開館20周年を迎えた大分県公文書館 -ALA連携による記念事業について-

大分県公文書館 外観

大分県公文書館  髙木翔太

1. はじめに

 大分県公文書館は、大分県立図書館(以下、図書館)の移転・新築の際に、大分県立先哲史料館(以下、先哲)とともに新設され、大分県の文化に関する情報の発信基地を目指す、三館複合施設「豊の国情報ライブラリー」として、平成7年2月28日に開館した。
 県レベルで九州初、全国で25番目の公文書館であり、三館の設計は、大分県出身の有名な建築家である磯崎新氏によるものである。古代ローマを再現したといわれる図書館の「百柱の間」など、磯崎芸術を楽しむ方からも愛され20年を迎えた。
 開館20周年を迎えた大分県公文書館について報告をするにあたって、開館の経緯や沿革、20年間行ってきた業務の内容など、全国のアーカイブズ関係者に知っていただきたい内容[1]は多々あるが、ここでは、開館20周年を記念して行った公文書館単独の記念事業と、昨今『アーカイブズ』第54号(国立公文書館、平成26年10月)でも特集された「連携」に着目して、公文書館(Archives)、図書館(Library)、先哲(Archives)、ALAで連携して行った記念事業を紹介することとしたい。

2. 大分県公文書館の開館20周年記念事業

 公文書館が開館20周年を記念して行った事業(ALA連携で行ったものを含む)は、①パネル展「企画展のあゆみ」、②三館合同展「おおいたの記録―近世から近現代までのあゆみ―」、③開館20周年記念講演会、④バックヤードツアー・展示解説会、⑤「豊の国情報ライブラリー」活用講座の5つである。
 ②~⑤の内容については、後述することとし、ここでは、公文書館が単独で行った①と、②を行う際に国立公文書館から資料を借用したので、その業務内容について紹介する。

閲覧室内の展示風景「観光」

2.1 パネル展「企画展のあゆみ
 平成26年度に記念事業を行うことによって、県民に公文書館を知ってもらい、さらに利用に繋げることができないかと考え、これまでの企画展で培ってきた成果をもとにしたパネル展「企画展のあゆみ」を、4月から翌年1月までの間、期間とテーマを三つに分けて開催することにした。
 公文書館は、独自の展示スペースを持っていないため、閲覧室内に展示ケースを一つ置き、柱や壁面にポスターや資料などをパネルにしたものを展示した。そして、閲覧室前は、図書館と廊下で繋がっており、図書館利用者がただ通り過ぎて行くことが多かったため、閲覧室入り口横の壁面に視覚に訴えるパネルを展示して興味を抱いてもらい、閲覧室に誘導するよう努めた。
 また、三館内にポスターを掲示し、公文書館のHPや図書館のFacebookなどを用いて広報を行い、展示資料は、これまでの企画展で作製したパネルを主に用いたため、特別な予算や人員を要しなかった。
 以下、簡単に展示内容について紹介する。4月から7月の間は、「物産」をテーマにして、明治から昭和にかけての県内における主要な特産物を紹介したパネルや、大正10年に大分で開催された「九州沖縄八県連合共進会」に関する資料を展示した。昭和初期に金と銀の産出量が全国一位であったことや、共進会の広場に朝倉文夫が作製した大友宗麟像が配置されていたことなどが関心を集めた。
 7月から10月の間は、全国的にゲリラ豪雨や雹などといった災害が目立っていた時期でもあったため、「災害」をテーマにして、昭和20年代に県内を襲ったキジア台風やルース台風、不連続線による豪雨被害など、当時の被害状況が伝わる写真や記録、被害に対する県の政策が分かる公文書などを展示した。
 10月から1月の間は、「観光」をテーマにして、県内の代表的な観光地である別府と耶馬渓に関する資料を展示した。別府市観光課が作成した浜辺に座る水着の女性を描いたポスターが人気で、吉田初三郎が描いた鳥瞰図を拡大したものも好評であった。
 この展示により、図書館利用者などにも閲覧室内に入っていただけたため、公文書館の存在を広めることができたが、なかなか資料を閲覧する方は少なく、また、展示スペースの関係上、公文書館がそもそもどういう施設であるか伝えることができなかったため、今後の課題として置きたい。

2.2 国立公文書館所蔵資料借用業務
 大分県公文書館は、開館10周年記念の際に、国立公文書館から資料を借用して記念展示を行っていたため、20周年記念展でも資料を借用して記念展示をすることにした。
 特に、記念展示である三館合同展は、「おおいた」の歴史400年を通史で紹介するものであったので、近代以降に中央政府との関わりが強くなる部分では、「豊の国情報ライブラリー」の資料に加えて、国立公文書館の資料が必要であった。
 資料を借用する際の問題点は、展示室が重要文化財等を展示できる「公開承認施設」ではなかったことである。文化庁への申請によって許可を得ることも考えたが、三館での事務取扱などでの問題から重要文化財を借用することは断念し、これに代わる資料を借用することとした。
 幸い、国立公文書館の業務課利用係の職員が親切に対応して下さったので、無事に資料を借用することができた。この場を借りて、感謝の意を述べたい。
展示観覧者からは、「全国的な動向の中での大分県の状況というのが分かり易く展示されている」や「教科書などにも名称が出てくる国立公文書館所蔵の貴重な資料が見られてよかった」といった声をいただくなど、資料を借用した効果は大きいものであった。

3.ALA連携による開館20周年記念事業

 日頃から三館(ALA)は、レファレンス対応や資料保存、調査などの際に「連携」をして業務に役立てている。平成21年から、三館の「連携」をより強化して県民に情報を発信するため、三館合同展を開催してきた。
 例年開催してきた三館合同展であるが、平成26年度は開館20周年記念事業と銘打ち、それにあわせて先に紹介した②~⑤の記念事業を行った。
 ここでは、各記念事業の内容を紹介する。

絵図を見る来館者「豊後国絵図」

3.1 三館合同展
 開館20周年記念三館合同展「おおいたの記録―近世から近現代までのあゆみ―」は、各館の20年間の資料収集や調査研究などの成果をもとに、近世から近現代にかけての「おおいた」の400年間の特色を紹介したものである。
 開催期間は、平成27年2月7日から3月22日まで、入場者数は5,531人であり、1日平均は135人(開館日数41日・小数点以下四捨五入)であった。
 各館の所蔵資料の関係から、小藩分立から版籍奉還までを先哲が担当し、廃藩置県から終戦までを公文書館が担当し、戦後の復興や町の変化を図書館が担当した。
 各館が担当した展示箇所は、それぞれ館の所蔵資料が中心になるが、他の二館の所蔵資料もなるべく用いて展示を行った。公文書館担当箇所での例を少し挙げると、「自由民権運動」のコーナーでは、県内で運動を担った「田舎新聞」(図書館所蔵)を展示し、「降伏文書調印式」のコーナーでは、署名をした大分県出身の重光葵の「写真」(先哲所蔵)を展示した。
 また、展示室以外にも図書館のエントランスホールの床に、「歴史の舞台」として、「豊後国絵図」と「豊前国絵図」を拡大(複製)したものを設置した。これは、「豊の国」を俯瞰しながら絵図上を歩き、そのまま展示室に足を運んでいただこうと考えたものである。この絵図は大変好評で、開催期間中は、絵図上で多くの方が自分の住んでいる地域の地名を探すといった光景が見られた。
 一方、公文書館担当展示コーナーで、大分県出身であるがあまり県民に知られていない大井憲太郎を紹介したことにより、「大分県近現代史研究会」では、もう一度大井憲太郎を再評価し、顕彰しようといった反響も見られた。
 その他、図書館が担当した展示箇所では、昭和の懐かしい風景などの写真が人気で、先哲が担当した展示箇所では、各藩の歴史や「おおいた」の特色でもある海とのつながり、豊後キリシタン関係の資料など、見応えがあるものが多かった。
 公文書館単独では、「おおいた」の歴史を通史で紹介することは難しく、三館複合施設である利点、「連携」を生かした展示であった。

3.2 開館20周年記念講演会
 開館から20年という節目の記念日に、開館20周年記念講演会を開催した。先哲史料館長 佐藤晃洋氏が、「海を越えたマレガ文書―豊の国情報ライブラリーと豊後キリシタン史料との出会い―」と題して講演を行い、これまでの三館のOBや関係者、県民の方々など185名の参加があった。
 講演では、「大分県新県立図書館等の基本構想に関する報告書」(平成2年12月)に、本県特有の温泉、椎茸、竹などに関する資料に加えて、キリシタン関係資料も収集するものとされていることが報告され、三館が所蔵しているキリシタン関係資料が紹介された。
 そして、平成23年にバチカン図書館で発見された「マレガ文書」[2]の内容や調査の概要についても報告があった。「マレガ文書」は、デジタル化による公開が予定されており、豊後キリシタンの歴史が世界に向けて発信されるので、「豊の国情報ライブラリー」は、今後より一層の注目が寄せられていくだろうと感じられた。

バックヤードツアー「公文書館書庫」

3.3 バックヤードツアー・展示解説会
 三館合同展会期中の水曜日(2月18・25日、3月4・11・18日)の計5回、三館のバックヤードツアーの後に展示解説会を行い、全日程で120名程の参加があった。
 バックヤードツアーの参加者から、20年間図書館を利用してきたが、公文書館に初めて来た、初めて知ったなどと言われ、認知度が低いことを痛感したが、公文書館の所蔵資料への理解から利用してみたいという声もあったため、今後PRしていく励みにもなった。

3.4 「豊の国情報ライブラリー」活用講座
 ALAで「連携」して、講座を行うことによって、三館の理解者及び利用者の増加を図りたいと考え、各館が展示資料の解説と活用方法を紹介する「豊の国情報ライブラリー」活用講座を行った。
 公文書館は、まず公文書館について認識してもらうことから始め、その後、神社や寺院の由緒などを調べる際の活用方法や歴史的事項を調べる際の活用方法を紹介した。また、歴史を調べる活用方法以外にも最近の身近な出来事(国体・W杯など)を調べたりすることができることも紹介した。
 公文書館が単独で講座を開催しても人を集めることが難しいが、「連携」して講座を開催したことにより、公文書館を知らない多くの県民に参加してもらえたため、公文書館への理解及び利用の増加に有意義であったと実感している。

4. おわりに

 公文書館は、他の二館に比べて認知度も低く、利用者も少ないので、三館複合施設という利点を生かし、今後も「連携」を通じて、PRを続けていくべきである。さらに、平成27年4月24日には、徒歩15分程の距離に大分県立美術館(「OPAM」)も開館するため、美術館との「連携」も築き、美術館に訪れる人々に公文書館にも行ってみたいと思われるよう努めていきたい。
 そして、利用者が来館した際にがっかりさせないためにも資料整理を継続して行い、レファレンス対応の充実を図ることも重要である。
 最後に、公文書館をPRするにあたって組織アーカイブズだけではやはり利用者の関心を引くことは難しく、さらに、地域の歴史を遺していくためには、トータル的な資料の収集が必要になるため、収集アーカイブズへの保存にもALA連携の力を発揮し、「おおいた」の歴史や文化の情報発信基地としての役割を今後も果たしていくことを期待したい。

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[1] 大城博「歴史的公文書の保存・活用に係る大分県と市町村との連携・支援について」『記録と史料 第22号』(全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、2012年3月)に報告されている。
[2] 「マレガ文書」については、佐藤晃洋「マレガ・プロジェクトに係る平成二五年度概要調査」『史料館研究紀要 第19号』(大分県立先哲史料館、2015年1月)が参考になる。