岡山県立記録資料館 主幹 前田 能成
はじめに
平成27年9月7日に開館10周年を迎えた岡山県立記録資料館は、岡山県の記録を伝える重要な公文書、古文書その他の資料(=記録資料)を保存管理している。当館は、その保存から一般利用まで広く事業を行なうことにより、記録資料の適切な保存と利用を図ることを目的とした施設である。開館当初の様子については、国立公文書館『 アーカイブズ第22号 』(平成18年1月)に「開館しました!岡山県立記録資料館 」として、開館までの経緯、当時の施設設備や所蔵資料などを紹介している。ここではこれまで開催した展示を中心に10年目を迎えた当館の活動を再度紹介したい。
開館後の10年
所蔵資料はこの10年間に約1.5倍(約26万点)に増加、整理も進み、現在、約11万5千点の目録を公開するとともに、この間「備中足守藩主木下家資料」(当館寄託)や岡山県ハンセン病問題関連史料調査委員会が収集した資料などを公開した。また開館当初より国立公文書館デジタルアーカイブとの横断検索が可能な所蔵資料検索システムをweb上で運用している。資料の活用・館の利用促進については、古文書解読講座・記録資料セミナーなどの各種講座、企画展・所蔵資料展、文書管理や保存についての県・市町村職員への研修会、教育機関との連携事業等を積極的に実施し、普及啓発活動の充実をすすめている。資料保存については資料整理ボランティアの育成、整理・保存方法、解読の知識・技術の向上をはかり、適切に保存するよう努めている。こうした取り組みによって来館者も年々増加している。(平成26年度来館者数:6,244人※館外行事を含む)
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表1 企画展テーマ一覧 |
展示について
これまで当館で開催してきた展示は企画展(表1)・所蔵資料展(表2)あわせて75回を数える。
それぞれの展示品目録は『紀要』(※当館HP刊行物 参照)等に掲載している。展示スペースについては、資料保存施設という館の性格上、博物館のような広大な展示スペースは確保していない。しかし公文書管理法に(利用の促進)として第23条で「国立公文書館等の長は、特定歴史公文書等について、展示その他の方法により積極的に一般の利用に供するよう努めなければならない。」とあるように、当館でも展示は郷土への理解を深め、資料の活用を図るために重要であると位置づけ、様々なテーマを設定し工夫をこらした展示を開催している。
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表2 所蔵資料展テーマ一覧 |
展示テーマの設定にあたっては、県民の関心や県政の動き、県内の事象をサーチし決定している。決定したテーマをもとに各担当者が展示を構成していくのだが、その際、次の3つの要件を備えるよう意識している。第一に展示を構成した意図を説明すること、第二に資料を選定した理由を明らかにすること、第三に資料の内容をどれだけ調査したのかを示すことである。(※詳しくは当館HP定兼学「展示叙述」のすすめ参照)また協議と現地調査を徹底することで、思考の過程や、なぜこの資料を選んで展示するのかなど、担当者の思いや意図・鑑賞するポイントが明示できるよう努めている。
「武士の暮らし」「市町村合併」「戦争」「教育」「子育て」「災害」「地図」「産業」「観光」等テーマは多岐にわたるが、その時々の県政の課題と関連付けるようにもしている。現在県は「晴れの国おかやま生き活きプラン」に基づき、教育再生や産業振興を重点課題としている。こうした県政の動きに呼応し、昨年度の企画展では瀬戸内海国立公園指定80周年にあわせ、瀬戸内海の観光に焦点をあてた展示を開催した。また所蔵資料展では岡山名産のくだものや、観光行政、子どもの成長に関する展示を開催した。歴史資料館・公文書館としての役割のみならず、県の組織として県民の課題や現状をサーチし、行政機関としての役割も果たすよう心がけている。
開館10周年記念事業
県政とのリンクという点において、今年度特筆すべき取り組みは「もんげー岡山!」にあわせ事業を展開しているところであろう。現在県は「もんげー岡山!」(※「もんげー」とは岡山弁で「すごい」という意味)をキャッチフレーズに掲げ、全国に向けた新しいPR活動をスタートしている。そこで新たに、公文書や古文書などの記録資料を活用し、岡山を代表する人物や出来事を紹介する「岡山もんげー講座」を10回シリーズで開講している。また「あなたのもんげーアイディア待ってます!」として、おそらく都道府県の公文書館では初であろうロゴマーク及び愛称の募集を行った。さらに9月7日の開館記念日にあわせ、館のあゆみを展示ポスターや写真で紹介するとともに、これまで収集した大型資料を中心とした「行政物品」を2週間限定公開した「もんげー面白い記録資料がいっぱい!-開館10周年通(two)ウイーク」を開催した。こうした事業は各メディアで数多く取り上げられ、多くの県民に館の存在を知ってもらう契機となった。
おわりに
今年度私は国立公文書館のアーカイブズ研修Ⅰに参加する機会を得た。研修のグループ討議では「公文書館における普及啓発と公文書の展示・利用促進」というテーマで話し合いを行なった。各館の現状や課題を知る良い機会となったが、その中で「認知度の低さ」ということを多くの館が感じていることがわかった。当館も同様で、存在すら知らない県民も多いのが現状である。また地方公文書館では歴史資料館としての役割を意識することが強く、公文書等が「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」であり「国民が主体的に利用しうるもの」(公文書管理法第1条)という認識に基づいた普及啓発の活動が十分でないことも感じた。
公文書や古文書等の記録資料をなぜ保存しなければならないのか、またそのための施設として公文書館がどのような役割を果たしているか、公文書や古文書を適正に保存・活用することの重要性を認識してもらわなければ、その使命を十分果たすことができないと考える。
「記録資料館を売り込め!」、普及・啓発活動はまさにより多くの人にアーカイブズを理解してもらうための第一歩である。これからも保存している岡山県の記録を伝える資料が、より多くの人に活用されるよう努めるとともに、記録資料が「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」として利用できるような取り組みを模索していきたい。
データシート | 平成27年9月7日現在 |
機関名: | 岡山県記録資料館 |
所在地: | 〒700-0807 岡山県岡山市南方2-13-1 |
電話/FAX: | 086-222-7838/086-222-7842 |
Eメール: | kirokushiryokan@pref.okayama.lg.jp |
ホームページ: | http://archives.pref.okayama.jp/ |
交通: | JR岡山駅東口から北へ徒歩約20分 JR岡山駅発岡電バス(津高営業所行き)、中鉄バス(国立病院行き)「跨線橋東」下車、北へ徒歩約10分 |
開館年月日: | 平成17年9月7日 |
設置根拠: | 岡山県立記録資料館条例(平成17年3月18日 岡山県条例第2号) |
組織: | 総務部― 総務学事課 ― 記録資料館 館長(1人) ― 総括副参事(1人) ― 事務室(2人) |_ 資料整理室(3人) |_ 調査研究室(4人) (※閲覧室職員含む) [内訳]正職員3人、非常勤職員6人、臨時的任用職員2人 |
建物: | 鉄筋コンクリート造、地上3階(一部4階) |
延床面積: | 1,701㎡ |
収蔵資料の概要 (平成27年9月現在) |
公文書 約72,000冊 古文書 約145,000点 複製資料等 約42,000点 |
主な事業(平成27年度) | 公文書の収集・整理・保存 |
古文書の調査・収集・整理・保存 | |
市町村対象文書保存研修会 | |
企画展(年1回)・所蔵資料展(年3回) | |
古文書解読講座(初級・中級・専修)・記録資料セミナー(5回)・岡山もんげー講座(10回) | |
アーカイブズウイーク記念講演会・企画展記念講演会 | |
アーカイブズウイーク(6月)・開館10周年 通ウイーク(9月) | |
各種刊行物の発行 |