新型コロナウイルス感染症に関連する昨今の世界的情勢にかんがみ、国際公文書館会議(International Council on Archives、以下ICA)と国際情報コミッショナー会議(International Conference of Information Commission)は、 共同声明として、「COVID-19:記録を残す義務は危機的状況下でも失われず、より不可欠となる」を発表しました(2020年5月4日付)。
本声明は、ARMA International、デジタル保存連合(Digital Preservation Coalition)、ユネスコ「世界の記憶」等の機関にもサポートされています。


声明は、以下の3つの原則に基づき、まとめられています。

1)決定は記録されなければならない。
2)全ての機関において、記録及びデータが、保護・保存されなければならない。
3)シャットダウン期にあっては、デジタル・コンテンツへのセキュリティと保存、そしてコンテンツへのアクセスが促進されなければならない

以下、声明の日本語版(国立公文書館仮訳)を掲載いたします。(英語原文はコチラ




COVID-19:記録を残す義務は危機的状況下でも失われず、より不可欠となる(仮訳)


  国際公文書館会議及び国際情報コミッショナー会議 共同声明


 我々、本声明の署名者は、全世界の政府、企業、及び研究機関に対し、各機関の意思決定や活動を、現在と将来のために記録に残すよう呼びかける。
 ユネスコの声明「新型コロナウイルスの危機を、記録物に対するより強力な支援の機会に変える」を踏まえ、公的及び民間機関の意思決定者が記録管理やアーカイブズの価値を認識するよう求める呼びかけを強調するため、本声明は以下の3つの行動を求めるものである:

決定は記録されなければならない
 COVID-19パンデミックに対応するため、前例のない対策を講じる政府において、記録管理はかつてないほど重要である。
 国民の社会的・経済的・文化的な幸福を確保し、法規範を守るため、政府による、市場や医療、数十億人の日常に、重大な介入を行うことを含めた重要な決定がなされている。
 この度のパンデミックでは、政策決定を伝える大規模な、また小規模なデータにアクセスする利点が示されているが、これによって、記録(紙文書、データ、アルゴリズム、コード、視聴覚記録等)をコンテクスト化する必要性が減じたわけではなく、また政府がデータ分析のプロセスを記録したり、重要な情報を収集せずともよくなったわけでもない。
 これらの決定の基盤、決定事項そのもの、そして関与した上位の意思決定者を網羅的に記録することは、緊急事態の渦中とその後の政府の説明責任を確保するため、そして未来の世代が我々の行動から学ぶことを可能にするためには、不可欠である。
 このような現在の状況においては、通常のプロセスや組織的基盤なしに新たな労働環境が急速に採用されていくために、記録は人知れず危機的状況にあるかもしれない。
 急速に配備されるに違いない、長期的保存・管理が確保されていない技術を使用した記録の管理・保存に対処するため、緊急な対策が取られなければならない。

全ての機関において、記録及びデータが保護・保存されなければならない
 記録するという義務は、政府機関に留まらず、営利団体や、研究・教育機関にもあてはまる。
 パンデミックの影響は広範囲に及び、すべての機関が、適切なデータ及び記録の管理を熟知している必要がある。営利団体は、業務を継続し、権利や資格を証明するほか、政府の助成金を申請するためにも、根幹をなす記録を維持する必要があるだろう。
 研究及び教育機関、とりわけ疾病を追跡し、ワクチンの開発のため病原体のゲノムをマッピングし解析する機関は、該当機関の記録及びデータが正確かつ適切に維持されていることを確保しなければならない。
 適切な記録管理の実践は、事業の継続、研究やイノベーションに限らず、どのように危機が管理されたかを未来の世代に示す証拠となる。アーカイブズ機関は、1918年のスペイン風邪のパンデミックに関する記録の保管者であり、それら記録は全世界の科学者によって研究されている。アーカイブズ機関が、今度はCOVID-19パンデミックに関する記録の要となり得る。
 現在のパンデミックによる経済的・社会的影響は、同様の出来事を防ぎ、予測するだけでなく、この出来事が現在及び将来の世代に及ぼす影響を理解するため、その証拠を残さなければならない。

活動停止(シャットダウン)期にはデジタル・コンテンツのセキュリティと保存、そしてコンテンツへのアクセスが促進されなければならない
 COVID-19パンデミックを研究する能力は、他の同様の出来事を防ぐため、記録管理機関やアーカイブズ機関を必要とする。それら無くしては、現在や未来において、保存やアクセスを可能とする記録やデータは作成されず、収集されないだろう。記録やアーカイブズは「公的記録」と記された紙文書だけに留まらない。記録や記録管理者は、アルゴリズムやラフデータ、あるいは生データ等、ますます複雑化するデジタル媒体を扱うことになる。
 世界中でCOVID-19の深刻な経済的影響が徐々にあらわれてくる中、事業を廃止した企業や民間団体の記録を確保し、捕捉し、保存することも重要となろう。こうすることで、これまでの事業の社会的、文化的、そして経済的重要性さえも、存続することができるのである。
 標準や仕様、定義(「仙台防災枠組」にあるような)の公表には、国際的な同意を得ることが不可欠であるように、アーカイブズ機関にとっても、複合データや報告された情報を裏付ける生データの保管者として認識され、リソースが与えられる必要がある。これらの情報を記録する義務は、危機の最中にあっても、消失するどころか、かつてないほど不可欠となるのである。




国際公文書館会議(ICA)
国際情報コミッショナー会議(ICIC)
ARMA International
科学技術データ委員会(CODATA)
デジタル保存連合(DPC)
研究データ同盟(RDA)
ユネスコ 「世界の記憶」プログラム
ワールドデータシステム