北の丸から全国へ —支援者としての国立公文書館—

当館では、全国の公文書館等とのネットワークを形成し、
相互連携を進め、様々な人的・技術的支援に取り組んでいます。
今号ではその事例の一つとして、高知県への支援についてご紹介します。

 行政の適切かつ効率的な運営、国民への説明責任を果たすことを目的に、平成21年に成立した公文書管理法。国の行政機関などを対象に公文書管理の在り方を定めた法律ですが、第34条では、地方自治体にも公文書の適正管理について努力義務を課しています。
 法律を踏まえ、全国の自治体で公文書管理の制度づくりが進められており、当館はこのような動きに資する情報・知見を提供すべく、自治体の担当者を対象にしたアーカイブズ研修などを行って各地の取組を支援し、連携を深めています。また、自治体からの個別の問合せにも対応し、必要に応じて専門家の派遣、指導・助言も行っています。こうしたサポートを受け、令和元年に公文書管理条例を制定し、令和2年春には県の公文書館を開館させるのが高知県です。

令和元年度 全国公文書館長会議全国公文書館長会議の様子


 高知県が当館のサポートを受け始めたのは、平成21年のこと。当館での研修に参加した県の職員が、講師を務めていた当館職員にアドバイスを求めたことがきっかけでした。当時、高知県では公文書の適正管理や歴史的公文書の保存管理について、本格的な取組が始まったばかり。全く知見のない状態だったため、担当職員も手探りの状態だったといいます。
 繰り返し相談を受ける中で、県の要請を受けて平成22年には当館職員が歴史的公文書アドバイザーに就任。公文書の評価選別の基準づくりを中心に、高知に出向いて職員研修や保存環境の視察を行うなど、公文書管理の「基礎固め」を支援しました。
 さらに、平成27年には別の職員が高知県から公文書館アドバイザーの委嘱を受け、新設計画が進んでいた公文書館の運営や機能について助言を行いました。特に施設管理に関しては、閉架式書庫の導入、防虫や温湿度管理などについて具体的なアドバイスを行っています。

高知県立公文書館となる施設
高知県立公文書館となる施設


 また、公文書管理条例の制定に向けて平成30年に設置された「高知県の公文書管理のあり方に関する検討委員会」にも、当館職員が参加。条例の内容、歴史公文書等の選別基準について議論を重ねました。この検討委員会の報告書を元に制定された条例では、公文書を廃棄する際に県の担当部署、県公文書館に加え、第三者委員会が確認する「3重チェック」の仕組みが全国で初めて導入されました。


 地方自治体の公文書管理は、公文書管理法をベースにしつつ、自治体ごとの事情を酌んだ制度にする必要があります。例えば、漫画による地域おこしに力を入れている高知県には、「まんが王国土佐推進課」というユニークな部署があります。ほかの自治体にはないこうした部署でどのような公文書を残すかは、独自に基準をつくらなくてはなりません。また、住民に大きな影響を及ぼした自然災害や事件に関しては、その教訓を将来に生かすため、個別に規定を設け、移管対象とするなどの配慮も求められます。
 また、制度を定める際には作業を行う職員への配慮も求められます。国が定めた「行政文書の管理に関するガイドライン」では、行政文書の保存期間の基準と保存期間満了時の措置の設定基準が、それぞれ別の項目として示されています。しかし、高知県では職員が慣れ親しんできた保存区分を生かすため、それらをひとつの基準表にまとめました。

高知市で行われる「まんが甲子園」のパンフレットも保存される予定
高知市で行われる「まんが甲子園」のパンフレットも保存される予定


 自治体の状況やニーズに応じて当館全体で必要な知識を提供し、課題解決に繋げていくことが、各地の公文書管理制度をより充実させることに繋がります。また、公文書館で働くアーキビストの育成も急務です。今後も当館は、日本の公文書館のハブ機関として、それぞれの自治体の課題に合わせたきめ細かなサポートを継続的に行っていきます。



国立公文書館の地方支援の取組

講師派遣:地方自治体等の開催する講演会や委員会等へ講師や委員を派遣。 被災公文書等救援:自然災害で被災した公文書等の保全のため、助言や水損した資料の乾燥、クリーニングの実技指導などを実施。 研修:国や地方自治体等の職員を対象に、初任者研修や公文書館専門職員養成課程などの「アーカイブズ研修」を実施。