アーカイブズにおける他機関・地域・住民との協力・連携の可能性―平成26年度アーカイブズ研修Ⅱグループ討論3班報告―

山口県文書館   吉田 真夫
板橋区公文書館 北浦 康孝

1. はじめに

 平成27年1月20日(火)から22日(木)の3日間、国立公文書館において平成26年度アーカイブズ研修Ⅱが開催された。その中で、「他機関等(教育機関・文化施設等)との協力や地域との連携、住民参加等」に関心・問題意識を持つ以下の10名で一つの班を構成した。参加者とその所属、および役割分担は次のとおりである(名簿順。敬称略。所属は研修当時のもの)。

平野はな子(国立公文書館・書記)、本村慈(国立公文書館・書記)、裏野哲行(富山県公文書館)、吉田真夫(山口県文書館・執筆)、髙木翔太(大分県公文書館・発表)、仲宗根良江(沖縄県公文書館・司会)、北浦康孝(板橋区公文書館・執筆)、酒井麻子(藤沢市文書館・書記)、橋本竜輝(天草市立天草アーカイブズ・発表)、座間味千草(北谷町公文書館)

 博物館や図書館等と比較して、公文書館等機関(以下、「公文書館」と記す。(注))はその認知度が決して高くない。そうした中、近年では「公文書館」単独での普及・啓発活動には限りがあるとの認識から、様々な「相手」との連携が実践されている。近くは『アーカイブズ』第54号(国立公文書館、平成26年10月)で「さまざまな連携のかたち」との特集が組まれ、多様な「相手」との連携事例が紹介された。挙げられた事例は示唆に富み、連携の広がりや可能性を予感させるものであった。
 さて、今回の研修は、「公文書館等における普及啓発及び歴史公文書等の利用促進等について」と課題設定された。このことは、多くの館が、なお一層の普及・啓発と館蔵資料の利用促進を課題として内包していることの表れとも言えよう。
 本稿はこうした現状を鑑み、既述の課題克服にむけた班内の議論をまとめた記録である。

2. アーカイブズの浸透に向けて何ができるか

 ここではワークショップの議論について述べる。
 ワークショップで与えられた課題は、受講者が仮想の市立公文書館職員として、当該館の開館10周年事業の構想を練るものである(与えられた課題の詳細は、「平成26年度アーカイブズ研修Ⅱについて」を参照されたい)。
 なお、このワークショップでは、本班がさらに2つのグループに分かれた。そのため、執筆担当が各々所属したグループの構想を示す。なお、与えられた課題から出てきた各グループの構想であるため、内容に重複がある点は予めお断りしておく。

ワークショップ後のプレゼンテーションの様子

2.1 公文書館を身近なものにするために
 Aグループのメンバーは、本村・裏野・仲宗根・橋本・北浦である。
 本グループでは、記念事業を単なる祝賀行事に終わらせず、積極的に公文書館の社会的認知を向上させ、利用促進に繋げることを目的として、これを議論の前提とした。
 事業の核となるテーマは地域の歴史とし、開催機関は公文書館に限定せずに、歴史資料館や図書館などと各機関の特徴を活かした連携をはかることとした。
 また、一方的な情報発信ではなく、市民の参加を呼び掛け、双方向の事業とすることを考えた。市民参加は市民と公文書館の距離を縮め、資料保存に対する理解の深まりにつながるであろう。さらに、資料保存という点では、公文書を作成する市職員や教員に対する啓発も念頭に置いた。
 議論を経て報告を行った企画としては、記念式典と公文書館見学会、記念講演・講座、体験講座、資料展示(公文書館・歴史資料館・図書館)、パネル展示(介護施設(移動展示)・市庁舎・駅)、記念誌、スタンプラリー、グッズ活用などがあった。記念式典とともに見学会を行うことは記念事業を普及活動へ繋げることを、市庁舎での展示は市民のみならず市職員の意識向上も意図した。
 市民参加については、資料収集の呼び掛けや公文書館サポーター制度のみならず、展示資料(主に写真を想定)の解説に市民からの情報を積極的に取り入れる展示方法などを提案した。
ほかにも介護施設での展示は高齢者の回想法(高齢者の記憶を引き出し、記憶力の改善や精神的な安定をはかる療法)に資するとの意見や、駅を利用した鉄道関連の展示が多くの人を惹きつけるとの意見も示した。
 記念誌はWeb掲載のみならず、紙媒体でも作成することとした。市民一般を対象とするならば、様々な情報通信環境を考慮する必要があるためである。

 評価方法としては、利用者数・参加者数などの直接的な数値を設けるべきかが議論されたが、最終的にはアンケートを通じた評価を採用した。
 また、報告では取り上げなかったが、学校、とりわけ小学校との連携が必要であることはメンバーの共通理解であった。地域の将来を担う児童から過去を知る年配の市民に至るまで、小学校は地域社会の核で、単なる学校教育の場にとどまらないとの意見が出された。この点は、本班全体でのグループ討論と報告会で、学校アーカイブズの問題と絡めて、重要な論点として取り上げられた。

2.2 地域へ「出て行く」公文書館
 Bグループのメンバーは、平野・髙木・酒井・座間味・吉田である。
 本グループでは、開館記念日を11月3日に据えたことから、秋季のイベントを中心に通年での事業に努め、展示(それと連動する講座)と体験学習に重きを置いた。
 展示会は、年度の前半に企画展を、後半に特別展を開催することとした。
 企画展は、公文書館の10年の歩みを語る内容で、公文書館機能の紹介も含む。また、その展示内容をパネル化し、市役所をはじめ、市内各所を巡回する展示も企画した。当該公文書館は独立した建物との設定で、関心のない市民が足を向ける可能性は低い。一方で、市民が出向くことの多い市役所などでのパネル展で周知をはかれれば、館の存在や機能の認知度の上昇や、「現物を見よう」とする来館者の獲得が期待できる。なお、市役所でのパネル展示は、市の職員を意識したものでもある(展示期間中、職員を対象にした公文書管理に関する講座も盛り込んだ)。保存期間満了後の公文書を速やかに館へ引き継ぐために、意義ある企画と考える。
 また特別展は、市内に存する歴史資料館と図書館と連携して共通のテーマで展示を行い、あわせて開館日には、特別展に関連した内容の記念講演会を開催することとした。特別展での共通テーマは地域の歴史とし、各館では共通テーマに沿った展覧会名を付けることとした。他の文化施設との連携は、各館の「得意分野」での展示が可能で、地域の歴史を多角的に描くことができる。また、複数の文化施設による共同開催事業により、市民をはじめ各方面の注目も集まるだろう。そうした中で、公文書館による館蔵資料展示は、その紹介に大きなチャンスとなる。さらに、特別展にあわせて開催する記念講演会で館蔵資料を活用した話題を提供して、そのPR効果を期待したい。
 なお通年事業として、主に古写真を使った出前パネル展を計画した。市内にあると想定した介護施設を会場とし、公文書館にとっては、館のPRは勿論、当該施設利用者の思わぬ発見や指摘等を期待した企画である。
 次に体験学習として、館蔵の絵図と古写真を使ったフィールドワークを企画した。日頃何気なく目にしている風景がそれまでとは違って見えるため、人気の高いイベントである。市内にある史跡公園を巡りながらの企画であれば、市民の注目と関心の高まりが一段と期待できる。特に古写真の利用については、館職員等の解説のほか、クイズ的要素を加えて企画すれば、参加者がより主体的に、楽しみながら学習できるのではないだろうか。そこには、資料保存の重要性と、それを保存する公文書館の必要性を認識してもらえるような仕掛けを考えたい。
 このほかに、公文書館グッズの販売、キャラクター発表、新たな公文書館利用者を増やすための公文書館一日講座などを企画した。限られた人員と時間、予算内での開館10周年記念事業であること、また10年間を経ても公文書館に対する市民の認知度が低いことの反省を踏まえ、外部へ出ていく企画を心がけた。

3. 地域に根ざしたアーカイブズをめざして

 当班は、他機関や地域との連携、住民参加等について議論する班である。そこで、住民参加と学校連携の二点に絞って、ワークショップで出た企画・構想や各館の実情を踏まえつつ、地域における認知度向上により「公文書館」の利用者・理解者を増加させる方法を検討した。

グループ討論の様子①

3.1 積極的な住民参加
 より広く住民をアーカイブズに引き寄せ、利用者・理解者となってもらうために何をすべきか。
 この課題解決のひとつに、友の会・調査協力員・資料調査員・地方調査員・古文書調査員といった取り組みが挙がった。これらは、その内容に差違はあるが、いずれも地域住民が「公文書館」の活動に関与するものである。多くの場合、公務員OBや館職員OB、郷土史研究者などがメンバーとなり、館蔵資料の目録作成、域内の資料探索、簡単な館業務のサポートなどを担う。メンバーの多くは、「公文書館」が扱う資料の性質やその業務を既に熟知しており、「公文書館」にとって心強い存在である。
 こうした具体的な取り組みを評価する一方で、この取り組みを「住民参加」といえるかどうかとの意見もある。班内でこの結論を出すには至らなかったが、こうした人々を介して、それぞれの地域におけるアーカイブズへの理解の深まりを期待できることから、住民参加の礎と位置づけたい。
 「公文書館」業務への住民参加を促そうとした場合、スキルの有無が参加するか否かの分岐点となり、この「ハードルの高さ」が、「公文書館」に対する親しみを持った関わりを阻害している。一方で、天草市で実施される「襖の下張文書の調査」は示唆的である。この調査では、一般市民を対象に、襖の下張となった文書を取り除き整理するという。これなら、簡単な説明を受け、丁寧な作業を心がければ、特別な知識・技能を持たない人々も参加できる。このように住民が参加できる企画を通して、アーカイブズの浸透をはかる必要がある。

グループ討論の様子②

3.2 学校との連携
 「公文書館」が学校と連携するようになって久しい。班員各館の取り組みをみると、大学生の実習受け入れや、学校教員や生徒を対象とした職場体験や講座、学校への出前講座といった体験を主とするもの、生徒向け読み物や、教員対象の副読本・ガイド本のような印刷物等を作成・刊行するもの、さらには学校図書館と連携した展示会の開催などが挙がった。
 ここから見えてきたことは、「公文書館」がどのような形で学校と連携するのかについてである。「公文書館」の取り組みが多種様々であるからこそ、ここで今一度、「公文書館」がどのような立場で学校と連携し、それが何を目標としているかを考える必要があるとの思いに至った。そこで本班では、認知度向上という目的に鑑み、学校との連携を、普及を促す手段と位置づけ、対象を教員(OBを含む)に絞った。それは教員に、さしあたり次に述べる三つの顔を見出したからである。
 第一に、学校における教育者としての顔である。そこで、授業に館蔵資料を取り入れてもらえるような働きかけをしたい。例えば、教員対象の講座や、副読本・ガイド本のような教材提供・教材支援があろう。さらに、そうした授業を受けた生徒等は、地域資料を保存・活用する「公文書館」に対する認識を深められる。このことは、後述するアーカイブズ認識への広まりとも密接に関係する。
 第二に、地域住民としての顔である。教員も一歩学校を離れればひとりの住民である。地域社会で中心となって活動を行う人も少なくない。そうした人々を介して地域社会での「公文書館」認知の広まりも期待できる。
 第三に、学校という組織の一員としての顔である。学校は所在する地域と密接な関係があり、学校資料は、地域の歴史を物語る貴重な資料でもある。学校資料の適切な保存・管理を意識してもらうと共に、そのアドバイザーとしての「公文書館」を認知してもらう意義は大きい。これは、教員の主体的な活動のサポートと位置づけられよう。例えば、地方自治体の「公文書館」には首長部局に設置されているものがある。その場合、関係性の弱さから、教育委員会関係の公文書移管がスムーズに行われにくいこともあろう。教員の認識の深まりは、こうした課題の改善に資するであろう。
 地域に根ざしたアーカイブズの実現をめざし、「認識」「循環」「展開」をキーワードにこれまでの議論をまとめてみたい。
 「公文書館」を人々に「認識」してもらう方法は多様である。そうした中、地域社会を重視すれば、住民参加を促す取り組みが必要である。古文書講座などの各種講座の開催はその好例と言えよう。また、ボランティアやサポーター等支援者の積極的な受け入れは、「公文書館」をより深く知ってもらう好機である。そうした人々のネットワークの広がりと連動した「公文書館」の認知度向上を期待したい。
 また、学校での授業を通じて生徒等に「公文書館」を知ってもらうことも必要である。その「認識」が将来の住民参加のきっかけとなりうるものであり、次の「循環」につながるからである。
 地域社会における「公文書館」の「認識」後に生まれる「循環」は、学校での授業のほか、住民が参加する講座の受講生が習熟し別の講座の講師となること、アーカイブズ関連の講座受講や、授業で館蔵資料や館の刊行物を使用した経験を持つ教員が、地元における地域資料保存の一翼を担うことなどがある。また、大学のアーキビスト養成に「公文書館」が関われば、受講生が卒業後、専門性を持って「公文書館」の業務に携わるなど、より直接的なアーカイブズへの関与につながる。

 以上のように、住民参加と学校との連携を「公文書館」が積極的に行うことにより、「公文書館」の「認識」は広がることであろう。そして、この「認識」を得た人々が、地域社会においてそれを活用することで、「認識」が地域社会で「循環」していくことが期待できる。
 「認識」と「循環」を経てアーカイブズに対する理解は、さらなる「展開」へとステージを変えていけないだろうか。ここでいう「展開」とは、地域住民が、「認識」にとどまらず、良き理解者となって「公文書館」の所蔵資料に興味・関心を持ち、新たな直接的利用者になることである。
 また、アーカイブズ全体から見れば、資料の保存・活用に対する「認識」が地域住民の中に根付くことである。資料の保存と活用が地域に深く浸透することは、「公文書館」の存在を知るだけではなく、その存在意義や必要性をも含めた「認識」へと昇華するのではなかろうか。

4. おわりに

 アーカイブズの認知度向上と利用促進に向け、他機関等との協力・連携や住民参加をめざす取り組みを模索してきたが、同じような問題関心を持つ職員が集まり、議論したことは有意義であった。研修で学んだことを各自がそれぞれの館へ持ち帰り、日々の業務に活かせるよう努力したい。
 こうした機会を与えてくださった関係各位に謝意を示し、筆を擱くこととする。

 

(注)
本稿において、括弧を付した「公文書館」は、各機関の性格・名称が多様であることを考慮し、そうした機関を包括的に表現するものとして用いた。
一方、括弧を付さない公文書館は、ワークショップの課題となった架空の「ふみくら市公文書館」を指す場合に用いた。