〔認証アーキビストだより〕 より開かれた、間口の広い館をめざして 

福井県文書館 宇佐美雅樹

1 はじめに
  現在アーカイブズ機関に勤務されている方の中には、教員出身の方も若干いらっしゃるかと思います。私もその一人で、県立高校等勤務を経て福井県文書館(以下本文では「館」と略称)勤務となり、令和4年から副館長を務め、令和5年1月に認証アーキビストに認証いただきました。このたび本稿執筆についてお声がけをいただきましたので、現在に至るまでの私のあゆみと館の近年の取組などを、この機会をお借りして簡単に紹介させていただきたいと思います。なお小稿は、主に一個人の視点からのものであることを断っておきます。
  
2 『福井県史』編さん事業と福井県文書館
(1)県史編さん課での勤務
  大学の文学部史学科で日本近世史を学んだ私は、平成元年に卒業し、地元福井県の高校教員(日本史などを担当)として勤務していました。折しも福井県では、置県100年記念事業の『福井県史』の編さんが佳境を迎えていたころでした。平成3年4月、ほんの2年間の学校勤務の経験しかない私でしたが、県史編さんを担当する県総務部県史編さん課に配属されることになったのです。この人事異動が発令されて、自分は教員としての通常のルートは歩めないのかもしれないなと思ったものです。
  県史編さん課は、数名の行政職員のほか、十数名の教員出身の編さん担当職員に加え、各時代担当の嘱託職員が配された計二十数名の大所帯で、独特のエネルギーに満ちていました。編さん担当である教員出身者は、編さん業務だけでなく通史編の分担執筆も行うのが福井県史の特色のひとつで、歴史研究者の方々とともに中世編と近世編で合わせて50ページ以上を分担執筆することになりました。課内最年少でしかも学部卒でしかない私は、無謀なことを引き受けてしまったと後悔しましたが、上司は「君はこの課では一番若いのだから、今のうちにしっかり学んでおきなさい。将来きっと役に立つ」と激励してくださったのを覚えています。
  資料調査や編集などの県史編さん業務に5年、その後は文書学事課での県史資料関係業務に2年携わりましたが、その間、かなりの時間を割いて県内のいろいろな古文書を読みました。この計7年間の経験は、現在の職や業務に深くつながっていると思っています。

福井県文書館(左)と県立図書館入口(右)

(2)福井県文書館の開館
  自治体史の編さんは、ともすれば一過性の記念事業として、予定の巻を刊行すれば事業終了となり、そのノウハウを持った人材やマイクロフィルムなどの編さん資料など、事業の「遺産」をその後生かしきれないこともあるようです。ただ福井県の場合、一部のスタッフは編さん資料の整理のため文書学事課に移り、また県立図書館の移転準備にあわせ同課内で公文書館建設準備が進められました。そこに至るまでは紆余曲折はありましたが、この県行政の判断と施設更新のタイミングは、のちの館にとって幸運なことでした。
  平成14年3月に「福井県文書館の設置および管理に関する条例」が定められ、翌平成15 年2月1日に福井県文書館が開館しました。県史編さん資料は館が引き継ぐこととされ、かつて編さんに携わった方々数名も開館時の初期メンバーとなりました[1]。

3 県立高校から福井県文書館へ
(1)福井県文書館への異動
  県史編さん事業終了後、2年間の県史資料関係業務担当を経て、私は平成10年に教諭として再び県立高校勤務になり、その後は県教育研究所勤務をはさんで、合計16年間ほど教員の通常のルートを歩んでいました。県立高校で担当した日本史の授業では、地域の古文書関連資料を利用するなど、カリキュラム上の制約はあるものの、多少は特色のある授業を実施できたのではないかと思っています。
  平成26年4月、私は県立高校から館に異動となり、主に古文書関係の業務を担当することになりました。館は業務上、文書主管課である県情報公開・法制課と深く関係していますが、組織上は教育委員会所管で生涯学習を担う機関でもあり、数名の教員が配属されます。私は、古文書の収集・整理・保存、資料の閲覧・公開、加えて展示や講座などの普及啓発事業を分担するなど、さらに幅広い業務をも行うことになりました。
(2)福井県文書館での勤務
  初めてのアーカイブズ機関勤務でしたが、私には当初、専門職員と名乗ることに違和感がありました。それは、いわゆる公文書館に在籍してはいるものの、実際はもっぱら地域資料の古文書を扱っていたからです。もし当時の私が、平成30年12月に国立公文書館が定めた「アーキビストの職務基準書」を目にしたならば、自分はアーキビストとして適格ではないと判断し、アーカイブズ研修Ⅲ受講など認証に向けての手続きを逡巡していたかもしれません。
  そのようななか、上司と地域の古文書について議論している際に、「地域の古文書は、一種の公文書」という話を伺いました。所蔵者宅に伝えられてきた家文書などのいわゆる古文書は、私有財として扱われてきたものであっても、それらは公的な性格を帯びており、よって古文書は地域にとって公共性をもつ一種の公文書である、という意味と理解しました。また、平成29年4月から2年間、館の本課である県教育庁生涯学習・文化財課で文化財(美術工芸品)関係事務を担当し、それを通じて、古文書等の文化財は国民ないし県民の財産で公共性をもつという認識が深まりました。これらの経験から、公文書館における古文書の「意味」や重要性が腹落ちし、かつての私の違和感は解消されたように思います。
  地域の知的資源である古文書が公共性をもつものならば、古文書は公文書とともにより多くの人に利用していただくのが望ましいことになります。この発想・考えは館内の共通認識としてあり、館は開館以来、デジタルアーカイブによる資料の公開やホームページによる情報発信、普及啓発事業を重視しています[2]。
  
4 館の近年の動向から
(1)館ホームページについて
  館の情報発信の柱として館が中心となって運用しているデジタルアーカイブ福井については、当館職員が「アーカイブズ」97号で詳しく述べていますので[3]、ここでは情報発信のもうひとつの柱である館ホームページ(令和7年4月リニューアル)について簡単に紹介します。


  館ホームページは、総合案内、資料検索、資料の利用、イベント、刊行物、学校教育関連の6つのトップメニューがあります。例えば普及啓発事業の主な業務・イベントとして展示の実施がありますが、現在開催中の展示だけでなく過去の展示もホームページ上でアーカイブ化し公開しています。これにより、たとえ来館しなくても、また過去の展示であっても「観覧」することができます。さらにホームページ上の展示資料にもデジタルアーカイブ福井内の該当資料へのリンクを張っており、ホームページ上の展示からデジタルアーカイブの資料にアクセスできるようになっています(写真)。ホームページ上の展示観覧が資料閲覧の入口となっており、この仕組により、より多くの方の資料閲覧利用につなげたいと考えています。
  館ホームページは他に、研究紀要、資料叢書、年報、広報誌等の館の刊行物を掲載するほか、学校の授業等で活用しやすい資料を利用して各トピックを1枚のシート(PDF)にした「学校向けアーカイブズガイド」や、職員が調査研究の過程で得たちょっとした発見を不定期で発表するコラム[4]も掲載し、情報発信を行っています。
(2) 文書館アドバイザーについて
  館では2021(令和3)年度まで、県史編さんにご協力いただいていた歴史研究者4名の方を「記録資料アドバイザー」に委嘱し、会議を開催して県史編さんの財産や成果を確実に引継ぐための方策や、地域の古文書等の調査・研究に関する助言などをいただいていました。例えば、県下の古文書の所在確認を行う資料所在確認調査は、所蔵者の高齢化や社会の変化を背景として、地域で古文書が散逸の危機に直面している事態を受け、記録資料アドバイザーの助言を受けて始められたもので、県内の市町と連携して現在も実施している、館にとって重要な調査です。
  ただ、開館から20年近く経過した時点で、館の課題や今後の方針を改めて考えたとき、過去の県史編さんの枠組みからある程度脱することが必要ではないかとの結論に至りました。そうしないと館の性格が歴史研究のための館に偏ってしまい、多様な興味関心を持つ一般の利用者からみて間口の狭い館になってしまうのではないかとの懸念があったのです。また開館以降、公文書の収集・整理が順調に進むとともに、館の認知度がある程度高まり、公文書の閲覧請求件数が増えるなど、公文書関係業務の比重が開館当初から比べると高くなっており、館が当面する課題も開館当初からは変化していました。
  そこでこれらの理由から「記録資料アドバイザー」の委嘱を見直し、令和4年度から、デジタルアーカイブに精通した研究者の方1名と公文書や電子公文書などに精通した国立公文書館の方1名に、歴史研究者2名を加えた4名の方を、「文書館アドバイザー」に委嘱させていただくことになりました。この背景には、日々進化するデジタルアーカイブや電子公文書の収集・保存・利用などのアーカイブズをめぐる新たな課題についても助言をいただくことで、歴史学だけでなくアーカイブズ学や情報学など専門家の知見を館運営に生かしたいとの考えがあります。文書館アドバイザーの委嘱は、より間口の広い館をめざすための動きのひとつです。

中学校の館内見学(バックヤードを含む。令和6年11月)

おわりに
  有難いことに現在の館には、文書館事務の統括や関係機関との調整など副館長としての職務を担いながらでも、資料に触れ日々新たな発見を得られる職場環境があります。また、テーマ展示やくずし字講座、出前講座等の普及啓発事業も引き続き分担していますが、これらは教員の経験もある程度生かすことができます。さらに、普及啓発事業や閲覧利用事業を通じて利用者の方々からご感想をいただくことがあり、喜びややりがいを感じます。
  一方、反省すべき点もあります。それは、「地域の記憶」を担う公共インフラとしての館の認知度がまだまだ低く、利用者数なども必ずしも十分ではないと考えられる点です。ただこの点は、さまざまな取組を通じて今後改善できる可能性があり、伸び代を残しているともいえるのかもしれません。館運営方針[5]で掲げる、館の目指す姿―「文書等の情報拠点」の言葉さながらに、将来さまざまな方にとって館がより開かれた施設となり、多くの方が多様なかたちで館を利用していただくようになればと考えています。


[1] 開館に至る経緯等については、平野俊幸「福井県文書館の設置経緯と今後の課題について」(全史料協『会報』第68号)参照。
[2] 『福井県文書館年報』第22号
[3] 長野栄俊「デジタルアーカイブ福井」のこれまでとこれから
[4] 福井県文書館 「コラム#ふくいの記憶に出会う」
[5] 福井県文書館 令和7年度 文書館運営基本方針