国立公文書館業務課利用係
伊藤一晴
はじめに
レファレンス[1]は、日本国内のアーカイブズ機関で行われている基本的な業務といえる[2]。独立行政法人国立公文書館(以下、「当館」という。)も例外ではなく、昭和46年(1971年)の開館から現在に至るまで、通常業務の一つとしてレファレンス業務を継続して行っている。
このように連綿と続けられてきたレファレンス業務であるが、当館では現在、令和11年度末の新館開館に向け、「Center for Archives」の理念を実現するための取組の一つとして、レファレンス機能の更なる強化を図っており[3]、令和6年(2024年)度から既存のレファレンス業務の調査と、その調査結果を踏まえた取組を実施したところである[4]。
本稿は、この取組の概要を報告するものである。広くレファレンス業務を行っているアーカイブズ機関の方々にとって、参考になれば幸いである。
1 当館におけるレファレンス業務の課題
【図1】レファレンス件数と閲覧者数・デジタルアーカイブアクセス数の推移
(平成13年(2001年)度-令和6年(2024)年度)
【図1】は当館が独立行政法人化された平成13年(2001年)度以後のレファレンス件数、閲覧者数、国立公文書館デジタルアーカイブ (https://www.digital.archives.go.jp/、以下「当館デジタルアーカイブ」という。)トップページへのアクセス数の推移をまとめたものである[5]。レファレンス件数は、公文書等の管理に関する法律の施行(平成23年(2011年)4月1日)後に増加したものの、その後は年1,000件前後で推移している。これはコロナ禍において閲覧者数が急激に落ち込む中でも同様であった。一方、デジタルアーカイブトップページへのアクセス数は、コロナ禍において急激に増加し111万件を超え、コロナ禍における閲覧利用に代わる利用方法となっていたことが分かる。
近年においては、年間約1,000件の問い合わせに回答しているが、これらのうち、即時の電話対応などで完結する簡易な問い合わせを除く年間約400件について、レファレンス管理表(Excelファイル)へ入力し、回答を行ってきた[6]。しかしながら、膨大な所蔵資料の中から利用者が必要とするものを的確に探し当てることが困難であったり、担当職員の専門性や経験年数に頼ったレファレンスにとどまるといった課題があることを認識していた。
このような課題を解決するため、既存のレファレンス業務の課題把握を目的とした調査からはじめることとした。
1-1 既存のレファレンス業務の調査
最初にレファレンス業務のマニュアルやレファレンス管理表等の文書調査、続けてレファレンス業務の担当職員3名へのヒアリング調査を行い、その結果をもとに既存業務のフロー図を作成し、以下のとおり課題を整理した。
① 簡易な内容の問い合わせ(資料画像の二次利用や開館時間の問い合わせ等)であっても、電話対応や
メール返信などに時間がかかっている。
② 所蔵資料に関する問い合わせの場合、背景や目的、利用者像が分からず、回答作成までに利用者への
照会が必要となっている場合がある。
③ レファレンス管理表への記入・更新に手間がかかっている。
④ 過去の回答ノウハウを今後の問い合わせ対応に活かす運用ができておらず、属人化している面がある。
1-2 利用者の調査・分析
続いて、利用者を対象にしたアンケート調査を以下のとおり実施した。
調査期間:令和6年(2024)9月30日(月)~10月20日(日)
調査方法:Microsoft365のFormsによるオンライン回答
総質問数:30問[7]
有効回答数:81件
期間中、寄せられた問い合わせへの回答メールにアンケートフォームへのリンクを示したり、国立公文書館ホームページ(URL:https://www.archives.go.jp/、以下、「館ホームページ」という。)の「新着情報」にアンケート調査への協力依頼を掲載したりするなどして、回答を集めた。このアンケート調査の詳細な結果を示すことは省くが、レファレンスを利用する場合、多くの利用者が「対応スピードの速さ」や「回答の正確さ」などよりも「調査のサポート力」を求めていることが確認できた(【表】参照)。
【表】Q 今後、当館への問い合わせを行う(レファレンスサービスを利用する)場合、重視することについて教えてください。(複数選択可)

また、館ホームページに対する自由意見として、「調べ方案内が欲しい」、「ホームページが見にくい」、「初めての利用者にとって分かりづらい」といった改善点や要望が寄せられた。さらに、レファレンス管理表を分析するとともに、架空の人物をユーザーとして設定し、その利用者像を可視化・行動分析するペルソナ法を用いた調査を実施した[8]。これらの結果から以下の課題があることを確認した。
① 目的とする情報に到達するために必要となる当館自体の認知に至るまでに時間がかかっている[9]。
② 当館デジタルアーカイブまでアクセスできたとしても、そこから探している所蔵資料に辿り着くことが難しい。
③ 簡単な問い合わせであっても、問い合わせ可能な時間・方法が限られている[10]。
1-3 類縁機関調査
続いて、国内外の類縁機関3館(国立国会図書館[11]、米国国立公文書記録管理院(NARA)[12]、英国国立公文書館(TNA)[13])のホームページから、各機関が利用者からの問い合わせに対して提供しているサービスを調査した。特に各機関のホームページと館ホームページ「ご利用案内」との比較から、館ホームページには、主に以下の課題があることが確認できた。
① 利用者自身で問い合わせを解決しやすい仕組み(館ホームページの構成、参考となるレファレンスや調べ方への
導線設計)となっていない。
② 利用者が求める情報がテーマ別に整理されておらず、調べたい情報へ辿り着きにくい。
③ 利用者自身による調べ方や調査上の来館要否が分かりやすく整理されていない。
以上の調査結果は、担当職員にとって、既に日々の業務の中で感じていた課題であったが、調査を通して改めて明確になった。
2 レファレンス機能の強化に向けた取組
以上の課題を把握した上で、その改善を図るため、令和6~7年度にかけて以下の4点について試行した。
2-1 問い合わせフォーム及び管理システム導入
既存のレファレンス業務の調査において、所蔵資料に関する問い合わせの場合、その背景や目的、利用者像が分からず、回答作成までに利用者への照会が必要となっている、また、問い合わせ可能な時間・方法が限られているなどの課題(1-1②③、1-2②③)が明らかになった。これらの課題を解決するため、新たにMicrosoft365のFormsを活用し、館ホームページ「ご利用案内」に問い合わせフォームを設置することとした[14]。加えて、従来はExcelファイルで作成していたレファレンス管理表をMicrosoft365のListsへ移行し、問い合わせフォームと連携させた。このシステム導入により、レファレンス事例の蓄積や関係する担当係間の即時の情報共有が可能となった。さらにレファレンス管理表への入力を省くなど、電話やメール対応と比べ作業の効率化を図り、専門的な質問に対する回答作成に注力できる環境を整えた。
2-2 AIを活用したツールの導入
簡易な内容の問い合わせであっても、利用者にとって問い合わせ可能な時間帯や方法が限られること、また、電話対応やメール返信などに時間をとられ担当職員の負担となっている課題(1-1①、1-2③)に対し、シナリオAI型チャットボットの導入を検討し、令和7年(2025)2~3月に当館の東京本館内端末において試行的に導入した。このシナリオAI型チャットボットは令和7年度中の本格導入に向けて調整中であるが、本ツールの導入によって、簡易な問い合わせであれば、利用者自身で疑問解決を図ることができる見込みである。さらに、24時間いつでも速やかに回答が得られ、かつ多言語対応も可能となる。担当職員にとっては、簡易な問い合わせへの電話・メール対応が省力化でき、より専門性の高い回答作成に注力できる時間を増やすことが可能となる見込みである。
また、過去の回答ノウハウを今後の問い合わせ対応に活かす運用ができておらず、属人化している面があるという課題(1-1④)を克服する一助として、寄せられた質問に対して回答素案を作成する生成AIナレッジデータベースを構築することとした[15] 。このナレッジデータベースは、運用コストを抑えるため、Microsoft365 Copilotで利用可能なCopilot Studioの機能により、過去の回答例や当館が発行している研究紀要『北の丸』や情報誌『アーカイブズ』などのデータをナレッジとして登録した専用のCopilotエージェントを構築し、回答素案を作成させることで、レファレンス業務の効率化を図るものである。あくまで担当職員が回答案作成に利用するものであり、一般向けに公開するものではないが、利用者にとって回答が得られるまでの時間短縮に繋がるとともに、担当職員にとっても、過去に例のない質問への回答作成に注力できる。こちらも令和7年度中の本格導入に向けて調整中である。
2-3 館ホームページ「ご利用案内」の構成見直し
主に類縁機関調査で明らかになった、館ホームページの構成や参考となるレファレンスや調べ方への導線上の課題(1-3①②③)に対し、館ホームページ「ご利用案内」の構成を見直すこととした。
具体的には、「利用請求」「閲覧」「写しの交付」など制度上の用語を使用したホームページの構成から、利用者のニーズや目的に合わせた「来館して利用する方へ」「来館せずに利用する方へ」「資料の探し方について」など、利用者の視点に基づく構成へ改めた(【図2】参照)。
なお、今回は「ご利用案内」の構成のみを見直したが、館ホームページ全体についても新館開館に向けて見直しを検討中である。
【図2】館ホームページ「ご利用案内」の構成変更
※「新ホームページ階層構造」は令和7年(2025)4月時点のもの
2-4 検索支援ページの構築及びリサーチ・ガイドの作成
利用者の調査・分析において確認した、国立公文書館デジタルアーカイブまでアクセスできたとしても、そこから探している所蔵資料に辿り着くことが難しい、また利用者自身による調べ方や調査上の来館要否が分かりやすく整理されていないといった課題(1-2②、1-3③)に対し、検索支援ページ(「資料の探し方について」)を新たに構築し、さらに目的別の調査方法を簡単にまとめた「リサーチ・ガイド」[16]を作成・掲載することとした。
検索支援ページ(「資料の探し方について」)には、所蔵資料の概要や問い合わせフォームへのリンクなどを整理して掲載した。また、「リサーチ・ガイド」として、令和7年(2025)3月に「引揚者を調べる① -引揚者在外事実調査票-」を、同年10月に「戦争裁判を調べる」を公表した。
この他にも、当館は令和7年(2025)3月には国立国会図書館の運営するレファレンス協同データベースへ参加し、今年度からレファレンス事例の登録を開始したところである[17]。
おわりに
以上、簡単ではあるが、令和6年度から開始したレファレンス機能の充実化に向けた取組の概要を述べてきた。この取組は、先述のとおり、当館が令和11年度末の新館開館に向け、わが国の公文書管理を担う中核的な施設(Center for Archives)としての地位を確立すべく、所蔵資料の利活用を促す取組[18]の一環として進めているものであり、まだ道半ばにある。
今回当館が導入したいくつかのツールは、過去のレファレンス対応の経験や知識を組織として蓄積・活用する道具にはなり得るが、閲覧室での利用者対応など、対面でのサービスを含むレファレンス対応全てを自動化し機械任せにできるものではない。特にレファレンス業務に必要とされる知識(主として所蔵資料に関する知識)は、主として個々の職員の業務経験の積み重ねと自己研鑽をもって修得しうるものであり、それらを組織として蓄積・活用していくためにも、専門職員の継続的な配置を含む、長期的な取組が必要になる。
新館開館時には、今まで以上に当館への注目が高まると考えられる。その際に利用者である国民の期待や要望に応えられるよう、今後もレファレンス機能の充実化に向けて取り組んでまいりたい。
[註]
[1] 当館におけるレファレンス業務は、独立行政法人国立公文書館利用等規則第27条(「館は、特定歴史公文書等の効果的な利用を確保するため、レファレンスを行う。(以下略)」)に基づき行われている。この条文は「特定歴史公文書等の保存、利用及び廃棄に関するガイドライン」(平成23年4月1日内閣総理大臣決定)第26条(レファレンス)の文言とほぼ同じであり、「簡便な方法による利用等」「展示会の開催等」等とともに「利用の促進」に含まれる。
[2] 平成30年度全国公文書館長会議にあたり、同会議参加機関に対し事前に実施したアンケート結果によると、「16レファレンス」の実施率は97.7%となっており、ほぼ全ての館で実施されている(アーキビストの職務基準に関する検討会議(第4回)資料。https://www.archives.go.jp/about/report/pdf/syokumukijun_haifu_04.pdf#page=12、参照日2026-1-21)
[3] 鎌田薫「新館開館に向けた国立公文書館のビジョン」(『アーカイブズ』第93号、令和6年8月30日)。https://www.archives.go.jp/publication/archives/no093/15817、参照日2026-1-21
[4] 本取組は、部分的に業務委託する形で実施した。本稿との関係では、1及び2-1、2-2と2-3の分析を業務委託により行い、2-3ホームページ更新作業と2-4検索支援ページの構築及びリサーチ・ガイドの作成は当館が直接実施している。
[5]『独立行政法人国立公文書館業務実績報告書』及び『独立行政法人国立公文書館業務実績等報告書』を参考として作成。https://www.archives.go.jp/information/#Sec_01、参照日2026-1-21。
なお、レファレンスと密接に関係する閲覧業務については、小林直樹「国立公文書館における利用業務について~中核業務の閲覧と写しの交付を中心に~」(『アーカイブズ』第98号、令和7年11月28日)参照。https://www.archives.go.jp/publication/archives/no098/17710、参照日2026-1-21
[6] 当館におけるレファレンス業務は、令和7年(2025)12月時点で業務課利用係が所掌している。なお、令和5年度以前は、事務分掌上、レファレンス業務は統括公文書専門官室の所掌となっていた。よって、問い合わせの受付けから回答までの業務管理は、業務課利用係が行っていたものの、所蔵資料に関する専門的な問い合わせについては、業務課利用係より統括公文書専門官室へ回答作成を依頼することも多かった。館内でレファレンス機能の強化と事務分掌の見直しが図られた結果、令和6年度からレファレンス業務が業務課利用係の所掌となったため、現在では基本的に同係において回答作成を行っている。
[7] アンケートは、利用者の情報に関する質問(4問)、レファレンスサービスに関する質問(13問)、館ホームページ「利用案内」に関する質問(2問)、チャットボットに関する質問(11問)で構成した。
[8] ペルソナとして一般利用者(27歳、会社員、デジタルネイティブ)によるファミリーヒストリー調査、新聞記者(35歳)による記事作成、一般利用者(72歳、主婦、アナログ世代)の3者を設定した。
[9] ペルソナとして設定した27歳会社員と72歳主婦の場合、戦争で亡くなった家族(曾祖父・父)のことを調べようと考えた時に、親戚・地域の人たちに話を聞いたり、ファミリーヒストリーの調査方法をネットで検索したり、戸籍謄本を入手するといった行動を起こすが、国立公文書館の存在を認知するまでに時間がかかることが想定された。
[10] ペルソナとして設定した新聞記者(35歳)の場合、引揚者に係る資料の問い合わせについて時間が限られること、また画像掲載に係る簡易な問い合わせであっても回答がホームページ上で簡単に見つからないことが想定された。
[11] 国立国会図書館。URL:https://www.ndl.go.jp/、参照日2026-1-21
[12] National Archives and Records Administration。URL:https://www.archives.gov/、参照日2026-1-21
[13] The National Archives。URL:https://www.nationalarchives.gov.uk/、参照日2026-1-21
[14] 問い合わせフォームは、既に当館の所蔵資料の目録とデジタル画像を提供する「国立公文書館デジタルアーカイブ」のページの一つとして設置していたが、主にシステム不具合に関する問い合わせ用としていたこともあり、利用者から見て到達しやすくなっていなかった。今回の問い合わせフォーム新設に伴い、「国立公文書館デジタルアーカイブ」側の問い合わせフォームは廃止し、新設フォームへ一本化した。
[15] 生成AIナレッジデータベースの構築・運用にあたっては「行政の進化と革新のための生成AI の調達・利活用に係るガイドライン」(2025 年(令和7年)5 月27 日デジタル社会推進会議幹事会決定)を参照するなど、適切な運用に努めている。
[16] 「リサーチ・ガイド」(https://www.archives.go.jp/guide/howtosearch.html#Sec_02、参照日2026-1-21)とは、利用者が自立的に目的の資料群及び資料の特定が可能となるように調査方法を文章化したもの。その構想については、石崎亜美「国立公文書館におけるファミリーヒストリー調査者への検索支援に関する研究―厚生労働省移管引揚者関係資料群を事例として―」(『北の丸』第55号、令和5年3月)参照。https://www.archives.go.jp/publication/kita/pdf/kita55_p139.pdf、参照日2026-1-21
[17] 小畑晴美「国立公文書館のレファレンス協同データベースへの参加について」(『アーカイブズ』第99号、令和8年2月27日)。https://www.archives.go.jp/publication/archives/category/no099
[18] 前掲註3参照。


