北海道立文書館40周年を迎えて

北海道立文書館(北海道総務部行政局文書課文書館)
主任文書専門員 山田正

はじめに
  北海道立文書館(以下「当館」という。)は、昭和60(1985)年7月15日、都道府県レベルでは国内10番目の公文書館として、札幌市にある北海道庁旧本庁舎(通称赤れんが庁舎)内に開館し、令和2(2020)年2月に江別市の現在地に移転、令和7(2025)年7月で40周年を迎えた。
  当館の設立経緯やその後の歩みについては、「hokkaido ebooks」(https://www.hokkaido-ebooks.jp/?page_id=2740)に全号掲載している当館の館報『赤れんが』を御覧いただければ概ね把握していただけると思う。しかし、せっかく貴重な紙面をいただいているので、ここでは筆者が勤務し始めた平成6(1994)年以降で、筆者なりに重要だと思うものを紹介することとしたい。なお、直接関わったわけではないものがある(むしろ多い)がいちいち断っていないことを、御了承いただきたい。
  
1.道内私文書発掘調査(1990~2002)
  この調査は、道内212市町村(当時)を全て回り、民間所在資料の悉皆調査を実施しようというもので、平成2(1990)年度から14(2002)年度まで実施された。
  資料収集の前提としての調査ではなく、現所蔵者あるいは地元で保存が継続されるよう働きかけることを目的としていた。また、調査対象に「地域の政治・経済・社会に顕著な影響を及ぼした」というような制限を付けないことで、新たな情報を掘り起こそうとした。さらに、市町村にも当事者になってもらえるよう、協力を得ながら調査を進めた。
  この調査には当館職員が幅広く動員されたので、職員全体の資質向上につながったものと考えられる。筆者もその恩恵に与ったと感じている。
  
2.北海道文書編集保存規程の改正(1996)
  平成8(1996)年、北海道文書編集保存規程が改正された。
  改正前、文書館への移管(北海道では「引渡し」と呼んでいる。)については「廃棄の決定をした文書であって、文書館資料とすることが適当と認められるものについては、文書館長に引き渡さなければならない」と規定されていた。
  文書館の前身に当たる行政資料課が試行していた経緯から評価選別の主体は文書館と考えるのが自然である。しかし、明記されていなかったため、文書館資料とすることが適当と認められるもの(以下「文書館資料」という。)の判断は主務課がするものだと解釈する職員もおり、文書館資料と判断したものだけを送ってきたり、文書館資料と判断したものがないとし廃棄されたりしたこともあったようである。
  改正後は、文書の保存開始時点で主務課から保存文書台帳の写しを文書館に送付し、それを基に文書館で保存期間満了前までに評価選別を行う方式になった。廃棄決定されてからではなく保存中の評価選別となったため、当該年度に発生した文書の全容を把握した上で評価選別できることとなった。
  また、永年保存文書は、保存期間が10年を超えるもので、保存の必要がなくなったら廃棄・引渡しできるが、実際に保存が見直され廃棄されることは少なかった。そのため評価選別の対象となることは稀であったが、改正により評価選別の対象となったことは、大きな変化であったといえよう。
  
3.北海道総合文書管理システム・文書館情報管理サブシステムの導入(2001~2003)
  当館では、平成13・14(2001・2002)年度に、所蔵資料の目録のデータ化とそのデータを管理するシステムの構築を行った。
  同じ頃、道文書課では、総合文書管理システムの平成15(2003)年10月からの運用開始を目指し動いており、行政情報センター(開示請求や行政情報の提供を所管)及び文書館の業務についてもサブシステムとして整備することとなった。
  当館は、システム本体に関しては評価選別・引渡し指定、引渡し受領の機能の検討に参加し、サブシステムにおいては資料の収集前から整理後までの情報を管理し、一般に提供する機能を主体的に検討するという形で、開発に参画した。
  サブシステム部分の特に公文書については、それまで1点単位で目録を作成して検索手段としていたのを、群や階層といった概念を導入し、1点単位の目録をそれらの中に位置付けることとなった。職員向け環境では、群や階層から掘り下げて検索する仕組みも実装されたが、最終的には、当時の技術やネットワーク環境の制約から、利用者向けには従前の1点単位の目録を検索するシステムが構築されることとなった。
  なお、文書館引渡し済の文書のデータ(コンテンツ)の扱いについても議論がなされたが、文書管理システムの外に出した後も真正性を保っていると主張できる方策を提起できなかったため、引渡し済の文書のデータは文書管理システム内に存置し、管理権限を〔引渡済簿冊を管理するアカウント〕に移す方式となった。
  
4.箱館奉行所文書の重要文化財指定(2004)
  平成16(2004)年、箱館奉行所文書167点が国の重要文化財に指定された。
  指定を受け原本の閲覧利用を抑制することになり、全点をデジタルカメラで撮影、利用は写真(画像)優先、原本は必要な場合のみとした。この時、ホームページ上から画像を閲覧できるようにしたのが、当館のデジタルアーカイブズ(画像閲覧)の始まりである。
  また、指定を記念し「開拓使とその時代」がメインであった常設展示室の一角を、箱館奉行所文書コーナーとした。
  
5.組織改正(2006)
  平成16~17(2004~2005)年頃、全庁的に人員削減、組織機構の見直し、出先機関の統廃合や指定管理者制度の導入が打ち出された。文書課の出先機関であった当館も厳しい検討が求められたが、公文書を扱うこと等を理由に直営を維持する必要があると主張した。その結果、直営は維持されたが、北海道の歴史センター的な役割から道の公文書を主に扱う役割にシフトすることとなり、平成18(2006)年、出先機関から総務部人事局法制文書課の課内組織となり、人員も管理職2人、管理部門3人、私文書部門2人が削減され、23人から16人となった(現在は12人)。
  
6.開拓使文書の重要文化財指定(2014)
  平成26(2014)年、開拓使文書7,832点が国の重要文化財に指定された。
  開拓使文書は点数が多く、全点分の複製物を速やかに用意するのは困難であるため、原本閲覧を継続することとした。箱館奉行所文書の複製物での閲覧を優先する扱いは変更しなかったが、原本を見たいと求められた際の対応は少し緩和することとなった。
  指定を記念し、特別展や記念講演会を開催したが、特別展が当時の総務部長の目に止まって評価され、年2回企画展を開催するようになった。企画展の開催は、文書館が赤れんが庁舎から移転するまで実施した。
  なお、重要文化財になった資料も指定前は自前や業者委託により補修を行っていたが、指定後は文化庁の監督の下、国庫補助を受けて委託により行うこととなった。この事業の中でデジタル撮影が行われるので、成果品画像を利用しインターネットで公開している。
  
7.永年保存の有期限化(2014)
  平成26(2014)年、道は公文書管理規則を改正し、保存期間の最長区分を永年から30年に変更した。前述のように永年保存文書も引渡指定をしていたが、保存が見直され引き渡されることは稀であった。それが30年保存に変更されたことで、旧永年保存文書も文書館に引き渡されることになった。
  この改正の際、法制文書課(文書主管課)が主務課に現存する永年保存文書を調査させたところ、保存文書台帳との乖離が少なからず発見された。そのため、旧永年保存文書については、保存期間(30年)満了時に改めて評価選別・引渡指定をすることとなった。
  
8.移転(2018~2020)
  文書館が設置されていた赤れんが庁舎は大規模改修工事が行われることとなり、これを機に文書館は赤れんが庁舎から移転することが決まった。移転先は札幌市に隣接する江別市内の北海道立図書館敷地内で、平成30(2018)年、新施設建築が始まった。
  当館では、令和元(2019)年9月までで赤れんが庁舎における閲覧業務を終了し、移転準備を本格化させた。新施設は令和元(2019)年11月に完成、引渡しを受け、令和2(2020)年2月に移転を完了した。
  新施設は鉄筋コンクリート造3階建て、延床面積3062.47㎡、うち書庫が1156.43㎡となっている。図書館の北方資料室との複合施設で、閲覧室、書庫、事務室を分割して使用している。上記書庫面積は、北方資料室分を除き、北方資料室との共用分を半分として計算したものである。

  移転後は、閲覧業務再開を4月18日に設定し記念講演会も計画していたが、折悪しく新型コロナウイルス感染症の流行拡大と重なってしまい、講演会は中止、閲覧業務再開も5月26日までずれこんだ。再開当初は、閲覧席数を減らし、人が触れる部分を交代で消毒するなどしたのが思い出される。
  新施設には展示室が設けられなかったが、新型コロナの影響が徐々に低下していった令和3(2021)年10月、2階閲覧室前のスペース等を展示コーナーとした。また、バリアフリーには逆行してしまうが、階段の壁面をパネル(ポスター)展示に利用している。
  
最後に
  永年保存の30年化により引渡しが増加したり、新施設の管理業務が新たに加わるなど、移転前後に新たな業務が増え、移転後5年少々経過しても従前の課題にまでなかなか手が回らない現状であるが、職員一丸となって乗り越えていこうとしているところである。今後とも国立公文書館はじめ、関係諸氏の一層の御指導、御鞭撻、御支援を賜りたい。
 

北海道立文書館デジタルアーカイブズ https://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/mnj/digital/monjokan_digital_archive.html