公文書に学ぶ 大人の美文字講座

公文書の数だけ文字がある。公文書の中には、美文字のヒントがたくさん隠されています。日本書道師範の涼風花先生が当館所蔵資料の美文字ポイントを解説します。
涼 風花(りょう ふうか)先生



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今号の美文字資料 「万葉集」
(請求番号:特117-0008、冊次:3)

新元号の典拠となったことで注目されている万葉集は、現存する最古の和歌集です。7~8世紀後半に大伴家持によって編纂されたと言われ、全20巻、約4,500首を収録しています。この資料は、慶長年間(1596〜1615)に木活字を用いて出版されたものです。新元号「令和」は、梅見の宴会で詠まれた32首の和歌の前に置かれた漢文の序文「初春令月、気淑風和」から取られています。

涼先生の美文字解説

バランスに優れた、
伸びやかで力強い楷書

この資料は古活字本なのですが、木に彫られたそれぞれの活字はすごく綺麗な楷書です。全体としては、楷書が広く普及した唐の時代の作品に影響を受けている印象があり、特に、楷書4大家の一人である顔真卿の「多宝塔碑」に非常に近いものを感じます。文字に注目してみると、「春」や「香」などの右上がりの横線は、筆の弾力を生かして斜めに押しつけるように力強く終筆しています。その分バランスが偏らないように、左払いや右払いの終筆を気持ちよく、伸びやかに払い抜いて強調している点が特徴的です。



今号の手習い「梅」

point

文字のバランスは譲り合いの心

「梅」はバランスを取るのが難しい文字ですが、この万葉集の「梅」は、きへんの重心を高くすることによって、「毎」の部分とぶつからないように書かれています。また、7画目から10画目も余白がバランス良く等間隔になっています。このバランス感覚はぜひ見習いたいですね。