歴史の「行間」を探して

東京大学法学部附属明治新聞雑誌文庫や國學院大學図書館の所蔵資料の一部が、東京本館閲覧室において、デジタル画像で閲覧できるようになりました。これらは、所蔵する公文書の「行間」を埋めることができる資料として収集されたものです。今号では、その取り組みや意義についてご紹介します。

国のかたちや国家の記録をつなぐ「場」となるために

 国立公文書館は、所蔵する公文書などを通じて、国民のみなさんが国の歴史を体系的に理解できるようにするという役割を担っています。近年その役割を強化するために、公文書の「行間」を埋めることができる情報や資料の収集、音声や映像といった多様な媒体で作られた記録の保存など、新たな課題に取り組みはじめました。また、このような取り組みを積極的かつ継続的に行うことで、当館が国のかたちや国家の記憶を伝え、将来につなぐ「場」となることを意図しています。
 この取り組みでは、ほかの機関が所蔵している資料で、国のあゆみを形づくり、当館所蔵資料を補完・補強することができるものを対象としました。当館所蔵資料と関連した資料を一緒に提供することができれば、利用者は、国が行ってきた様々な施策の決定に至るまでの背景や、どのような議論を経て結論にたどり着いたのかといった情報を補うことができ、国のかたちをより深く、多面的に理解することができます。
 これまで当館では、法人や個人でお持ちの歴史的に重要な資料を、寄贈や寄託によって収集してきました。この新たな取り組みでは、寄贈や寄託に加え、デジタル化による収集、さらには当事者にインタビューを行って証言を記録する「オーラルヒストリー」など、新しい手法を使いながら、公文書に限らず幅広い資料を積極的に収集していきます。
 公文書の「行間」を埋める情報や資料といっても抽象的なので、まずは対象とする資料を、おおむね明治時代から現代までの範囲とし、「大日本帝国憲法の制定」等、ゆるやかな指標を持ちつつ、資料の状態やそれをとりまく環境をふまえて、弾力的に業務を進めていきます。なお、収集方針や具体的な収集方法は、有識者による検討会議で議論しています。

情報取集の課題

他機関所蔵の資料をデジタル化して収集

 この取り組みの一環として、現在、ほかの機関が所蔵する資料をデジタル化し、複製を当館で提供する作業が進められています。
 この作業ではまず、収集の候補となった資料について、事前調査や資料所蔵機関との調整を行います。対象に決まった資料は、スキャンしてデジタル画像として記録し、撮影に漏れがないか、画質に問題がないかなどを入念にチェックします。作業後、資料の原本は元の機関で引き続き所蔵し、デジタル複製を当館で所蔵します。
 現在、収集したデジタル複製は、当館東京本館の閲覧室の端末で提供しています。利用者は、閲覧室内で当館所蔵資料とデジタル画像を見ることができるようになりました。さらに、閲覧室の中で利用するだけでなく、展示会やウェブコンテンツでも使用しています。
 貴重な資料は「一点物」であることが魅力ですが、それゆえに、利用の際には慎重な取扱いが求められます。平成三十年度にデジタル化し、収集した大日本帝国憲法の草案は、所蔵している國學院大學図書館で原本を見るためには事前手続が必要です。比較的手軽に利用できるマイクロフィルムでも提供されていますが、フィルムがモノクロで撮影されているため、色が分かりにくいという難点があります。アーカイブズ機関にとって「保存と利用の両立」は重要な問題ですが、資料のデジタル化はこうした問題を解消し、貴重な資料を保存しながら手軽に利用できる環境づくりにも繋がります。
 現在、これまでの国のあゆみを形づくる資料は、様々な機関で保存されています。新たな取り組みによって、個々の資料からだけでは見えにくかった国のかたちの全体像を浮かび上がらせ、近現代の日本の動きをより深く、多面的に理解する手助けになると期待されています。

展開イメージ

デジタル化によって収集した公文書の「行間」を埋める資料

今年度収集された、明治新聞雑誌文庫や國學院大學図書館の所蔵資料。収集資料やその魅力をご紹介します。

明治新聞雑誌文庫 「絵入自由新聞」「一枚物」

明治新聞雑誌文庫 「絵入自由新聞」「一枚物」

「絵入自由新聞」は明治時代に創刊された政党系の新聞、「一枚物」は錦絵や新聞附録など資料形態が一枚のものの総称です。「絵入自由新聞」や錦絵はふり仮名や絵によって市民に分かりやすく世の中の動きを伝える報道の意味合いも持っていました。錦絵の一つ「憲法発布式之図」では明治天皇と共に列席する皇后が描かれており、憲法発布式が日本初の西洋式式典として海外の公使に近代化をアピールする目的を持っていたことがわかります。

東京大学法学部附属 明治新聞雑誌文庫
藤井華織さん

國學院大學図書館 「梧陰文庫ごいんぶんこ 秘庫之部」

國學院大學図書館 「梧陰文庫 秘庫之部」

 「梧陰文庫 秘庫之部」は、明治期の官僚・井上こわしが所有していた文書や図書の中でも、大日本帝国憲法の草案など、近代日本の礎となる法律や制度の成立過程で生まれた資料群です。大日本帝国憲法の草案は3種類あり、条文一つ一つに対して加筆や修正が繰り返された様子が残されています。憲法制定の過程を追うことができるのはもちろん、悩み、迷いながら日本初の近代憲法を一からつくり上げていった人々の苦労も感じられます。

國學院大學図書館
安達匠さん