特集 企画展 「近現代の文書管理の歴史」特集 災害と公文書 記録を守る、未来に活かす。

 明治以降の日本は、文書管理の仕組みが整う一方で、文書の保存が危ぶまれる大災害や戦災にも見舞われました。令和3年度第3回企画展「近現代の文書管理の歴史」から、各時代の災害・戦災当時の資料に注目し、文書保存がどのように行われていたのかを振り返ります。

明治

皇居の火災と記録の復元

 明治維新後、新政府は文書の整理・保存について新しい制度の整備を進めました。明治6年(1873)5月5日、皇居で発生した火災により隣接する太政官庁舎も類焼し、庁舎に保存されていた多くの記録類を焼失します。記録類の復元のため、政府は各省や府県に対し、これまでに太政官に提出した文書の写しを再提出するか、書き写すために職員を派遣するので便宜を図ってほしいという内容の「皇城炎上記録焼失ニ付御達願伺書謄写可差出旨省府県ヘノ達」を出しました。失われた記録を復元し、残すための取り組みがうかがえます。

拡大表示
皇城炎上記録焼失ニ付御達願伺書謄写可差出旨省府県ヘノ達
(請求番号:公00733100)
皇城炎上記録焼失ニ付御達願伺書
謄写可差出旨省府県ヘノ達
(請求番号:公00733100)


コラム

民間人への手当の支給

 皇居の火災があったころ、政府は記録の編纂などのため、民間からも文献などを借り上げていました。ところが、借用した文献の多くが公文書と一緒に火災で失われてしまいます。文献を政府に貸していた京都府の鈴鹿長存と矢倉民之輔には、手当として焼失した文献に相当する金額を支出したことが「京都府管下鈴鹿長存矢倉民之輔差出置候図籍焼亡ニ付御手充被下達」に残されています。




大正

関東大震災と記録の復旧

 大正12年(1923)9月1日に発生した関東大震災は、東京に甚大な被害を及ぼします。中央省庁も多くが火災に見舞われ、公文書の焼失や損傷を免れませんでした。「震災前ニ於ケル日独為替ニ関スル文書ノ件」は、失われた記録を復元するため、逓信省がドイツ郵政庁に対して、過去にやり取りした文書の写しを送るよう依頼し、送付された文書を供覧した文書です。資料中央上部欄外の「震災後復旧事務」という朱書きが、復旧を目的とした業務であることを物語ります。また、大蔵省の「震災焼残文書」は、あちこちに焼け焦げた跡や修復した跡があり、当時の様子を生々しく今に伝えます。

拡大表示
震災前ニ於ケル日独為替ニ関スル文書ノ件(請求番号:昭47郵政00287100)
震災前ニ於ケル日独為替ニ関スル文書ノ件
(請求番号:昭47郵政00287100)

拡大表示
震災焼残文書 第1号
(請求番号:平21財務00231100)
震震災焼残文書 第1号
(請求番号:平21財務00231100)




昭和

内閣保存の貴重公文書と図書の疎開

 太平洋戦争末期、内閣は公文書などを戦禍から守るため、疎開させることを決定。「内閣保存ノ貴重公文書及図書ノ疎開格納ニ関シ之カ警備依頼ノ件」は、昭和20年(1945)8月3日、内閣書記官長から警視総監に対し、公文書の疎開の警備を依頼した文書です。疎開先には個人宅が指定され、どこに何を疎開させたのかが記録されています。戦後、GHQは資料の復旧状況に関する調査を指示。内閣が作成した報告書「官庁公文書及記録ノ復帰ニ関スル件」には、各文書が疎開先から元の場所に戻されたことが確認できる記述も。疎開した文書がたどった道が分かる資料です。

拡大表示
内閣保存ノ貴重公文書及図書ノ疎開格納ニ関シ之カ警備依頼ノ件
(請求番号:纂03073100)
内閣保存ノ貴重公文書及図書ノ疎開格納ニ関シ之カ警備依頼ノ件
(請求番号:纂03073100)

拡大表示
官庁公文書及記録ノ復帰ニ関スル件
(請求番号:類02996100)
官庁公文書及記録ノ復帰ニ関スル件
(請求番号:類02996100)




平成

東日本大震災時の災害派遣に関する行動命令

 平成23年(2011)3月11日に起きた東日本大震災では、自衛隊が被災地に派遣され、最大で10万人が救助や支援に当たりました。「平成23年東北地方太平洋沖地震に対する大規模震災災害派遣の実施に関する舞鶴地方隊行動命令」は、災害派遣命令の伝達に関する決裁文書です。
 東日本大震災に関する文書については、平成24年に、特に重要な政策事項等(コラム参照)に該当し移管が必要になるという考え方が示されました。この文書は、平成26年度に当館に移管され、永久に保存されることになりました。

拡大表示
平成23年東北地方太平洋沖地震に対する
大規模震災災害派遣の実施に関する舞鶴地方隊行動命令
(請求番号:平25防衛00200100)
平成23年東北地方太平洋沖地震に対する大規模震災災害派遣の実施に関する舞鶴地方隊行動命令
(請求番号:平25防衛00200100)

コラム

歴史の教訓を将来に活かすために

 「行政文書の管理に関するガイドライン」(平成23年4月1日内閣総理大臣決定)では、国家・社会として記録を共有すべき歴史的に重要な政策事項であって、社会的な影響が大きく政府全体として対応し、その教訓が将来に活かされるような特に重要な政策事項等について、作成された文書を原則として国立公文書館等に移管することを定めています。平成29年の改正により、東日本大震災関連の文書が、令和4年の改正により、新型コロナウイルス感染症関連の文書が例示されました。また、今般の新型コロナウイルス感染症に係る事態は、上記ガイドラインに規定される「歴史的緊急事態」に該当するものとして、閣議了解されました。