国立公文書館理事就任のご挨拶

国立公文書館
理事 古矢一郎

  この度国立公文書館の理事に就任いたしました古矢一郎と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
  私は省庁再編前に当時の総理府・総務庁に入庁以降、国家公務員として三十余年を過ごしてまいりました。この間公文書館や公文書管理に関連する業務に携わった経験としては、課長補佐時代に内閣府情報公開審査会事務局(現在の総務省情報公開・個人情報保護審査会事務局)に勤務していたことがあります。2001年の行政機関情報公開法の施行からまだ程ない頃で、のちに先例となるような答申の作成に取り組んでいたことを思い出します。
  その後は様々な部署に勤務し、文書管理に関しては一公務員として関与してきましたが、それぞれの部署で携わっていた業務には、適切に保存された歴史公文書等を拠り所とするものが多数ありました。内閣官房領土・主権対策企画調整室に勤務していた際は、領土・主権に関する国民世論の啓発等に従事していましたが、同室では、我が国の主張の正当性を裏付ける資料として、当館をはじめとした各地の公文書館や図書館等に所蔵されている北方領土、竹島及び尖閣諸島に関する歴史公文書等を調査し、ウェブサイトへ掲載し一部については複製を作成して領土・主権展示館での展示を行っておりました。また独立行政法人の北方領土問題対策協会にも勤務していましたが、同協会でも北方領土に関連する文書や写真、地図等を収集して目録を作成しウェブサイトで掲載するほか、元島民等で構成される団体が行う、戦前の生活実態や引揚げの状況等に関する資料の収集・保存に対する支援を行っておりました。まさに全国の公文書館等での確実な資料の保存が現在の行政の支えになっていることを実地で体験してきました。
  さて、今回長い期間を経て再び公文書管理に関与することになりましたが、あらためてこの間の変化を認識せざるを得ません。検討時にはしばしば情報公開法と車の両輪と言われた公文書管理法の制定施行はもちろんですが、平成末期の一連の公文書をめぐる問題等を踏まえた、行政文書ガイドラインの改正や閣僚会議決定等による適正の確保への取組、行政文書の電子媒体での管理を基本とすることのルール化、東日本大震災への対応を踏まえてガイドラインに盛り込まれた「歴史的緊急事態」に新型コロナウィルス感染症に係る事態が該当する旨の決定等、公文書管理の世界でも想定外の出来事が続きました。また、当館についても国会前庭地区における新館建設が決定し、令和11年度末の開館に向けて工事が始まっています。
  このような変化に対応するために現在キャッチアップに追われているところではありますが、公文書管理や公文書館の世界の変化もほぼ世の中全体の変化と連動しているとも感じているところです。デジタル化の進展は言うまでもありませんが、より適正なコンプライアンスや説明責任が求められるようになったのはどの分野でも同じです。公務員に期待されることやその役割も、以前とは大きく変わりました。
  直近の課題を処理することから文書の歴史的な意義を考えることまで、複数の時間軸の思考が必要とされることがこの仕事の醍醐味のようにも思えます。また、個人としては外国人に日本の文化を紹介することに関心があるので、その際歴史公文書等を現在にも増して活用できないかを考えているところです。精一杯業務に取り組む所存ですので、ご指導ご鞭撻のほどどうぞよろしくお願い申し上げます。