令和6年度 国立公文書館実習を終えて

学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻
博士前期課程1年 翁 遠方、髙津 魁士

九州大学大学院統合新領域学府ライブラリーサイエンス専攻
修士1年 徐 雨戈

  本報告は、2024年8月19日~8月30日に行われた国立公文書館実習について報告するものである。1週目はアーカイブズ研修Ⅰにおいて座学を受講し、2週目は国立公文書館本館およびつくば分館館内で実際の業務を体験した。

  1日目は、国立公文書館館長の講話から始まった。講話では、適切なアーカイブズ管理、公文書館間の連携、電子公文書の管理の重要性について学んだ。また、令和11年度末に開館予定の新館について、展示スペースの拡充計画などが説明され、アーキビストとして果たすべき役割が明確に示された。午後は、アーカイブズの基本概念や国立公文書館の現状、今後の課題に焦点を当てつつ、公文書管理制度の歴史的発展について学んだ。
  2日目は「公文書管理法」の基本的な内容を学んだ。特に、行政文書と法人文書の管理上の違いや、特定歴史公文書等の保存・利用等に関する事項について学習した。続く講義では、公文書の評価選別の手法について学んだので、国レベルと地方公共団体レベルでの選別の違いがよく理解できた。午後は、埼玉県八潮市立資料館でのデジタルアーカイブ導入事例が紹介され、実務的な課題やその解決方法について議論を行った。最後に、グループ討論では、事前に与えられた課題に基づき、テーマごとに班が分けられ議論が行われた。
  3日目は「電子公文書の保存・利用及びデジタルアーカイブ」に関する講義が行われ、国立公文書館の移管・保存システムや、他団体への技術支援の実例が紹介された。次に、「特定歴史公文書等の目録作成等」において、プロセスや国際標準に基づく記述方法について学んだ。午後は、広島県立文書館でのカビ被害事例が紹介され、保存環境の改善やカビ除去作業の具体的なプロセスが説明された。最後に、紙資料の劣化防止や修復の基本方針、環境管理に関する講義が行われた。
  4日目は、「特定歴史公文書等の利用」と「利用の促進」に関する講義が行われた。公文書の利用手続きや審査基準、デジタルアーカイブや資料貸出しの方法を通じて、利用促進の重要性を学んだ。午後のグループ討論では、再びテーマごとに関連する問題点について議論が行われた。私が所属する班では、限られた資金内での資料の保存・修復方法について具体的な解決策を検討した。例えば、業務中の注意事項や設備確認のチェックリスト作成、マニュアルの徹底、職員間での情報共有が挙げられた。討論を進める中で、少子高齢化や組織間の規模格差に対応するため、今後は地域や組織間の連携を強化し、設備や人材、知識を共同で活用し、目標に向けて互いに協力すべきだとの結論に至った。
  5日目には、「他のアーカイブズ等との連携」に関する講義が行われ、内外のアーカイブズ機関とどのように連携しているかが紹介された。特に、国立公文書館の国際的な役割や、アジア諸国との協力の重要性について説明があった。次に、「学校教育との連携」とアジア歴史資料センターについての講義があり、資料のデジタル化や公開、教育への貢献について学んだ。最後に、特別講演の中で、改めてアーキビストとしての役割と史料保存の意義が強調され、1週目の実習が締めくくられた。
  以上、座学を中心にアーカイブズの基本概念や公文書の管理方法について学び、アーキビストとしての基礎的な知識を深めた。(翁)

  2週目の実習は実務中心で、国立公文書館本館とつくば分館で行われた。この5日間では、本館とつくば分館の見学や、国立公文書館の日々の業務を体験した。
  6日目の午前、2週目の実習は学習支援担当の方による館内紹介から始まった。まず数分の国立公文書館紹介映像を視聴し、続いて閲覧室、地下書庫、展示スペースなど、各部屋、スペースを見学した。その上で、学習支援担当の方にはそれぞれの機能について丁寧に説明していただいた。午後は公文書の保存や展示に関する実務を体験した。
  保存業務では、ステープラー、クリップなどの金属除去、書庫の清掃、資料の埃取り作業、カバーかけ、スキャニング作業を実際に体験し、文書のデジタル化作業の現場も見学した。展示の実習では、事前課題として各自が作成した展示計画をプレゼンテーションした後、内容について検討した。展示する際の文書の取扱い方や注意すべき点についても学んだ。
  7日目の午前は、統括公文書専門官室の業務説明から始まり、その後、よく利用しているデジタルアーカイブの便利な機能や現状の課題について、紹介とディスカッションが行われた。続いて、電子公文書等の移管・保存・利用システム(ERAJ)について説明を受けた。以上の講義を通じて、文書管理システムに対する理解を深めることができた。
  午後は、利用と修復に関する実務研修が行われた。利用に関する研修では、来館者の利用請求に対応する手順を学んだ。請求記号から資料を特定する方法、書庫から資料を取り出す方法、利用が終わった資料を元の位置に正確に戻すためのシートの記入や付箋の挟み方、部分公開資料の提供方式を学んだ。資料の出納時は常に注意を払い、各ステップを一つ一つ確認する重要性を実感した。
  修復研修では、破損・虫損のある資料の修復作業を体験した。日本の伝統的な修復技術として、糊と和紙を使い資料を補強する作業をした。糊の作り方から始まり、裂け目や破れた部分に和紙を慎重に重ね、位置を合わせた後、気泡やしわができないように刷毛で丁寧に押さえる裏打ち作業を体験した。その後、木板に固定して乾燥を待ち、最後に乾いた資料を剥がす作業も行った。
  資料の乾燥を待つ間に、和装本を修復する「四つ目綴じ」の技法も体験した。四つ目綴じは構造がシンプルなため、必要に応じて解体して再度綴じ直すことが比較的容易で、修復が必要な古文書や和本に適しているとされた。実習では、修復係の方から本の各部の名称や、糸の通し方、結び方を一つ一つ教えていただいた。(徐)
  8日目の実習はつくば分館で行われた。館に到着次第、まず説明を受けたのは館全体の概要だった。敷地面積が本館に比べて6倍ほどの25,000㎡であることや、つくば市に設立されることとなった経緯等を詳細に解説していただいた。続いてバックヤードに移動し、燻蒸庫と一般書庫(特別管理庫は手前まで)の紹介、また必要に応じて本館との違いを教えていただいた。具体的に述べよう。燻蒸庫では実際に燻蒸業務に従事する担当者立会いのもと、設備の手前まで立ち入らせてもらった。燻蒸のプロセスはその専門性の高さから、中々イメージできるものではなかったので、運用の様子を見学でき勉強になった。また一般書庫では、可動式書庫であることをはじめ、格子状の柵が取り付けられていること、照明がLEDではないことなど、つくば分館ならではの構造を中心に多くの質疑応答を交わすことができた。
  その他、特別展示や常設展示の観覧、ミュージアムショップにおける三つ目綴じ体験も含め、短い時間ながら多様な学びを深める分館見学となった。
  9日目は、また本館に戻って実習を行った。これまでの日程で一通り業務説明を受けていたので、全日を通して実務実習だった。まず午前中には評価選別の実習として、文部科学省の行政文書を事例に、レコードスケジュールの付与状況について検討する体験をさせていただいた。行政文書管理規則別表を対照させながら保存期間満了時の措置を検討する作業は、評価選別時に扱わなければいけない規則、情報源の多様さを習う上で良い機会だった。
  午後には、目録係、利用審査係の実務実習が続いた。どちらも実際の資料を手元に、一次情報を探す工程があった点で共通項があった。具体的には、目録作業においては簿冊の表題をはじめ、移管時担当部局や年月日等の転記、利用審査においては、特定個人・法人の学歴や住所、財産等の情報処理である。これらの作業を通じて、アーカイブズにおける資料調査の必要性を十二分に感じることができた。特に利用審査においては、内容の誤読が個人情報や、法人の機密情報の流出につながりかねないことから、正確かつ丁寧な判読が重要であることを学んだ。
  10日目は、締めくくりとして本実習全体を振り返り、いくつかの論点で専門官とディスカッション、意見交換を実施した。主な議題は、アーカイブズに関心を持つに至ったきっかけ、大学院で学んだことと現場での違い、今後のキャリア等である。多様な経歴を持つ専門官から、三者三様今後の道しるべとなるようなご意見を頂戴することができた。

  最後にはなりますが、お忙しいところ、貴重な機会を提供していただいた国立公文書館の皆様に厚く御礼申し上げます。(髙津)