涼 風花(りょう ふうか)先生
公文書の数だけ文字がある。公文書の中には、美文字のヒントがたくさん隠されています。日本書道師範の涼風花先生が当館所蔵資料の美文字ポイントを解説します。
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今号の美文字資料
「故貴族院議員嘉納治五郎勲章加授ノ件」
(請求番号:勲00820100)
東洋人初の国際オリンピック委員会(以下IOC)委員である嘉納治五郎。IOC委員の活動を通じて、日本におけるスポーツ振興とオリンピックの認知度を高め、1940年の東京オリンピック招致を実現しました。嘉納は1938年に逝去し、オリンピック開催も戦争により幻となります。しかし、スポーツを通した心身の発達を唱え、スポーツ・教育分野の発展に貢献した嘉納の功績は、現在でも高く評価されています。文書は、死去に際し旭日大綬章が贈られたときのものです。
涼先生の美文字解説
バランスに優れた美しい楷書
マス目に入るような画一的な文字ではなく、個々のバランスを活かしているのが特徴です。長く伸ばすべき線はのびのびと気持ち良く伸ばし、他の線は引き締めて長短をハッキリとさせています。例えば「等」は9画目の横線だけが長く、他の横線は短くなっています。主役と脇役の線があるようで、主役の線が引き立って感じられます。「議」は我の5画目を長く見せるために、他の線はギュッと詰めて書かれています。「郎」「衛」のように複数のパーツからできている漢字は、それぞれの書き始めや書き終わりの高さを変えているものもあります。線は柔らかく太さも均一で、読みやすく明るい印象です。どことなく真面目で物腰柔らかな方が書かれたように感じられます。
point
主役の線は1漢字1本まで
「士」の部分の横線は「口」の幅にとどめ、「口」の3画目は1画目が少し出る位置から引きます。7、8画目の短い線は少し幅を開けましょう。主役になる9画目の横線は、左側が少し長くなるように伏せて長く引きます。「力」と「口」は引き締めましょう。