香川県公文書管理条例施行一年と香川県立文書館

香川県立文書館 嶋田 典人

はじめに
 香川県立文書館は平成6年3月に開館した。昨年度(平成26年度)11月6日は筑波大学名誉教授で独立行政法人国立公文書館フェローの大濱徹也氏を招いて、「職務の証を遺し伝える営み-現在、文書館アーカイブズが問われること-」と題して文書館開館20周年記念講演会を開催した。「公文書」の重要性等についての講演録は、『香川県立文書館紀要』第19号に掲載している。参照されたい。
 平成26年度、古文書保存点数は10万を超えた。公文書はその10分の1である。
 平成26年度は「香川県公文書等の管理に関する条例」(平成25年3月22日制定・平成26年4月1日施行:以下「香川県公文書管理条例」とする。)の施行年度でもある。
 香川県公文書管理条例制定・施行に伴い、関係する例規が制定・改廃されている。例規整備に伴い、組織体制・運営も変化したのが条例施行1年(平成26年度)である。香川県立文書館の公文書担当の目から見たこの一年を中心に振り返ってみたい。
 なお、香川県公文書管理条例全文、及び本稿で一部を引用している例規の全文はインターネットの香川県ホームページでご覧いただきたい。

1.香川県立文書館条例の改正・施行
 香川県公文書管理条例の制定・施行に伴って、香川県立文書館条例も改正・施行(平成25年3月22日改正・平成26年4月1日施行)となった。その第1条は、次のように改正された。太字下線部の部分が新たに加えられた部分である。

(設置)
第1条 香川県公文書等の管理に関する条例(平成25年香川県条例第5号)第2条第4項に規定する特定歴史公文書等をはじめとする、歴史資料として重要な公文書、古文書その他の記録を収集し、及び保存し、並びに県民の利用に供するとともに、これに関連する調査研究を行い、もって本県における学術の振興及び文化の向上並びに県政に対する理解の増進及び信頼の向上に資するため、香川県立文書館を高松市に設置する。

 改正点は「歴史資料として重要な公文書」が、「特定歴史公文書等をはじめとする、歴史資料として重要な公文書」となったことである。ちなみに「特定歴史公文書等」でない「歴史資料として重要な公文書」とは市町からの非現用文書の寄託文書が挙げられる。
 また、「学術の振興及び文化の向上に資する」であったのが、「学術の振興及び文化の向上並びに県政に対する理解の増進及び信頼の向上に資する」となった。

2.香川県立文書館規則の改正・施行
 香川県立文書館規則の改正(平成25年3月29日、平成26年3月25日、平成26年3月31日改正)・施行(平成25年4月1日、平成26年4月1日施行)がなされた。次に挙げる条文の太字下線部は平成25年3月29日の改正前と平成26年3月31日最終改正時を比較した追加・改正部分である。
 新規則では、

(業務)
第2条 文書館は、次の業務を行う。
(1) 特定歴史公文書等(香川県公文書等の管理に関する条例(平成25年香川県条例第5号。以下「公文書等管理条例」という。)第2条第4項に規定する特定歴史公文書等をいう。以下同じ。)をはじめとする、歴史資料として重要な公文書、古文書その他の記録(以下「文書等」という。)を収集し、及び保存し、並びに閲覧、展示その他の利用に供すること。
(2) 文書等に関する調査研究を行うこと。
(3) 文書等に関する講座、講習会等を開催すること。
(4) 行政資料(国又は地方公共団体の機関等が作成し、又は取得した統計書、調査研究報告書等の資料をいう。以下同じ。)を収集し、及び保存し、並びに閲覧、貸出しその他の利用に供すること。
(5) 県政等に関する情報の提供を行うこと。
(6) その他学術の振興及び文化の向上に資するため必要と認められること。
(7)  公文書等管理条例第2条第2項に規定する行政文書の管理を行うこと。
(職員)
第3条 文書館に次の職員を置く。
(1)館長  (2)次長  (3)副主幹 (4)主任専門職員 (5)主任 (6)専門職員  (7)その他の職員

となっている。
 第2条(2)~(6)は変わっていない。改正点として、(1)は条例同様「特定歴史公文書等」が加わった。(7)は香川県立文書館には「現用書庫」があり、多くが30年保存文書で保存年限満了前の「現用文書」である。保有権は原課にあるが、管理は文書館に任せられている。公文書等管理条例第2条第2項の規定では、現用文書と言わずに「行政文書」としているため、「現用の公文書の管理を行なうこと」が上記(7)のように「行政文書」になった。
 第3条では、新たに主任専門職員と専門職員が置かれることになった。ちなみに筆者は平成25年3月まで副主幹(古文書総括担当)、同年4月から主任専門職員(公文書・古文書総括、実質は公文書担当)になった。
 平成26年度の香川県立文書館の職員数は館長以下15名(館長を含む正規職員9名、嘱託職員6名)体制で平成27年度も変化はない。公文書担当は筆者を含め計4名で、古文書は計5名で公文書担当よりも1名多い。

3.香川県特定歴史公文書等の利用等に関する規則の制定・施行
 香川県特定歴史公文書等の利用等に関する規則(平成26年3月31日制定・平成26年4月1日施行)の第1条~第4条は、次の通りである。

(趣旨)
第1条 この規則は、香川県公文書等の管理に関する条例(平成25年香川県条例第5号。以下「条例」という。)の規定に基づき、特定歴史公文書等の利用等に関し必要な事項を定めるものとする。
(定義)
第2条 この規則において使用する用語は、条例において使用する用語の例による。
(特定歴史公文書等の指定)
第3条 知事は、法人その他の団体(県を除く。)又は個人から文書の寄贈又は寄託があった場合において、当該文書が歴史公文書等に該当し、かつ、公文書に類するものと認めるときは、当該文書を特定歴史公文書等として指定するものとする。
2 知事は、前項の規定による指定をしたときは、当該特定歴史公文書等の名称を公表するものとする。
(目録の作成及び公表)
第4条 条例第12条第4項の特定歴史公文書等の適切な保存を行い、及び適切な利用に資するために必要な事項は、次に掲げる事項(条例第13条第1項第1号アからウまでに掲げる情報又は同項第2号の制限若しくは同項第3号の条件に係る情報に該当するものを除く。)とする。
(1) 分類 (2) 文書番号 (3) 名称 (4) 移管又は寄贈若しくは寄託を受けた時期 (5) 記録媒体の種別 (6) その他特定歴史公文書等の適切な保存を行い、及び適切な利用に資するために必要な事項
2 知事は、条例第12条第4項の目録について、香川県立文書館に備えて一般の閲覧に供する方法等により公表しなければならない。

 第1条にあるように、香川県公文書管理条例の規定に基づき、「特定歴史公文書等の利用等に関し必要な事項を定め」ている。
 第4条は香川県公文書管理条例第12条第4項「知事は、規則で定めるところにより、特定歴史公文書等の分類、名称その他の特定歴史公文書等の適切な保存を行い、及び適切な利用に資するために必要な事項を記載した目録を作成し、公表しなければならない。」に基づいている。
 そこで、施行前の平成25年度中に行ったのは、簿冊名の文書館システム入力済のチェック、つまり目録のチェックである。現用文書のままの名称(簿冊名)では、簿冊の中身を窺い知ることができないものもあり、従来の表題を活かしつつ追加・訂正を行った。公文書担当3名で取り組み、追加・訂正した箇所は筆者がチェックした。条例施行前にこの作業を行う必要があったのは、香川県特定歴史公文書等の利用等に関する規則第4条で「目録の作成及び公表」が定められているからである。特定歴史公文書等の目録は文書館システム情報を加工した紙目録である。紙目録は同規則第4条の(1)~(6)の情報がある目録を作成し、香川県立文書館に備えることになっている。(6)の欄には公開・要審査などを記入している。この紙目録を閲覧室に備えるためには、上記の①文書館システムの的確な簿冊(文書)の名称(簿冊名)整備、②公開・非公開審査の実施と文書館システムの審査内容入力をあらかじめ行っておく必要がある。①は平成25年度中にほぼ終わったので、②を筆者が行った上で目録登載を行い現在に至っている。文書館システムへの件名登録を公文書担当1名が並行して行っている。

4.香川県文書規程の廃止と香川県行政文書管理規程の制定・施行
 香川県文書規程(昭和38年3月20日制定・昭和38年4月1日施行)は、香川県行政文書管理規程(平成26年3月12日制定・平成26年4月1日施行)になり、廃止となった。
 廃止となった香川県文書規程(平成24年3月30日最終改正)は次の通りである。

(趣旨)
第1条 本庁及び出先機関における文書(香川県情報公開条例(平成12年香川県条例第54号)第2条第1項に規定する行政文書になったものを含む。)の処理については、この規程の定めるところによる。

 新しい香川県行政文書管理規程については、次の通りである。

(趣旨)
第1条 この規程は、香川県公文書等の管理に関する条例(平成25年香川県条例第5号。第12条、第21条第1項第2号及び別表を除き、以下「条例」という。)第10条第1項及び第2項の規定に基づき、知事が保有する行政文書の管理に関し必要な事項を定めるものとする。

 香川県文書規程の「本庁及び出先機関における文書の処理」から、香川県行政文書管理規程では、香川県公文書管理条例に基づき「知事が保有する行政文書の管理に関し必要な事項」となった。「行政文書」に関する規定である。
 知事部局では香川県行政文書管理規程で、教育委員会では香川県教育委員会行政文書管理規程である。
 評価・選別について述べてみる。
 評価・選別の基準が条例前は文書館においては、「香川県立文書館公文書取扱要領」の別記1「公文書選別収集基準」で行われていたものが、原課・文書館とも、香川県行政文書管理規程や香川県教育委員会行政文書管理規程等の別表の「定め」で行われることになった。従来の文書館独自の評価選別基準ではなくなったのである。現在、この共通基準であるにも関わらず、原課と文書館での判断が異なる場合が出ている。このため平成26年度、選別協議を原課に出向いて行なったこともあった。
 廃止された香川県文書規程の評価・選別については、次の通りであった。下線部は特に強調したいところである。

(文書館による選別等)
第49条 文書館長は、前条第1項又は第3項の規定により用途廃止文書についての報告を受けたときは、当該文書のうちから歴史的価値があると認められるものを選別しなければならない。
2 文書管理者又は総務事務集中課長は、前項の規定により文書館長が選別した用途廃止文書について文書館長から引渡しを求められたときは、その用途廃止文書が法令により廃棄しなければならないものとされている場合等特別の理由がある場合を除き、その求めに応じなければならない。

 このように香川県文書規程では、文書館長が移管を求めると、原課は求めに応じなければならないとしていた。
 香川県公文書管理条例第8条で、原課と文書館の「移管」「廃棄」に関する規定が定められた。ちなみに条例では「用途廃止」の文言は使用しなくなった。
 文書館(条例では「知事」)は原課(条例では「行政機関」)に「移管するよう求めることができる」、原課は「求めを参酌して」「定めを変更」してなどとなり、文書館のみで評価・選別を行っていた香川県文書規程の時よりは、原課の権限が認められ、文書館の権限が弱まった。香川県行政文書管理規程には、香川県公文書管理条例第8条を少し詳しく述べた第57条「保存簿冊の移管」、第59条「廃棄予定の保存簿冊の移管」などがある。
 香川県公文書管理条例第8条を受けて、第57条、第59条とも、移管または廃棄予定文書について、文書館長に報告しなければならないと定められている。
 この移管または廃棄予定文書の報告のリストと現物確認(30年保存文書はすべて、5年・10年保存文書は必要に応じて)をしながら、筆者は業務の中で大きな比重を占める評価・選別を行っているのである。評価・選別は、筆者ほか上司が兼務で計2名、ちなみに公開・非公開審査は筆者が行っている。何れもその妥当性を上司がチェックする。複数チェック体制は必要である。

おわりに
 以上は文書のライフサイクルでいう、評価・選別、移管・廃棄、整理、保存までで、その先が重要である。つまり、利活用である。平成26年度実際に「時の経過」を考慮しながら一部公開の手続きにより、非公開部分の遮蔽を行った。利用請求に対する審査基準は香川県立文書館のホームページでも見ることができる。今回は紙面の関係で割愛するが、特定歴史公文書等の利用促進、これは閲覧だけではなく、展示等普及事業の中でどのように考えていくか。このことは今後の課題としたい。