国立公文書館 キャッチコピー決定

 昭和46年(1971)7月1日に開館した当館は、本年(2021)開館50周年を迎えるにあたり、これを記念する事業の1つとして新しいキャッチコピーを作成しました。これから、このキャッチコピーを、当館の理念の表現として、記念事業のみならず、様々な情報発信の中で活用していきます。
 キャッチコピーの作成にあたっては、私たち館職員の思いを私たち自身で表現する、ということに重点を置き、募集から選考までを館内で行いました。全役職員を対象とした募集の結果、約1ヶ月間で全53作が集まりました。
 また、あわせて英語版も作成しましたが、これは日本語版の単純な英訳にとどまらず、同じ理念を表現しつつも、英語のキャッチコピーとしてより馴染みやすくアピール性のあるものを目指しました。こうして、当館の理念を2つの言語で表現するキャッチコピーが誕生しました。
 新しいキャッチコピーと、その元となった応募作の作者が込めた「思い」、外部有識者からいただいたコメントを紹介します。



日本語版キャッチコピー 記録を守る、未来に活かす。

提案者のコメント>>>

当館への興味喚起と、自らの使命の再認識を目指して

 「記録を守る」は、国民共有の知的資源である特定歴史公文書等の永久保存、という当館の義務を表現し、「未来に活かす」は、利用者による特定歴史公文書等の活用、というその目的を表現しています。
 みなさまに当館の理念を簡潔にお伝えし、当館に興味・関心を持っていただくきっかけになるように、との思いを込めました。公文書館やアーカイブズに馴染みのない方にも伝わるよう、シンプルな言葉を用いています。
 同時に、私たち館職員が自らの使命を再認識するための標語になるように、との思いも込めました。
 キャッチコピーをきっかけにして、より多くの方に当館の活動について知っていただき、当館をより身近に感じていただけるようになれば幸いです。

国立公文書館 松田暁子

英語版キャッチコピー Archives:Evidence from the Past,Beacon for the Future

提案者のコメント>>>

アーカイブズは過去の事象の証、未来を導く灯火

 英語版作成にあたっては、日本語版の趣旨を汲みつつ、逐語訳ではなく英語としてのわかりやすさや発信力を重視しました。日本語版には、記録を守り伝え、未来の世代が行う選択に活かしていく、という意味が込められていると思いますが、英語版では、証拠を意味するevidence、進むべき道を照らす光を表すbeaconという印象的な2語を盛り込み、アーカイブズは過去の事象の証であり、未来を導く灯火である、というフレーズにまとめました。
 beaconはかがり火やのろし、灯台等を意味する語で、政治家のスピーチでも”beacon of hope” “beacon of democracy”等の形でよく用いられています。


国立公文書館 小原由美子


世界レベルへの到達を掲げたキャッチコピー

 「守る」・「活かす」は質朴にいえば<保存>と<利用>であろう。この二つの主要業務は、国立公文書館が独立行政法人として再スタートした2001年には既に全ての公式文書に含まれていたが、なぜ今、この二つが看板に揃い掲げられたのか。一つは、「公文書管理法」(2009年公布)が行政の現場から国立公文書館までの一貫した<保存>をはじめて本格的に行うことにした点で大きなインパクトを持つものであったこと。もう一つはその後における活動の充実と成熟ではないか。知る限りでも、国が管理すべき歴史資料の「積極収集」、アジア歴史資料センターを含むデジタルアーカイブの充実、専門職制度確立と採用・配置のための「アーキビストの職務基準書」、そして今次の「認証アーキビスト」がある。これら世界レベルの標準スペックを整備し前進させる中で、名実ともに<利用>を看板に掲げるに至ったと見る。読者諸氏とともに「守る」・「活かす」を実践し、応援したいものである。


学習院大学大学院アーカイブズ学専攻教授、日本アーカイブズ学会会長

保坂裕興氏

保坂裕興氏



井上由里子氏

未来の利用者の目線に立った国立公文書館に

 「記録を守る、未来に活かす。」――いったい何のために歴史公文書等を保存するのか。近代の公文書館は、記録を通じて現在及び将来の国民に対する政府の説明責任を全うするという使命を負っている。この使命は、記録を「守る」だけでなく、「活かす」ことによってはじめて全うされる。
 これまで、国立公文書館の閲覧室で静かにページを繰る利用者の多くは歴史学や政治学の研究者であった。展示・学習機能を充実させる新館の開館等によって、国立公文書館はより多くの人々に身近な存在となるだろう。デジタル・アーカイブ化の一層の推進により、時間と場所の制約を超えて利用者が広がっていくだろう。誰がどのような目的でいつどこからどんな公文書を利用したいと欲するのか。国立公文書館のあり方は、未来の多様な利用者の目線で不断に見直していく必要があるだろう。「未来に活かす」をキーワードとする新たなキャッチコピーには、利用者目線に立つ国立公文書館の姿勢が端的に表れている。


一橋大学大学院法学研究科教授、内閣府公文書管理委員会委員

井上由里子氏




価値判断より利用の促進に注力することが使命

 「尊王攘夷」「富国強兵」「脱亜入欧」「三密回避」――スローガンやキャッチコピーは時に集団をリードし、規定する。それだけに、キャッチコピーは貴重であり危険でもある。
 掲題のキャッチコピー、ストレートで混ざりけがなく好感が持てます。国立公文書館の役割が端的に表されています。
 とくに素晴らしいと感じるのは、収蔵資料を単に「記録」としている点。ここには文書の価値判断を避ける意思が窺われます。
 「未来に活かす」ためには、価値判断は未来に委ねなければなりません。収集の時点での価値判断は避けるべきです。利用者の利便性を高めるようにすることが館の最大の使命です。館独自の調査・研究も進めるべきですが、未来にどう活かすかは「紙(神)のみぞ知る」ところ。外国人も含め、利用の促進に注力して欲しい。そこから様々な成果が生まれ、日本理解を促進すると信じます。


「東京人」編集長、都市出版株式会社代表取締役社長

高橋栄一氏

高橋栄一氏



キャッチコピーの館内募集にあたって

 募集にあたって、私たち企画委員会からは、「当館の在り方や社会に対する務めを対外的にアピールし、また私たち館職員自身が改めて確認するための大事なキーワードとして」永く活用していこう、と呼びかけました。応募フォーマットには、そのキャッチコピーが表現する理念を説明してもらう欄も設けたのですが、ここには、当館の務めや展望に対する、実に多様でありながらもいずれ劣らぬ真剣な「思い」が書き込まれることとなりました。館職員たちのこうした「思い」の表現の機会を得られたことに、館内募集としたことの大きな価値があったようにも思います。
 選考にあたっては、込められた理念がうまく伝わるか、使われている言葉の印象や音が良いか、読み易いか、といった様々な点から議論が交わされ、最優秀作1、優秀作1、佳作4が選ばれました。そして、最優秀作の一部の表記を改め、当館の新しいキャッチコピーが決定しました。これから、この新しいキャッチコピーを、様々な場で自信をもって掲げていきたいと考えています。


国立公文書館開館50周年記念事業企画委員会

平野宗明


平野宗明