戸田市公文書館
坂本昭彦
はじめに
戸田市公文書館(以下「当館」という。)は、歴史公文書を適切に保存し、利用に供するための施設として、令和7年(2025)4月1日に開館しました。当館は、独立した建物を有した施設ではなく、市役所本庁舎内の窓口や歴史公文書を閲覧できるスペース等で構成し、公文書館法に基づく公の施設として、戸田市公文書管理条例の規定により設置されました。本稿では、当館の設置経緯、概要、役割、そして、これから本格的に取り組む予定について、ご紹介します。

1 開館までの経緯
戸田市におけるアーカイブズの設置構想は、昭和48年(1973)に開始した市史編さん事業の中で、「終わりのない市史」という理念のもと、アーカイブズ機能の設置・拡充が訴えられたことを契機として、進められてきました。その構想は、昭和58年(1983)の戸田市立郷土博物館(以下「博物館」)の開館によって、博物館内に移動した「市史編さん室」を中心に進められ、昭和62年(1987)の市史編さん事業終了後も、博物館がアーカイブズ機能を担ってきました。平成21年(2009)には、博物館に戸田市アーカイブズ・センター(以下「アーカイブズ・センター」)が開設され、アーカイブズの設置構想がひとつの形になりました。
アーカイブズ・センターでは、それまでに博物館が収集してきた近世の古文書、地図、地域文献等を引き続き管理・保存し、開設後は、そのほかにも、市行政資料、市の非現用文書のうち歴史的な価値を有する文書等を収集し、管理・保存を継続してきました。一方で、業務を進める中での課題として、保存期間の満了後に収集した非現用文書の公開の実現がありました。そこで本市では、情報公開・個人情報保護制度も所管する現用文書の主管課において現用文書と非現用文書の一体的な管理を行い、非現用文書の公開、いわゆる公文書館機能を設置する方向で検討を進めました。令和3年(2021)度には、外部有識者で構成する戸田市歴史公文書管理検討委員会を設置し、制度設計の素案等にご意見をいただきました。検討を進める中で、当初予定していた公文書館機能の設置だけでなく、公文書管理条例の制定を目指す方針となり、令和7年3月に公文書館の設置を含めた戸田市公文書管理条例が制定され、翌4月の開館に至りました。
2 当館の概要
当館は、はじめに述べたように、公文書館としての独立した建物は有していませんが、窓口や閲覧スペース等を庁内に確保した条例により設置された公の施設です。公文書館の所管は市長部局で、館長は文書主管課である総務部行政管理課長としています。行政管理課内に公文書館を設置したため、文書管理・情報公開・個人情報保護制度を担当している同課の市政情報・文書担当の職員が、公文書館の業務も担当しています。そのため、組織的にも人的にも、公文書館と文書主管課が一体となっており、現用文書と非現用文書を一元的に管理しています。この一元的な管理は、当館の特徴でもあり、公文書館が現用文書の段階で歴史公文書の選別に関与する仕組みなどに活かされています。
当館の開館に伴い、それまで教育委員会が所管する博物館のアーカイブズ・センターで所蔵していた史料のうち、市の非現用文書の中から歴史的な価値を有するとして選別し、保存していた文書については、歴史公文書として公文書館に移管することが公文書管理条例の附則で規定されました。これにより本市では、古文書等を所蔵する教育委員会の博物館のアーカイブズ・センターと、歴史公文書を所蔵する市長部局の公文書館という2つのアーカイブズ機関が併存して市に関する記録を保存する体制となりました。
3 歴史公文書の保存、利用
当館の開館に伴い、歴史公文書の所管をアーカイブズ・センターから当館に移管しましたが、当館は歴史公文書を保存する専用の書庫設備を有しないことから、物理的な保存場所については、これまでと同様に博物館内の収蔵庫や委託による民間の外部倉庫での保存が基本となっています。
電子文書については、現時点で公文書館独自の保存システム等を構築することが財政面から難しいと考えており、現用文書の管理で用いている「総合文書管理システム」において、電子媒体の歴史公文書の管理・保存ができるようシステム改修による運用体制の整備を進めています。
本市においては、令和7年4月1日に施行した公文書管理条例により、歴史公文書の利用請求制度が整備されました。これにより当館が保存する歴史公文書を市民等が利用することができるようになりました。市民等の利用は、基本的には、利用請求を受け付けてから審査する仕組みであり、文書を外部施設で保存していることもあるため、公文書館の窓口で即日閲覧することはできません。利用に当たっては、利用請求書を提出していただき、当館で利用制限が必要な部分の審査をした後、利用可能な部分について、当館の閲覧スペースで保存に支障のない範囲で原本を閲覧することができます。
歴史公文書の検索手段としては、整理済みの歴史公文書の目録を市のホームページ上で公表することとしています。公文書管理条例の施行後に選別される歴史公文書については、公文書館での受け入れから随時整理を進め、できる限り早い時期に、目録を公表する予定です。公文書館の開館前に博物館(アーカイブズ・センター)が収集した文書についても、整理が済んだものから順次目録の公表を予定しています。
4 現用段階での歴史公文書の選別
先に述べた当館の特徴でもある現用文書と非現用文書の一元的な管理は、本市の公文書管理条例で定められています。文書主管課と公文書館が連携し、文書の作成・取得から保存期間の満了までの現用段階と、満了後の公文書館での保存又は廃棄まで切れ目なく管理する仕組みとなっています。
また、当館の特徴的な役割のひとつとして、保存期間内に実施する歴史公文書の選別への関与が挙げられます。本市の公文書管理条例では、保存期間の満了時の措置として、歴史公文書に該当するものは公文書館で永久に保存し、それ以外のものについては廃棄することを保存期間の満了前のできる限り早い時期に設定するよう定めています。
本市では、この保存期間の満了前のできる限り早い時期に設定する満了時の措置を当該文書の作成課が単独で設定するのではなく、公文書館(館長及び専門職員(アーキビスト))も確認して設定することとしました。
満了時の措置を設定する時期は、当該文書の保存期間の1年目としています。これは、公文書管理条例施行前に実施していた保存期間の満了時点での選別では、保存期間ごとに選別する年度が異なるため、文書が作成された当時の分類、同じ業務で発生した文書の全体像、文書相互の関連性を選別に反映できていなかったこと等の課題の解決を目的としたものです。
本市では公文書管理条例施行前から、保存期間の2年目に、文書主管課が各課から文書の引継ぎを受け、保存期間の満了まで集中管理してきました。この文書の引継ぎと満了時の措置の設定時期を合わせ、さらに公文書館が関与することで、電子文書を含めた文書の分類やその名称、場合によっては文書の内容を公文書館が確認し、適宜助言することができます。そして、設定した満了時の措置に応じた保存場所や保存媒体等を選択するなど、その後の管理・保存に役立てることで、適正な文書管理を実現しようとするものです。
なお、設定した満了時の措置を保存期間の満了時に公文書館が見直すことができる規定を設けているほか、専門職員(アーキビスト)の確保などの公文書館の選別体制については、外部有識者で構成する審議会が毎年度チェックする仕組みとしています。
5 戸田市アーカイブズ・センターとの連携
当館とアーカイブズ・センターとの連携はこれからの課題です。1つの市にアーカイブズ機能を有する機関が2つあることで、それぞれの性格、専門性を活かせる部分があります。一方で、市民等の利用者からすると、同じ戸田市のことを知りたい、調べたい場合でも、複数の窓口や制度にアクセスしなければなりません。当館設置の準備段階においても、検討委員会で外部有識者の委員から、将来的な窓口・閲覧場所の統一、機能の一体化を検討するようにとのご意見をいただきました。これは本市に限らず、図書館と公文書館、情報公開制度と歴史公文書の利用制度でも同様のことが言えると思います。まずは歴史公文書の利用制度を整備した現状の体制の中で、市民が少しでも利用しやすくなるよう、レファレンスへの対応などで、今後も当館とアーカイブズ・センターが相互に連携を深めていきたいと考えています。
そのほか、歴史公文書の保存と利用・普及の面での連携を考えています。保存の面では、保存場所、保存環境などで、当館とアーカイブズ・センターの実務が重なる部分も多いことから、災害対策などの連携が可能だと考えています。また、利用・普及の面では、当館は展示室等の普及に係る施設を備えていないことから、展示施設を有する博物館(アーカイブズ・センター)と連携することで、アーカイブズの利用・普及を図っていく予定です。
おわりに
本市では公文書管理条例の施行と公文書館の開館が同時であるため、これから制度を運用していく中で、様々な課題も見えてくるのではないかと考えています。公文書管理条例でも明記していますが、当館としての業務を進めていくうえで、現在及び将来の市民に対する説明責任を果たしていくためには、公文書館に専門職員(アーキビスト)が必要であり、その継続的な育成・確保も1つの課題です。また、公文書管理条例施行後に選別する歴史公文書のみならず、これまで博物館が収集した歴史公文書についても、利用に供するために、計画的な整理、目録の公表を進めていくことが重要であると考えています。他自治体の先行事例も参考として、電子文書の管理・保存などの調査・研究や運用の見直しも行いながら、今後とも現用文書と非現用文書の一元的な管理による公文書館業務の適切な運用に努めてまいります。
戸田市公文書館HP:
https://www.city.toda.saitama.jp/soshiki/151/gyosei-cityarchives.html
戸田市アーカイブズ・センターHP:
https://www.city.toda.saitama.jp/soshiki/377/hakubutsu-archives.html
| 機関名: | 戸田市公文書館 | |||
| 所在地: | 埼玉県戸田市上戸田一丁目18番1号(戸田市役所3階行政管理課) | |||
| 電話/FAX: | 048-424-9551/048-433-2200 | |||
| ホームページ: | https://www.city.toda.saitama.jp/soshiki/151/gyosei-cityarchives.html | |||
| 交通: | JR埼京線「戸田駅」下車、徒歩10分 | |||
| 開館年月日: | 令和7年4月1日 | |||
| 設置根拠: | 戸田市公文書管理条例(令和7年3月31日条例第3号) | |||
| 組織: | 総務部行政管理課(公文書館) | |||
| 人員: | 行政管理課:館長(行政管理課長)1名、主幹1名 | |||
| (市政情報・文書担当):副主幹1名、常勤職員4名、会計年度任用職員1名 | ||||
| 建物: | 戸田市役所3階の一部 | |||
| 所蔵資料: | 戸田市公文書管理条例に基づく歴史公文書 | |||
| 開館時間: | 午前8時30分から午後5時15分まで(正午から午後1時までをのぞく) | |||
| 休館日: | 日曜日、土曜日、祝日 | |||
| 年末年始(12月29日から翌年の1月3日まで) | ||||
| 主要業務: | ・行政文書の保存及び集中管理に関すること | |||
| ・行政文書の保存期間及び満了時の措置に関すること | ||||
| ・歴史公文書の移管及び収集に関すること | ||||
| ・歴史公文書を整理し、保存すること | ||||
| ・歴史公文書を一般の利用に供すること | ||||
| ・公文書に関する調査研究及び研修に関すること | ||||
