全国には、都道府県、区市町単位で設置された公文書館があります。名称は「公文書館」に限らず、「文書館」、「資料館」、「歴史館」、「公文書センター」など様々で、博物館や図書館に併設され、公文書館機能を有する施設もあります。
そうした全国各地の公文書館では、歴史公文書等を保存し、利用に供するとともに、その地域の方々に公文書館をもっと身近に感じてもらうため、様々な取組を行っています。今号は、埼玉県立文書館と武蔵野市立武蔵野ふるさと歴史館(東京都)を訪れ、その取組を伺いました。
埼玉県立文書館
収蔵資料をもっと学校教育の場で活用し、
親しみのある文書館に
埼玉県立文書館有山 和宏さん
埼玉県立文書館は昭和44(1969)年に創設し、行政文書や古文書、地図、県史編さん資料など、埼玉県に関する歴史的・文化的に価値のある資料を保存・整理・活用している機関です。
中でも特徴的な点は、学校教育の支援を取組の柱の一つに掲げていること。教員籍の職員と学芸員等がそれぞれの専門性を活かしながら協力し、教材資料の提供、小中高大生の受入れ、学校への職員派遣、教員研修などを実施しています。ホームページでは、収蔵資料を用いた社会科学習指導案を掲載するなど、学校現場のサポートに努めています。また、学校へ職員を派遣する出前授業では、データ化した収蔵資料を「調べ学習」で活用し、学芸員の解説を交えることで、児童生徒が理解を深めることをねらっています。出前授業が、児童生徒の埼玉の歴史や歴史学習に興味関心を持つきっかけとなり、将来的に文書館へ訪れてもらえることを期待しています。
また定期的に足を運んでいただくために、館内で常設展・企画展、講座・講習会、子供向けの体験教室などを開催。それら以外にも、館内ガイド冊子を一般用と子供用の2種類用意して分かりやすく工夫を施し、オリジナルマスコットキャラクター「もんじろう」を作成して親しみを持ってもらえるように努めています。こうした活動を通して、子供をはじめとした多くの方々に足を運んでいただき、文書館を広く活用していただけるよう、職員一丸となって各種取組に励んでいます。
出前授業以外にも館内学習や教員研修を実施するなど、収蔵資料の教育現場での活用を幅広く支援
文書館の教員籍職員と学芸員が小学校へ出向く出前授業の様子
講座など普及事業も充実
学校教育の支援を中心に行っている文書館ですが、生涯学習・社会教育の観点から広く県民の方に向けた取組として歴史講座や古文書解読講習会、地図教室などを開催しています。古文書解読講習会はくずし字の解読を通して、地域や歴史の理解を深めていきます。歴史講座は、当館の企画展をさらに深める内容を、地図教室は、県内各地のフィールドワークを行います。それぞれの事業では、担当の学芸員及び職員が講師を務め、埼玉県の歴史を深く学べる工夫をしています。このため、受講生からは好評を博しています。
さいたま市浦和区高砂4-3-18
☎ 048-865-0112(代表)
埼玉県立文書館
マスコットキャラクター
「もんじろう」
武蔵野市立武蔵野ふるさと歴史館
複合施設として
公文書と展示物をつなげたい
武蔵野ふるさと歴史館髙野 弘之さん
武蔵野ふるさと歴史館は、公文書館、博物館、文化財保護普及機能を持つ複合施設です。当館は、武蔵野市の歴史や文化を未来へ継承するため、地域の歴史を学べる場であることに加え、歴史資料を媒体にした市民交流の拠点として設立。以来地域の歴史、文化資源を活用した様々な取組を行っています。
年4回開催する企画展は、地域に根ざした複合施設ならではの展示を行い、歴史公文書等だけでなく考古・歴史・民俗資料を用いることで、子供から大人まで幅広い層の関心を集めています。中でも年度の最後となる4回目の展示では、武蔵野市の公立小学校3年生全員を招待し、「むかしのくらし」をテーマとした学校連携事業を行っています。連携事業では企画展・常設展示・民俗資料を納めた収蔵庫内の見学に加え、石臼で粉をひくなど実物資料に直接触れる体験プログラムを実施しています。
当館では学校連携展示における歴史公文書等の出品に取組んでいますが、これは子供が歴史公文書等を目にする機会を作りたいとの意図によるものです。こうした取組の背景には、公文書の活用方法が浸透していない点があります。公文書は歴史的資料として大変重要にもかかわらず、子供が興味を持つきっかけづくりが難しく、教職員も活用方法を明確に見出していないのが現状です。だからこそ複合施設である当館の強みを生かし、博物館の展示物とそれに関連した公文書を紐づけ、公文書を身近に感じていただければと考えています。
国立公文書館と共催している 企画展「武蔵野のくらし─は こぶ・はかる・のこす─」
数々の歴史公文書等が永久保存されている収蔵庫
武蔵野について深く学べる歴史館大学を開講
武蔵野ふるさと歴史館では、文化財指導員・学芸員・公文書専門員等が講師となり、郷土・武蔵野の歴史・文化について解説する「歴史館大学」を開講しています。毎年4月に生徒を募集し、テーマごとに1年間で10回の授業を実施。受講生は「考古学実習」や「近世武蔵野地域学」、「歴史公文書で見る武蔵野の近現代」など、さまざまな観点から武蔵野地域の歴史を学べます。各講師は受講生の学びを深めるための学習支援にとどまらず、受講生が歴史館を支えるサポーターとして活動していただけるよう様々な工夫を行っています。
東京都武蔵野市境5丁目15-5
☎ 0422-53-1811
武蔵野市立武蔵野ふるさと歴史館
マスコットキャラクター
「むーくん」
地方公文書館等との連携
国立公文書館は、国、地方公共団体、学術団体、協議会など
関係機関と相互に連携・協力を行っています。
ジャパン・アーカイブズ・ディスカバリー
国立公文書館ホームページの「ジャパン・アーカイブズ・ディスカバリー」では、後世に残すべき歴史資料として重要な公文書その他の文書(歴史公文書等)を含むアーカイブズを所蔵し、閲覧等によって利用できる機関を紹介しています。各機関の所在地、歴史、設置根拠、所蔵資料、検索手段などをご覧いただけるほか、所在地やフリーワードによる検索も可能です。
詳しくはこちらから
全国公文書館長会議
公文書管理制度の円滑な運用及び歴史公文書等の適切な保存・利用に資するため、国及び地方公共団体等が設置する公文書館等が直面する諸問題について協議するとともに、公文書館等の緊密な連携を図ることを目的として、平成元年(1989)から毎年、全国公文書館長会議を開催しています。
全国公文書館長会議(令和4年)
講師派遣
外部研修会における講師派遣(令和2年)
国及び独立行政法人等、地方公共団体その他外部の機関が個別に実施する研修会等に対して、求めに応じて、館役職員を講師等として派遣し、講義を行っています。
館外展
国の機関、地方公共団体等が提供する会場で、展示会を開催しています。展示会は、当館所蔵資料(原本、複製またはパネル)と会場提供館所蔵資料で構成し、近年は高知県立公文書館、三豊市文書館(香川県)、武蔵野ふるさと歴史館(東京都)で実施しています。
令和4年度 国立公文書館所蔵資料展武蔵野のくらし
―はこぶ・はかる・のこす―
会期
令和5年1月14日(土)〜4月20日(木)※金曜日・祝日は休館
午前9時30分〜午後5時入場無料
会場
武蔵野市立武蔵野ふるさと歴史館
(東京都武蔵野市境5丁目15-5)
武蔵野市立武蔵野ふるさと歴史館との共催展示である本展では、当館が所蔵する歴史的に重要な公文書や武蔵野市に関係の深い資料をパネルでご紹介します。また、武蔵野ふるさと歴史館が所蔵する武蔵野市の歴史に関する資料をあわせて展示し、鉄道と度量衡と文書管理をテーマに、近代から現代に至る武蔵野のくらしとその変化をたどります。
※本展で展示する当館所蔵資料はすべてパネル展示です。
甲武鉄道会社鉄道線路中新宿立川間ノ運輸ヲ開始ス
明治22 年(1889)4月、甲武鉄道(現在のJR中央本線の一部)が新宿~立川間で開業しました。画像は甲武鉄道の開業について記録した文書です。開業当初、新宿から中野、境(現在のJR武蔵境駅)、国分寺を経て立川に至る5駅が設置され、上りと下りで午前と午後に2本ずつ、合計4往復の列車を運行していました。資料には、当時の運賃や時刻表が記録されています。
【請求番号:類00434100】