行政文書の電子的管理における文書管理の効率化の試みー働き方改革を契機にー

内閣府公文書監察室参事官補佐[1]
村上耕司

はじめに
 公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第66号)第1条は、法律の目的として、「行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに、国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにする」ことを掲げている。適正な文書管理は、過去の意思決定過程や事務・事業の実績を容易に把握できるようにし、行政の事務の効率化・適正化にも資するもの[2]である。各職員がこのことを実感することができれば、自主的に適正な文書管理を行うことが期待できる[3]。
 一方、2019年度から時間外労働の上限規制が設けられ、国の行政機関においても原則として1年につき360時間の超過勤務命令の上限が設けられることとなった[4]。文書管理は行政機関の通常業務であり、行政機関における職員の総労働時間の上限[5]が外生的に設定されることから、文書管理と政策立案・実施等の他の業務との間に労働時間の配分の問題が生じることとなる。
 このような状況を踏まえ、本稿では、文書管理と行政事務の効率化の歴史について概観した後、昨今の行政文書の電子的管理の推進の状況、それを支える試みとして内閣府公文書監察室及び同大臣官房公文書管理課の有志で開発した文書管理支援ツールについて紹介する。
 なお、本稿の内容は筆者個人の私的な見解であり、筆者が属する組織の見解を示すものではないことを申し添える。

1 文書管理と行政事務の効率化の歴史
 内閣制度創成期までさかのぼって文書管理と行政事務の効率化の歴史をひも解くと、現在に通じる問題意識が発見できる。例えば、「内閣制度創始に関する詔勅」(明治18年12月23日)には「繁文(はんぶん)を省き以て淹滞(えんたい)を通じ」とあり、内閣総理大臣から各大臣に発せられた「各省事務整理綱領」(明治18年12月26日)では、「三 繁文を省く事」として、全5項目のうち1項目を割き、「文書繁多の弊」を指摘した上で、「文書に記録の要用と不要とを分」ける、「各局長は毎週一次又は二次其局の文書往復の簿冊を査閲し稽滞を検明」するなど複数の改善策を指摘していた。
 戦後においては、例えば、行政審議会の答申を受け、行政機関の責任体制の明確化と事務処理の簡易迅速化を図るため、「行政運営の改善に関する件」(昭和34年7月10日閣議決定)において、「局長、部長、課長等が常に事務処理の進行過程を把握するよう合理的な文書管理を行うこと」等が定められている。
 その後、「臨時行政調査会の「行政改革に関する第5次答申-最終答申-」について」(昭和58年3月18日閣議報告)では、情報化社会の黎明期の中で、「文書等管理の問題は,単に事務処理上の問題にとどまらず,情報の有効利用の観点からより総合的な改善方策を検討する必要に迫られている。」、「情報管理の理念を従来の保管・保存のための管理から有効な利用・提供を図るという方向へ転換する。」とともに、情報公開との関連で、「的確かつ効率的な行政情報管理と事務処理体制の整備が極めて重要である。行政機関が有用な情報を収集する能力を欠いていたり,蓄積された情報を整然と整理・保管し,敏速・的確に利用・伝達し得なければ,国民への有効な情報提供は事実上困難である。」等の指摘がされている。
 平成に入ると、情報公開法制の確立に関する意見(平成8年12月16日行政改革委員会)において、「情報公開法制が的確に運営されるためには、行政文書が適正に管理されていることが前提であり、その仕組みの整備が不可欠」、「情報公開法と行政文書の管理は車の両輪」等と指摘され、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)において行政文書の管理に関する規定が置かれることとなった。
 以上を整理すると、文書管理と業務効率化は古くから意識され、ときに互いに緊張関係をはらみつつも、ときにはマネージメントの手段として位置付けられ、情報公開制度の議論の発展とともに、文書管理の意義について再認識されてきたということがいえるだろう。

2 行政文書の電子的管理の推進
 既に行政文書がボーンデジタルで作成されるようになって久しく、電子的に文書管理を行うことで、効率・質の向上が期待される。一方で、従来、どのような媒体で保存するかは各行政機関の裁量に委ねられており、行政機関の現場では大多数の行政文書ファイル等が紙媒体で保存[6]されている。
 このような中で、「行政文書の電子的管理についての基本的な方針」(平成31年3月25日内閣総理大臣決定)では、従来の方針を大きく転換し、電子媒体を正本・原本とする原則を打ち出し、新たな国立公文書館の開館時期(2026年度)を目途として本格的な電子的管理に移行することとされた。
 その中では、利便性・効率性と機密保持・改ざん防止のバランスを確保しつつ、プロセス全体を電子化することとされ、手作業を自動処理化して確実・効果的に管理可能な枠組みを構築することが理念として示されている。これを受け、メタデータの管理や移管・廃棄の電子上での実施などを自動化・システム化する枠組みを構築することとし、業務フローや仕様の標準例を具体化することとなっている。
 これは、電子的管理を機に、文書管理の効率化と適正化を一体的に進める取組であり、文書管理と業務の適切な遂行を両立させる極めて重要な試みといえるだろう。

3 共有フォルダにおける文書管理支援ツールの開発・配布
 各行政機関、各職員が電子的管理の意義を実感してもらうためには、電子的管理による効率化の可能性を感じてもらうことが重要である。このような考え方の下、公文書監察室・公文書管理課の有志により、「共有フォルダにおける文書管理支援ツール」を開発の上、各行政機関に参考として配布した。
 同ツールは、共有フォルダによる電子文書の管理を支援するため、
①保存期間表に対応した共有フォルダ(年度、大・中・小分類の階層構造で生成するとともに、小分類フォルダ名に保存期間・レコードスケジュールを表示)の自動作成
②共有フォルダからの行政文書ファイル管理簿情報の書出し
③②で作成した行政文書ファイル管理簿情報から一元的文書管理システム(行政文書ファイル管理簿)への登録様式への書出し
を自動で行うものである。
 基本的な発想としては、以下のとおりである。
 各課室の保存期間表に対応した共有フォルダを自動で一括作成する。各職員は、日常業務を進める中で電子ファイルを小分類フォルダに格納する。年度末などに共有フォルダから行政文書ファイル管理簿に登録するための情報をワンクリックで一括して登録様式に書き出し、一元的文書管理システム(行政文書ファイル管理簿)の機能に基づき、行政文書ファイルの登録を一括で行う。なお、共有フォルダからの行政文書ファイル管理簿情報の書出し(上記②)と行政文書ファイル管理簿への登録様式の書出し(上記③)にあえて一段階を設けることにより、誤登録等をチェックできる仕組みとしている。

図1

図1

 従来の紙媒体での保存であれば、行政文書ファイルとしてまとめる行政文書の特定、行政文書ファイルの保存期間表へのあてはめ、ファイリング(穴あけ、つづり、背表紙の作成等)、一元的文書ファイルシステムへの登録などを1つのファイルごとに各職員が独立の業務として、手作業で行っていた。本ツールは、保存期間表に基づきあらかじめ設定した共有フォルダへの保存を行うことで作業が標準化され、誤登録などを減らしつつ、日常の業務遂行の中でファイリングを行うとともに、行政文書ファイル管理簿への登録を自動化することにより、文書管理の作業時間を減らすことが可能と考えている[7]。

おわりに
 文書管理は、行政の全体の共通事務であり、標準化・自動化を通じた業務の効率化の取り組みは、公務全体の生産性を向上させることになる。本稿のような試みが文書管理の好循環につながり、文書管理と行政事務の効率化の関係を巡る問いかけへの答えの一助となることを期待したい。


[1]肩書は執筆当時。
[2]行政実務家の観点から公文書管理の業務遂行上の意義について述べたものとして、武川光夫「公文書管理法の意義と課題〜東日本大震災における事例を踏まえて〜」アーカイブズ47号(2012.6)参照。
[3]「行政文書の管理に係る取組の実態把握調査(電子文書の保存)調査報告書(平成30年12月)」及び「行政文書の管理に係る取組の実態把握調査 調査報告書」(平成31年4月)においても、文書管理が業務の効率化に資することを実感してもらうことで適正な行政文書の管理につながるよう好循環を作る必要性について指摘がなされている。
[4]人事院規則15-14(職員の勤務時間、休日及び休暇)第16条の2の2。
[5]例えば、ごく粗い試算をすると、365日のうち、週5日勤務(土日104日)、祝日16日、夏季休暇3日、有休休暇5日、元日を除く年末年始休暇5日、一日の定時内の勤務時間7.75時間とした場合、約2,160時間が職員一人当たりの年間勤務時間(超過勤務を含む。)の上限と見込まれる。また、平成30年度年次報告書(人事院)によると、一般職国家公務員府省別在職者数(平成30年1月15日現在。検察官及び行政執行法人職員を除く。)は、272,299人であり、約6億時間が行政機関全体の労働時間の上限と見込まれる。
[6]「平成29年度における公文書等の管理等の状況について」(平成31年2月内閣府大臣官房公文書管理課)では、各行政機関の行政文書ファイル等数のうち、93.1%が紙媒体で保存している。
[7]例えば、ごく粗い試算をすると、平成29年度における公文書等の管理状況について(平成31年2月内閣府大臣官房公文書管理課)による平成29年度の新規行政文書ファイル等数(紙媒体。2,505,421ファイル)に保存・登録に要する作業時間(1時間と仮定)を乗じると約250万時間の効率化が見込まれる。