公文書に学ぶ 大人の美文字講座

公文書の数だけ文字がある。公文書の中には、美文字のヒントがたくさん隠されています。日本書道師範の涼風花先生が当館所蔵資料の美文字ポイントを解説します。
涼 風花(りょう ふうか)先生


渋沢栄一外一名 
臨時財政経済調査会委員命免ノ件
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今号の美文字資料(請求番号:任B01078100)
渋沢栄一外一名
臨時財政経済調査会委員命免ノ件

渋沢栄一(1840~1931)は、生涯に約500の企業の育成に関わり、同時に約600の社会公共事業や民間外交にも尽力した、日本の近代経済社会の基礎を築いた人物です。渋沢は27歳の時、欧州諸国の実情を見聞し、先進諸国の社会の内情に広く通じます。帰国後は、大蔵省の一員として新しい国づくりに深く関わり、その後は一民間経済人として活動しました。文書は、渋沢が大正11年(1922)に臨時財政経済調査会の委員を退任した際のものです。署名部分は渋沢の自筆と考えられています。

涼先生の美文字解説

落ち着きと大胆さのある大人の楷書

軽い筆圧で線の太さを変えない落ち着いた楷書です。「及」「會」など、画数が多くても少なくても線は一定の細さを保っています。筆を使っていると意図していなくても縦線は太く、横線は細くなってしまいます。しかし、この文書の淡々とした筆使いを見ると、人に読ませることを前提とした文書なのだとあらためて思わされると同時に、手抜かりなく仕事をこなす大人の雰囲気を感じました。一方で、一つ一つの文字パーツの大きさには変化が見られます。「間」の字形は正方形に近いですが、門構えは左が小さく、右は大きいという様に変化をつけていることで、バランスが取れています。また、罫線を無視した書き振りには大胆さがあり、ある種の作品っぽさも感じられます。

「及」「會」「間」


今号の手習い「澁」

point

同じパーツは大きさを変える

澁の右側は「止」という字が3つ組み合わさってできています。同じパーツが2つ以上ある場合、大きさをそれぞれ変えて書くとバランスが良くなります。最後の「止」は左の「止」よりも大きめに書くと大きさの差ができて引き締まります。