公文書の数だけ文字がある。公文書の中には、美文字のヒントがたくさん隠されています。日本書道師範の涼風花先生が当館所蔵資料の美文字ポイントを解説します。
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今号の美文字資料
「武徳大成記」
(請求番号:150-0009)
天正10年(1582)6月2日、京都本能寺に滞在していた織田信長は家臣の明智光秀の襲撃を受けました。信長は寺に火を放ち、自害したと言われています。世に言う「本能寺の変」です。江戸幕府によって徳川家康の政権確立の過程が記述されたこの資料では、その後羽柴秀吉が光秀と山崎の地で合戦して勝利を収め、光秀の首を本能寺に晒したと記載されています。資料では、「明智光秀」「本能寺」などの固有名詞には朱で線が引かれています。
涼先生の美文字解説
穏やかさと強さが合わさった
上品な楷書
上品な楷書
多くの楷書が生まれた唐時代を代表する書家の虞世南 が書いた「孔子廟堂碑 」に近いと感じます。字形が正方形でゆったりとしているので穏やかな印象を受けます。例えば、「酒」の相対する二本の縦画は、内側に丸みを帯びるよう(向勢)に書かれており、「秀」の横画から縦画に移る折れの部分は、穏やかに筆が運ばれていて角がありません。しかし、全ての文字が緩やかというわけではなく、「寺」「法」は横画がやや急な右上がりになっており、しっかりとした強さも感じます。真似したくなるような上品で優しげな楷書です。
point
バランスに注意を払う
「光」は画数が少ない文字のため、1画1画のバランスが大切です。2画目は中心に向けるのではなく、縦に下ろすようにします。4画目は右上がりを強く、左側が長めの横画になるように書きます。また、最終画の6画目は尻上がりに線を持ってきてから、真上に払い上げてみましょう。