選別を行う際、大枠の基準のみだと、保存すべき文書と廃棄してよい文書の間の中間領域、つまり、判断に迷うグレーゾーンが大きくなり、適正な選別ができていないおそれがある。
・評価選別において、担当者又は専門職員の能力に頼りすぎている。
・博物館職員が廃棄対象文書の中から必要だと思うものを評価選別している。
・現用文書の簿冊台帳が未整備である場合、評価選別基準に該当する文書(簿冊)であっても収集できていない可能性がある。

2.2  課題の抽出

   上記2.1における報告の中で共通していたことは、評価選別の基準が大枠でしか決まっていなかったり、非常にあいまいであったりするため、実務的な「使える」基準とは言い難いことから、結果的に担当者の能力などの属人的な要素に左右されたり、その時々の判断に依存したり、評価選別にブレが生じる可能性が大きいということであった。そして、担当者が変わってしまうと、また一から選別の実績を積み上げないといけないといった問題もある。そこに対処する為には、やはり、評価選別において、誰がやっても同じような選別になるような基準や判断材料が必要ではないか、という意見が出された。
   このことから、本グループでは、「判断しやすい評価選別基準をいかに策定するか」というテーマを設定した。ここでいう評価選別基準は、大枠の基準に基づき策定する細目基準のことを言う。その細目基準をいかに策定するかについて、議論を進めることとした。

3. 判断しやすい細目基準の策定

3.1 2つのアプローチ

   評価選別において誰がやっても同じような選別になるように判断しやすい細目基準を策定するため、本グループでは、「効率的な評価選別」、「適正な評価選別」という2つのアプローチから、議論を進めた。

3.2  効率的な評価選別

   どの機関においても、限られた人員及び財源の中で、また、専門的なアーキビストが配置されていない場合もある中で、評価選別を行う必要がある。このような状況で、専門的な知識がなくても、かつ、人事異動による担当者の変更があったとしても、効率的に評価選別ができるようにするためにはどうすればよいか、ということを議論した。
   1つ目として、大枠の基準に基づき細目基準を策定し、これをマニュアル化するということが必要であると考えた。大枠の基準のみでは、具体的にどの文書を歴史資料として重要な公文書等(以下「歴史的公文書等」という。)として残しておくべきかがわかりにくいので、できるだけ細かい項目まで定めた基準があれば、どういった文書を残すかが明確となり、具体的な当てはめについても、従来に比べて効率的に行うことができる。
   2つ目として、保存期間が満了した時点で歴史的公文書等として残すか否か(公文書館に移管するか否か)を判断するよりも、原課で文書を作成した時点で判断する(本稿ではこのことを以下、「レコードスケジュール」と言う。)方が、文書の内容を熟知した職員が判断をすることができ、効率的である。文書分類表にあらかじめ「廃棄」か「移管」かの目安を落とし込んでおくと、さらに効率的である。ただし、原課の負担が増えることがないよう、原課と協議し、理解してもらう必要がある。

3.3 適正な評価選別

1班 グループ討論の様子2

1班 グループ討論の様子2

   「効率的な評価選別」という観点から、細目基準を策定することは非常に有益であるが、それに従って機械的に評価選別してしまうと、本来残すべきであった重要な公文書等を見落とすといったことが起こるのではないかという懸念がある。なぜ残すのかといった目的を見失うことにもなりかねない。また、例外事項への対応も必要である。
   そうした時に必要となるのは、アーキビストの専門的な知見である。アーキビストが配置されていない公文書館や機関があることから、そうした場合には、有識者といった第三者の目を入れる、複眼的な目で細目基準やレコードスケジュールのチェックや見直しをかけていくことがよいと考える。なぜ残したのか、なぜ残さなかったのか、現在及び将来に向けて説明責任が全うされるようにすることが重要である。
   また、組織改編や業務内容の変動に柔軟に対応できる細目基準が必要である。大枠の基準(国でいう「行政文書の管理に関するガイドライン」 (平成23年4月1日内閣総理大臣決定)別表第2の「1 基本的考え方」)は基本的に変わらないが、細目基準については、業務内容の変動等により改定していく必要がある。1回策定すれば終わりというものではない。硬直化した基準にならないように、常に見直していく必要があり、そのことによって、より精緻な細目基準を策定することができると考える。柔軟に対応できる細目基準であるべきだが、行政側の恣意的な改変につながらないよう、既述した「複眼的な目」によるチェックが重要である。

4. まとめ

   以上のように、2つのアプローチから議論を進めたが、判断しやすい細目基準を策定するための解決法があるのか、という点について、明確にこれが最善であると提案できる結論を出すことはできなかった。しかし、細目基準を策定する際に重視すべきであるものとして、次のようなポイントがあげられるのではないかということで、本グループの意見はまとまった。

(1) 他の公文書館や機関の情報把握及び連携
   他の公文書館や機関の状況を調査し、情報収集を行うことで、自館での見落としはないか、本当に市民が求めるものは何か、将来的に残していく必要があるものは何か、といったことを検討するとともに、これらとの連携を図る。

(2) 業務内容の分析
   大枠の基準のみでは、具体的にどの文書が歴史的公文書等となるのか、例えば、行政の施策に関して重要な文書はどれかといったことがわかりにくいので、事務分掌等を参考に、実際に行っている業務の分析を行い、細目基準へ反映させる。実際に行っている業務内容を分析し、また、業務所管課と協議等を行い、状況を把握することが必要となるが、この過程を経て策定した細目基準があれば、業務に携わったことがないものが評価選別を行っても、どういった文書を残すかが明確になり、行政の重要な施策や業務に係る文書を適正に評価選別することが可能となる。

(3) 評価選別の記録の集積及びフィードバック
   評価選別をした時の記録や過程の情報を集積し、また、フィードバックすることで、普段の評価選別業務に役立て、また、細目基準を見直す際に活用する。そして、これらを細目基準に落とし込むことで、より判断しやすいものとなり、マニュアルを作成することができる。

(4) アーキビストと原課の意見交換及び連携
   細目基準に基づき評価選別を行うアーキビストと実際の業務に携わっている原課職員が意見交換を行うことで、より適正な評価選別が可能となる。

(5) 文書作成者(原課)に対する研修
   レコードスケジュールを設定するには、文書作成時に歴史的公文書等か否か(公文書館へ移管するか否か)の最初の判断が必要になってくることから、文書作成者(原課)に対する研修が必要である。評価選別を効率的かつ適正に行っていくために、文書の作成段階から文書作成者ひとりひとりが、公文書管理についての意識を持つ必要がある。その意識をしっかり持ってもらうためにも、評価選別やレコードスケジュールについての研修を行い、レコードスケジュール設定の重要性等の周知を図ることが効果的である。

   これら5つの項目を重視し、「効率的な評価選別」、「適正な評価選別」という2つのアプローチから、評価選別に係る細目基準を策定することができれば、属人的にならず、かつ、効果的な選別が可能となるのではないかと考える。