国立公文書館で働くアーキビストたちは、日々どのような業務を行なっているのでしょうか?
知られざるアーキビストの素顔とお仕事を紹介するこのコーナー、今回は「レコードスケジュール」等の専門的技術的助言を行なう担当者にせまります!
アーキビストになられた理由と経緯を教えてください。
私がアーキビストという職業を知ったのは、高校生の時です。
将来歴史学を研究したいと思っていて、その後にどんな職業に就くのかということを考えていた時に、普通は学校の先生ですとか学芸員ですとか、そういったことを考えると思うのですが、私はそれが自分にあまりしっくりこない感じがして、他にどういう職業があるのだろうと探していたのです。ちょうどその頃、公文書館法の制定に尽力された岩上二郎さんという方の本を読みまして、公文書館とアーキビストについて初めて知りました。私は茨城県の出身なのですが、岩上二郎さんは元・茨城県知事で、教員をしていた父の蔵書にご著書があったのです。
その後、大学・大学院と進学してからも、アーキビストという職業はずっと将来の選択肢として頭の中にありました。博士課程の在学中にこの国立公文書館の公文書専門員の募集がありまして、今に至っています。
担当のお仕事について、教えてください。
私は、行政文書のレコードスケジュールの設定と廃棄同意に関する専門的技術的助言を行なっています。公文書というものは、公文書管理法にしたがって適切に整理保存をされなければいけないものですから、作成された時点で「行政文書ファイル管理簿」と呼ばれる公文書の目録のようなものに登録し、「レコードスケジュール」を管理しています。
レコードスケジュールとは、公文書が作成された時に、その保存期間と、保存期間が満了した時にその文書をどうするか、公文書館に移管して永久に保存するのか、それとも廃棄するのかをあらかじめ設定することをいいます。レコードスケジュールは、各行政機関(省庁等)の職員の方、つまりその文書を作成した方々が設定することになっていますが、それが適切に設定されているかどうかについて、私たちは、公文書管理制度を所管している内閣府から「確認依頼」を受け、「専門的技術的助言」を行なっています(図の①)。
また、文書を廃棄する場合は、内閣総理大臣の同意を得て廃棄されますが、その前に、本当に廃棄で良いかという確認が、やはり内閣府より当館に依頼されます。こちらも同様に「専門的技術的助言」をお返しします。(図の②)。
移管か廃棄かを判断する基準があるのでしょうか?
「行政文書の管理に関するガイドライン」というものがありまして、このガイドラインに基準が載っています。これは指針ですので、実際には各行政機関の個性に合わせてそれぞれの基準が作られているわけですけれども、根幹にあるのは、国の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等は国民共有の知的資源である、という考え方です。
行政文書の管理に関するガイドライン |
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保存期間満了時の措置の設定基準
◎基本的考え方 |
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具体的な業務は、どのように行なわれるのでしょうか?
実際には、内閣府より行政文書のリストが届きますので、記載内容を一つ一つチェックしていくことになります。基本的には内閣府を介して依頼を受け、お返事をするかたちをとっていますが、リストの情報だけで判断できない時は、各行政機関の方と直接やりとりを交わします。どうしても必要な場合は、実物を調査することもあります。
このリストのほかにも、各行政機関の方から、「書庫の整理をしていたら突然古いものが出てきたが、どうしたら良いか?」といったご相談を受けることがあります。制度を所管しているのは内閣府ですが、各行政機関の方から直接お問い合わせをいただくことはよくあります。
現在、チームには専門官・専門員と呼ばれる者が私を含め9名、各行政機関からのOBが5名おります。それぞれが自分の担当の行政機関をもっており、それぞれの行政機関で作られている行政文書のレコードスケジュール等について、適切かどうかを日々チェックしています。担当行政機関については、組織や所管の法律、どんな業務をしていてどんな問題が社会的に注目を浴びているのか、などを常に勉強していなければいけません。
このお仕事のやりがいはどのようなところでしょうか?
私たちの仕事はあくまでも助言ですので、移管か廃棄かの判断は、最終的には各行政機関が下します。ですが、その判断に際して、これは当館に移管して保存する文書に該当しますということを助言としてお伝えした結果として、自分が関わった文書が当館に移管されて来た時には、「この文書は永久に残るんだ」という気持ちになりますね。
ありがとうございました。
最後に、栃木さんにとってアーキビストとは何でしょうか?
歴史資料として重要な公文書を利用者の皆さんに提供する、その橋渡しをする人だと思っています。私の仕事は、直接橋渡しをするわけではありませんが、もしかしたら捨てられていたかもしれない価値ある文書を当館に移管するお手伝いをしているので、結果としてはそうなるのかなと考えています。八百屋さんで例えるなら、野菜を買って料理をするのはお客さんで、野菜を店頭に並べたり、品質を管理したり、時には美味しい料理方法なんかを教えたりするのはアーキビストなんですよね。私はその野菜を畑からとってくる部分に関わっているのだと思います。