アーキビストに聞く

アーキビストを目指したきっかけは、大学院生時代に公文書の魅力と重要性に衝撃を受けたからです。著名な研究で使用された明治35年の閣議書の論文内容に違和感を覚え、地元の大阪から夜行バスで国立公文書館へ。館の職員さんの親切な対応のもと閣議書の原本を見ると、1丁目の下端に小さな和紙の付箋が糊付けされていて、そこには陸軍大臣の痛烈な意見とその閣議決定が墨書されており、思わず息をのみました。定説がひっくり返った瞬間でした。公文書の原本がもつ威力の大きさと、館の職員さんの優しさに触れ、恥ずかしながら館内のトイレで号泣したことを今でもよく覚えています。

 もう一つのきっかけは、利用者として公文書の「関東大震災による焼失」と「敗戦に伴う意図的な焼却」による文書不存在を何度も味わったことです。のちに公文書管理法で公文書等が「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」であると規定されたのを見て、心の底から賛同しました。

 また院生時代に所属学部等の年史の作成に参加しましたが、このとき痛感したのが、大学文書の死蔵・散逸・廃棄などが甚だしいことでした。このままでは本学の諸活動や歴史的事実を誰も知ることができなくなるという危機感がありましたが、大学院を修了して母校の百年史編集室の教員として職を得た後に公文書管理法が制定されたことで、大学文書館設置への道がパッと開きました。その反面、教員ポストは召上げです。

 大学文書の管理で大変なことは、約50部局ある各課の文書管理担当者(教員を含む)との相互理解です。「公文書」の定義や個人情報保護に伴う取り扱いなどへの誤解を少しずつ払拭することは苦労の連続ですが、各担当者の気持ちをくみ取り、寄り添いながら信頼関係を構築することが大切だと思います。

 そして、何より利用者の立場で考え、情報提供することを心がけています。利用者には「調査研究の楽しさ」を存分に味わってほしい反面、個人情報保護等の名目や文書不存在で落胆させてしまうこともあります。ですが、目を輝かせて調査されている姿や、卒業論文に苦しんだ学生の卒業報告を受けるたびに、アーキビストとしてのやりがいを感じます。

令和元年度特別展「新制神戸大学の誕生─新制大学発足70周年記念─」にて来場者に
展示の見どころを説明している様子