巻頭エッセイ 「アーカイブズ第57号に寄せて‐国立公文書館を身近な存在へ‐」

国立公文書館長 加藤 丈夫

 「公文書等の管理に関する法律」(平成21年法律第66号)が施行されて今年度で5年目となりました。同法第一条で、「公文書等」は「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものである」と規定されています。この条文に「知的資源」という用語が見えますが、この「知的資源」という用語が用いられる法律は、この「公文書等の管理に関する法律」だけです。

 さて、当館では、この「国民共有の知的資源」を皆様に活用していただく場として、閲覧室以外に、展示会というリアルな場、そしてインターネット上のデジタルアーカイブというバーチャルな場の2つを主に提供しています。このうち、展示については、国のあゆみの一端を文書を通じて来館者に知っていただくために、平成26年度から常設展示に於いて、当館所蔵の「大日本国帝国憲法」、「終戦の詔書」、及び「日本国憲法」の御署名原本を展示しています。保存上の観点からレプリカを展示していますが、教科書で学習した文書が当館に所蔵されていることを初めて知ったという声や、文書作成に関わった人々の息遣いが伝わってくるようだ、という声が聞かれます。なお、「終戦の詔書」については、平成27年度第2回企画展「昭和20年-戦後70年の原点-」の会期中に、原本を展示しました。デジタルアーカイブについては、平成26年度末時点で当館所蔵文書のデジタル化が10.6%まで進みました。来館せずともインターネット上で閲覧できる文書数が毎年、着実に増加しています。

 ただ、このような活動を重ねても、当館や、デジタルアーカイブの存在を知っていただかない限り、この「知的資源」を「主体的に利用」していただける方は増えません。平成27年3月から5月にかけて当館に於いて開催した「JFK-その生涯と遺産」展には4万人を超える来場者がありましたが、その中で、当館を初めて訪れたという方は約8割に上りました。このことからも、館の存在を知っていただく広報等の一層の充実の必要が認識されたところです。ちょうどこの春より、当館の活動を一般の方により広く知っていただくための『国立公文書館ニュース』の刊行を開始しました。年4回の刊行予定で、第3号は、まもなく刊行されます。また、この夏には、小学生、中高生、教員向けの本館施設見学を企画、実施したばかりです。見学に参加した生徒、学生達は、熱心にクイズや書庫見学に参加しました。彼らが将来積極的な館の利用者や応援者になってくれることを望みます。

 このように、当館は、知的資源が利用しやすいものになるよう、そして、国民に館の存在や、存在意義を知っていただくための活動を少しずつ進めています。この「アーカイブズ57号」でご紹介する国内、海外の取組も、それぞれが試行錯誤の連続の中、ユニークな活動を推進しています。当館も、さらに新たな活動に取り組むべく準備をしております。新しい活動についてはいずれまたの機会にご紹介いたします。