第3回「保存管理と複製物作成──資料が見られるようになるまで」

国立公文書館で働くアーキビストたちは、日々どのようなことを考えて業務を行なっているのでしょうか?
知られざるアーキビストの素顔を紹介するこのコーナー、今回は保存担当者にせまります!

アーキビストになられた理由と経緯を教えてください。

私は以前、関西方面の県庁に勤務していたことがあり、そこで3年間、公文書の管理の業務に携わっておりました。結婚のため県庁を辞めていましたが、ある時、新聞で国立公文書館のアーキビストの採用に関する記事を読みまして、その時アーキビストという仕事を初めて知ったんです。読んでいると、県庁での職務経験を活かすことができるのではないかと感じました。特に国の重要な文書が国立公文書館で保存され、利用されるということを知って、興味を惹かれました。それで、応募したところ運よく採用されました。

学生時代から公文書管理や歴史などにご興味があったのでしょうか?

私は、実は大学では生物学を専攻しておりまして、卒業後は銀行に勤務しておりました。そういう意味では、館内の他のアーキビストの方とは少し違っているかなと思います。文書管理の世界に接したのは、さきほどお話しした県庁が初めてのことでした。

保存係のお仕事について、教えてください。

保存係の業務は、大きく分けて3つあります。

1つめは、本館に保存する資料の整理及び保存に関すること。
具体的には、書庫の環境管理と維持。温湿度、照明、防虫・防犯・防災対策、清掃も含みます。また、保存する資料の管理と、資料を利用に供するための処理をしています。
資料は、国の機関等から受け入れ、くん蒸処理を行なった後、管理のための請求番号を付します。資料の中に個人情報などがある場合は、そのままの状態では利用していただくことができないので、その部分を見ることができないように、「袋がけ」という処理をしています。さらに、袋がけした部分であっても利用できる部分がある場合は、館内でスキャンを取り、個人情報などの利用できない部分だけマスキング処理をしたものを印刷して、資料と一緒に利用者に提供しています。そういう代替物がある資料には、出納時にわかるように帯をかけています。
また、資料の状態をみて、修復が必要かどうかということも、修復係と一緒に判断しています。

奥:袋がけされた資料 手前:袋がけ部分のスキャンを取り、マスキング処理をした代替物
奥:袋がけされた資料
手前:袋がけ部分のスキャンを取り、マスキング処理をした代替物

2つめは、目録に関すること。
国立公文書館では、主に春と秋に国の機関等から文書を受け入れており、受け入れから1年以内に目録を作成し、公開しています。受入窓口と目録の作成はつくば分館で行なっていますが、分館で作成された目録を確認し、データを変換してデジタルアーカイブにアップロードする業務は本館で行なっています。また、目録の維持管理を行なっています。

3つめは、複製物の作成に関すること。
資料の永久保存と広く資料を利用してもらうことを両立させるために複製物を作っています。これまでは劣化破損が著しい資料のマイクロフィルム化を進めていたのですが、そちらが一段落したので、現在はスキャニングによるデジタル化を進めています。毎年、対象資料を選定し、ページ数や破損状態などを確認してから、年度初めに「複製物作成計画」を公表し、その後、順次撮影を実施しています。

お仕事のやりがいはどのようなところにあるのでしょうか?

来歴や形態がさまざまな資料を受け入れ、今後100年、200年と保存して、利用に供していくところにあると思います。当館で一番古い資料は908年の文書ですが、これらの資料は代々の保存担当者が大切に保存してきたからこそ、今、私たちが利用できるものです。私もその一員として、所蔵資料を未来に繋げていきたいです。

お仕事をしていく上で、気をつけていることや、問題だと感じていること、
今後の展望などありましたら教えてください。

日々の仕事は、資料のほこり取り、書庫の温湿度の管理や、毎日のお掃除など地道なものも多いですが、そうした日々の積み重ねがあってこそ、百年後も二百年後も資料が保存され、利用され、永久保存されていくと思います。

資料のほこり取りの様子
資料のほこり取りの様子

一方で、保存対策に関する技術等は日々進化しています。例えば、酸性物質によって資料がボロボロになってしまう酸性紙劣化という問題がありますが、去年、脱酸性化処理技術について、900冊の試行をしました。このように、最近の技術も採り入れながら、より良い保存対策をとることができるよう努力していきたいと考えています。

また、複製物作成については、1年間に撮影できる量が限られています。今年は約3万冊、210万コマの撮影を計画しておりますが、今後、さらに資料のデジタル化の推進に向けて努力したいと思います。

書庫内清掃の様子(掃除機)
書庫内清掃の様子(掃除機)
書庫内清掃の様子(はたき)
書庫内清掃の様子(はたき)

読者の方に伝えたいことはありますか?

資料を大切に保存しておりますし、デジタル画像も作っているので、一人でも多くの方に利用していただきたいです。
あとは、閲覧室で資料に触られる時には、どうか丁寧に利用していただければと思います。保存のことだけ考えるなら、原本ではなく複製物を利用いただく方が良いのです。けれども、当館は保存と利用のための施設ですから、利用者の方にはできるだけ資料の原本をご利用いただいております。
閲覧室では原則として資料の原本をご覧いただけるということ、そして、デジタルアーカイブの画像は、ご自宅でも職場でも、いつでもどこからでも見られるということを、もっと広めたいです。

ありがとうございました。
最後に、中村さんにとって、アーキビストって何でしょうか?

館の所蔵資料と利用者の方を繋ぐ存在と考えています。
さまざまなニーズで来館される利用者の方がいます。その方が、約137万冊の所蔵資料の中から必要な資料をベストな状態で利用して頂けるよう、適切な保存を図るため日々、努力を積み重ねたいと考えています。

一番古い資料は908年──代々の保存担当者の一員として、所蔵資料を未来に繋げていきたいです