葛飾区総務部総務課区政情報係
係長 山﨑亜希
1 はじめに
葛飾区では、令和7年10月1日に葛飾区公文書等管理条例(以下「条例」という。)を全面施行しました。本稿では、条例を制定するまでの経緯や条例の内容等についてご紹介します。
2 第一段階:歴史的公文書の保存及び公開等に関する要綱の制定と歴史的公文書の選別開始(平成27~30年度)
平成27年度、公文書等の管理に関する法律の施行及び庁舎内の文書書庫の狭隘化により、「公文書管理検討会(区の部長級のみの会議)」を設置し、約3年間検討を重ね、平成30年3月に「葛飾区文書取扱規程」の一部改正及び「葛飾区歴史的公文書の保存及び公開等に関する要綱」を制定しました。これにより、保存期間「永年」を廃止し最長で「30年」とするとともに、保存期間30年の公文書が保存年限に達した場合は、廃棄、歴史的公文書に指定、保存期間延長のいずれかに分類することとなりました。
ただこの時点では、条例制定の必要性は議論されませんでした。また、この時の特徴として、歴史的公文書に指定するような文書に非公開情報が含まれている場合は、その時点では歴史的公文書には指定せず、公開することができる時期まで保存期間を延長するものとしていました。こういった取扱いをした理由は、おそらく、歴史的公文書は電子データ化し(ただし紙の原本は引き続き保存)、ホームページ上で積極的に公開していこうという方向性であったからだと思われます。
こういった状況のもと平成30年度から歴史的公文書の選定を開始するとともに、選定した文書については、保存に適した外部倉庫(委託事業者の倉庫)での保存を開始しました。本区は、そのほぼ全域が河川の氾濫等による水没の危険性がある地域となっていることもあり、区外の倉庫に保存しています(現時点で公文書館設置の計画はありません)。なお同時期に、6年以上の保存期間を設定した文書についても、外部倉庫での保存を開始しています。

葛飾区公文書等管理委員会の様子
3 第二段階:条例の検討から制定まで(令和4~6年度)
(1)区議会からの要望とセミナー受講
平成30年度以降は上述のとおり文書整理を行っておりましたが、区議会において議員からたびたび条例制定の要望があり、令和4年度に区として条例制定を決断しました。
正直に申し上げますと、担当としては、歴史的公文書の指定はすでに行っていたため、条例化することの意義をよく見いだせずにいました。そのような折、令和5年度に東京都公文書館・特別区協議会共催の「公文書管理法と地方公共団体の課題に関するセミナー」において、東洋大学副学長・早川和宏教授のご講演を拝聴する機会を得ました。ご講演の中で、「公文書の適正・適切な管理によって、現在及び将来の住民に説明する責務が全うされるようにすることが目的」「公文書管理は情報公開制度の土台となるもの。情報公開が条例化されているのだから、公文書管理も条例化するのが適切」「規則(あくまでも各実施機関内の規定)等で取扱いを定めるのではなく、条例において区全体の統一した取扱いを定める必要がある」等のお話を賜り、恥ずかしながらここで初めて、条例化の意義を認識しました。
(2)公文書管理条例準備委員会の設置と条例案の内容検討
条例制定の意義を明確に認識したと同時に、内容の検討には専門家のご意見を頂く必要性をひしひしと感じました。そのため、弁護士、行政法専門の大学教授及び国立公文書館職員を、公文書管理条例準備委員会(以下「準備委員会」という。)の委員にお迎えし、令和5~6年度の2年弱の間、延べ7回、条例案をご検討いただきました。
特にポイントとなった点と結論は以下のとおりです。
ア 歴史的公文書の利用請求の規定を、今後制定する公文書等管理条例に設けるか、あるいは既存の情報公開条例に設けるか
著作権法との関係及び区民にとってのわかりやすさや利便性から、既存の情報公開条例に定めることとしました。
イ 附属機関(公文書等管理委員会)の所掌事項と委員構成
歴史的公文書の指定については附属機関の所掌事項としましたが、廃棄文書の点検は所掌事項とはしませんでした。これは、廃棄文書の点検の際には、文書件名だけでは判断しにくく、公文書原本を見ないと判断できないケースが多いであろうと考えたためです。代わりに、区に常駐する専門職員が廃棄文書の点検を行う仕組みとすることとしました。
また附属機関の委員構成は、弁護士、大学教授、国立公文書館職員に加え、行政書士及び公募区民としました。条例の趣旨から、公文書に関心をもつ区民に参画していただくことが適当であると判断したためです。
ウ 条例の適用範囲
本区には、区が出資その他の財政支出等を行っている法人が2つあります。これらの法人には情報公開条例においてすでに情報の公開を行うための必要な措置を講ずるよう努力義務を課し、区長にはその指導に努める旨を規定していました。そのため、公文書等管理条例においても同様の規定を設けることとしました。
また指定管理者についても情報公開条例と同様の努力義務を課すこととしました。
エ 非公開情報を含む歴史的公文書の取扱い
上述のとおり、非公開情報を含む文書は歴史的公文書に指定せず、保存期間を延長する、という運用をしておりましたが、条例制定時にはこれを改めることとしました。保存期間を延長した文書は所管課で引き続き保存していましたが、必ずしも適切な環境で保存されるとは限らないことが、その主な理由です。また、歴史的公文書における非公開情報の規定は、時の経過の考慮など、現用文書と一部異なる規定としました。
ポイントとなった点等は以上のとおりですが、準備委員会委員の皆様の示唆に富んだご指摘がなければ、これらの結論を導き出すことが難しかったかもしれません。
(3)公文書等専門員の採用
「葛飾区歴史的公文書の保存及び公開等に関する要綱」が施行された平成30年度から、歴史的公文書の選定作業を一般事務職員が実施していましたが、判断に迷うことが多々あり、専門的知識や知見が必要であることを痛感していました。そこで、公文書等管理条例の制定等を見すえて、令和6年度に専門職員として公文書等専門員(会計年度任用職員)を採用しました。応募資格は、認証アーキビストの資格を有する者又は公文書館等における実務経験を3年以上有する者としました。また募集方法について、国立公文書館職員や豊島区の認証アーキビストからアドバイスをいただき、区公式ホームページ、区公式SNS、JREC-IN及び全史料協のホームページで募集しました。そのおかげで想像以上の数のご応募をいただき、そのうちの1名(認証アーキビスト有資格者)を採用することができました。
(4)パブリック・コメントの実施と議会での審議
令和6年12月から約1か月間、条例案及び情報公開条例改正案に対するパブリック・コメントを実施したところ、4名の方から7件のご意見をいただきました。ご意見としては、条例へのご賛同と今後のご要望が多かったと認識しています。
その後、令和7年第1回定例会において、どちらの議案も全会一致で原案のとおり可決決定されました。

東洋大学の早川和宏教授による公文書等管理に関する研修(管理職向け)を実施しました
4 第三段階:条例施行後(令和7年4~9月)
条例は、令和7年4月に部分施行(附属機関である公文書等管理委員会にかかわる条項のみ)、令和7年10月に全面施行となりました。その間に実施したことは以下のとおりです。
(1)公文書等管理委員会の委員選定
委員選定にあたり、準備委員会の委員の皆様に引き続きのご就任いただくことができました。また、行政書士の方にもご快諾をいただけたのと、区民の公募でも、選考の結果、1名の方に委員となっていただきました。
(2)文書取扱規程等の改正及び公文書管理ガイドライン等の制定
条例に基づき、文書取扱規程や各種様式等の改正を行うとともに、職員向けの手引として「公文書管理ガイドライン」も制定しました。いずれも、設置直後の公文書等管理委員会において、短期間でご審議・ご承認をいただき、制定等をすることができました。
(3)庁内への周知
まずは条例の意義等に対する管理職職員の理解が肝要であると考え、令和7年8月、前出の早川教授にご講演をいただきました。また、制定したばかりの「公文書管理ガイドライン」をもとに、職員向けに研修会を実施するとともに、職員向けの庁内報に定期的に記事を載せるなど、少しでも職員の目に留まるよう取り組みました。
5 今後の課題
現在私が感じている課題は、大きく以下の3点です。
(1)職員の意識改革
私がこの条例策定に携わる前は、漠然とですが「公文書は主に自分や後任の職員の事務執行のために作成し管理するもの」という認識しか持っていませんでした。おそらく現在もその程度の認識の職員がほとんどであり、これらの職員の認識を「公文書は、現在及び将来の区民へ説明する責務を全うするために作成し管理するもの」に変えることが、一番の肝だと考えております。一朝一夕では人の認識は変えられないものですので、継続的に根気よく取り組む必要があると考えております。
(2)各システムの運用や電子文書にかかる課題
本区は平成15年度に文書管理システムの利用を開始していますが、現在はシステムだけでなく職員の端末やファイルサーバ等の業務環境が大きく変わる時期であり、公文書管理もそれに対応する必要性を強く感じています。例えば、①文書管理システムと関連システムのリプレイス、②ファイルサーバの入れ替え(旧ファイルサーバのデータをどうするか)、③ガバメントクラウド及び各業務の標準準拠システムの導入(既存システムのデータ移行や標準準拠システムの公文書の管理状況等)、などが課題と感じています。条例の制定を機に、電子文書の取扱いについてシステム担当部門の職員等から質問を受けることが多々あり、その都度国立公文書館や内閣府大臣官房公文書管理課発出の資料を参考にしておりますが、システム関係の基礎知識も求められ、難しさを感じているところです。
(3)業務の効率化
歴史的公文書の選別及び廃棄文書の点検に時間がかかること、また文書件名が羅列されたエクセル表による選別が難しいことなどから、将来的にはAI等を活用した効率的な選別ができるようになることを期待しています。
6 おわりに
条例制定にあたり、本当にたくさんの方々にご教授とご協力を賜りました。特に早川和宏教授をはじめ、準備委員会及び公文書等管理委員会の委員の皆様には、大変貴重なご教示を賜りました。また、本区より先に条例を制定していた豊島区の職員の皆様には大変お世話になりました。紙面をお借りして厚く御礼申し上げます。
拙稿が現在条例制定を検討されている自治体の皆様の参考になれば幸いです。

