公文書等の管理を支えるスペシャリスト 〜認証アーキビストの誕生で変わること〜 国立公文書館をはじめ、都道府県の公文書館などで働く専門家「アーキビスト」。今年度から始まる、アーキビストを公的に認証する「認証アーキビスト」の仕組みについて、当館館長の加藤丈夫、アーキビスト認証準備委員会の高埜利彦氏の二人から話を聞きました。

 アーキビストとは、公的機関をはじめ様々な組織が作成した公文書などについて、歴史資料として重要かどうかの評価選別から、保存した資料の閲覧やレファレンスまで、幅広い役割を担う専門職です。アーキビストの認証は、内閣府から認可を受けた公的な仕組みとして創設するもので、公文書館で働く人などからの申請を受け、有識者によるアーキビスト認証委員会が審査し、国立公文書館長が「アーキビストとしての専門性を有する者」として認証します。

認証によって社会的地位を確立

 認証を開始する背景にあるのは、公文書管理の専門家の不足という長年の課題です。
「日本ではここ数年、公文書の改ざん、誤廃棄といった法令に反した行為があり、その管理の在り方が大きな問題になっています。そこには、いろいろな背景がありますが、公文書の価値判断をする目利きの不足が、一番の原因ではないかと考えています」
 加藤館長がこう語るように、公文書の管理に関する人材の確保・育成は、喫緊の課題です。二〇一六年三月、国の有識者会議によって報告された『国立公文書館の機能・施設の在り方に関する基本構想』の中でも、新国立公文書館の施設の構想と併せ、新施設の機能を担う人材育成の重要性が強調されています。
 こうした認識を踏まえ、国立公文書館が取り組んだのが職務基準書の作成です。「専門家を育成するためには、まず、アーキビストがどんな仕事をする人なのか、その仕事をするためには、どんな能力・要件が必要なのかを明確にすることが必要でした」と加藤館長。外部有識者による検討会議、全国の公文書館と関係機関からの意見を得て、二〇一八年に完成した日本初の「アーキビストの職務基準書」には、アーキビストの職務の内容と、それぞれの職務に必要とされる知識・技能(遂行要件)が具体的に示されています。アーキビストの認証は、この職務基準書に示された能力・要件を満たしていることを公的に認め、アーカイブズの専門家としての社会的な地位を確立することをめざしていると加藤館長は語ります。
「認証の仕組みと併せて、各府省や地方公共団体などのさまざまな部署に公文書管理の専門家の配置を促進していきたい。認証アーキビストの誕生によって需給のギャップが解消され、日本の公文書管理のレベルの向上に繋がることを期待しています」


文書の価値判断ができる『目利き』の育成は、公文書管理の喫緊の課題です 国立公文書館館長 加藤丈夫


「悲願」だった認証アーキビストの誕生

 認証アーキビストの誕生を「悲願達成です」と語るのが、三十年以上にわたりアーキビストの専門職化に力を尽くしてきた高埜氏です。
 一九八七年に制定された公文書館法には、地方公共団体が設置する公文書館には「専門職員を置かないことができる」という附則があります。この附則が設けられた背景には、アーキビストを養成する制度がまだ十分ではなかった、という当時の事情がありました。
「しかし、公文書館を機能させるためには、地方の公文書館であっても、担い手であるアーキビストが欠かせません。ですから、ただこの附則をなくすよう求めるのではなく、しっかりとしたアーキビストの養成制度を作り、人材を社会に送り出していくことも、並行して行わなければならないと考えました」と高埜氏。その後、日本アーカイブズ学会の設立と登録アーキビスト制度の創設、学習院大学大学院での教育など、さまざまなアプローチでアーキビストの養成に取り組んできました。
「アーキビストは、アーカイブズの主人公。アーキビストが専門職として力を発揮するためには、公的な権限が欠かせないと考えてきました。認証アーキビストは国家資格ではありませんが、それに準じた公的な性格を持ち合わせており、将来的に国家資格に発展する可能性も十分あると私は考えています。本当に待ちに待った制度です」
 


「アーキビストは、アーカイブズの主人公。認証アーキビストには、高い専門性と想像力を発揮してほしい。」アーキビスト認証準備委員会委員 学習院大学名誉教授 高埜利彦


求められる専門性とスキルの向上

 認証の開始で、アーキビストにはどんな変化が起きるのでしょうか。高埜氏は、より高い専門性が求められるようになり、アーキビストのレベルアップが必要になると考えています。
「行政文書の場合、各部署で発生する記録について、何を残すかを選別して保存するわけですが、その判断は簡単ではありません。資料を公開する際には、個人情報の保護も重要です。どの資料のどの部分を公開し、どの部分はマスキングしなければならないか、一件一件具体的に判断しなければならない。こうした難しい判断を、専門職として責任を持って行っていく。さらに、世界的な課題である電子情報の保存や管理といった今日的な問題に対しても、専門性を高めなければならない。学会での研究報告や事例の共有などを通じていっそう専門性を高め、スキルアップすることが望まれます。そのため、大学院修士課程修了レベルの調査研究能力を認証対象の要件にしています。これはアーキビストとしての世界標準でもあります」


社会全体への発信力を求められる

 また、高埜氏は、アーカイブズ制度の認識を社会に広げる推進力となることにも期待を寄せています。
「政府や地方の記録をしっかり保存し、国民に公開するアーカイブズ制度は、民主主義のための基本的なインフラです。社会全体でその認識を共有するためには、地域のアーカイブズで小学生の校外学習を行うなど、子どものころから時間をかけて伝えていくことが欠かせません。アーカイブズ制度の中心的役割を担うアーキビストには、そのための発信力も求められるでしょう。さまざまなスキルを持った人がアーキビストになり、何が欠けていて、どうすべきなのか、想像力を働かせて仕事をしていってほしいですね」


認証アーキビストの基本的な要件 1.知識・技能 アーキビストの使命、倫理と基本姿勢を理解し、職務遂行上基本となる知識・技能が学べる大学院修士課程の科目を修得、または関係機関の研修を修了。2.実務経験 評価選別・収集などのアーカイブズに関わる実務経験を、原則として3年以上有している。3.調査研究能力 修士課程修了レベルの調査研究能力を有している。具体的には、修士課程相当を修了し、アーカイブズに係る調査研究実績が1点以上あることが目安。

アーキビスト認証に向けての経緯

 当館では「アーキビストの職務基準書」を踏まえ、アーキビスト認証制度創設に係る具体的な検討を行うため、アーキビスト認証準備委員会を開催してきました。令和元年12月4日に開催した第4回会議において、「アーキビスト認証制度に関する基本的考え方」がとりまとめられました。さらに、これを受け、令和2年3月18日に開催した第5回会議(最終回)においていただいたご意見を踏まえ、「アーキビスト認証の実施について」を決定しました。 各資料はこちらよりご覧いただけます。


アンセア・セレスICA事務総長