アーキビストの仕事にせまる!第一回「特別展ができるまで」

国立公文書館では、日々どのような業務を行なっているのでしょうか?
知られざるアーキビスト(公文書専門員)のお仕事を紹介するこのコーナー、記念すべき創刊号第一回は、特別展の企画担当者にせまります!

そもそも、国立公文書館では、なぜ特別展を行なっているのでしょうか?

いきなり少しかたい話になってしまいますが、国立公文書館という施設のあり方を規定している「公文書管理法」という法律があります。その第23条に、国立公文書館が所蔵する重要な「特定歴史公文書等について、展示その他の方法により積極的に一般の利用に供するよう努めなければならない」とあります。当館では、この「利用促進の努力義務」にのっとり、年に2回、春と秋に特別展を、その間に企画展を行なっています。国立公文書館の展示は基本的に無料です。展示をきっかけに、国立公文書館と公文書に興味を持って頂ければと思っています。

平成26年特別展「江戸時代の罪と罰」の反響を教えてください。

おかげさまで、来場者が1万5千人を突破しました。ちょうど皇居の乾門の開放の影響があって普段より多くの人が訪れると言っても、せいぜいプラス3千人ぐらいかなと思っていたのですが、予想より多くて、とても嬉しいです。

反響というのは、ぼくはそこまで実感はないです。主催する側は、時たまパネルが落っこちていないかとか、ズレていないかとかを見るだけなんですよ。ただ、いわゆる個人のブログとか、そういうもので結構反響を呼んでいるみたいですね。前の「旗本御家人」の展示の時もそうだったんですが、ブログやツイッターなどを通して、全然歴史好きじゃない人や、関係ないような人が見に来てくれる。今回は特に、若い女性がとても多かったように思います。

江戸時代の罪と罰ポスター
タイトルロゴとすし詰め状態の牢獄の絵が印象的なポスター
こちらより「江戸時代の罪と罰」の目録をご確認いただけます
駅や地下鉄、電車内の広告を見て興味を惹かれたという方もたくさんいらっしゃいました。大変印象的なタイトルでしたが、企画の発端はどのようなものだったのでしょうか?

前々館長のときに、3年分くらいテーマを決めてやったらいいんじゃないかという話があって、企画を考えました。国立公文書館には、法律関係の資料も、裁判関係の文書もあり、ここにしかないものも沢山あるので、それをメインにしてみようということになりました。

「罪と罰」というタイトルは、関係者の間でわりと浸透している言葉なんです。平松義郎という有名な学者が、昔、平凡社選書で『江戸の罪と罰』という学術書を出していますし、名古屋大学の法学部の図書館でも、最近「罪と罰」という言葉を入れた江戸時代や刑法の展示をしたことがあります。だから、このテーマならこのタイトルがぴったりかなと。

非常に盛り沢山な内容でしたが、展示品をリストアップする際にこだわった点はありますか?

いつも心がけているのですが、「凡庸なものは出さない」「貴重書は出さない」。国立公文書館が所蔵しているコレクションの中には、もちろん貴重書や重要文化財が沢山ありますが、貴重な本だから展示するというのは、それは普通なんですね。そうではなく、来た人、見た人の魂を揺さぶるような、そういう展示をしたい。だから基本的には見せる展示ではなく、「読ませる」展示です。ほとんど字ばかりですが、一通り周ると、何か揺さぶりを感じて出て行ってくれるように考えて、資料を選びました。

坂本龍馬や戦国大名などの有名人の展示をやっても、歴史ファンじゃない普通の人にとっては、「ふーん、でも、私と何の関係があるの?」となると思うんですよね。いわゆる偉人、有名人に焦点を当てた展示が多すぎる。それはそれで歴史をみる楽しみだと思います。最後のほうに鼠小僧や長谷川平蔵の資料を入れましたが、彼らについても、小説やお芝居に出てくる姿とはちがう、生の姿を伝えるようにしました。

「江戸時代の罪と罰」展 展示風景
ポスターにも使用された河鍋暁斎の絵は、大きく引き伸ばされ、パネル展示された。
『暁斎画談』より、担当者お気に入りの1枚

虐待や冤罪など、現代に繋がるようなお話が多くて興味深いという声も聞かれました。

基本的に、現代に通じることだけに絞って展示をしました。たとえば、当時の未成年ということは、数えで15歳以下、つまり13、4歳なんですよ。そんな年齢で客商売させられたり、結婚して出産して堕胎させられたりというのは、日本ではなくても、外国では今まさに問題になっているでしょう。そのような社会が江戸時代にはあって、一方で、老人介護をしている息子が火事で父親を死なせてしまっただけで重い罪を受けたり、児童虐待で母親が罰を受けたり。

「江戸時代の罪と罰」展 展示物
六ヶ月以上牢舎并出牢之上溜預人数書付 慶応2(1866)年
(ろっかげついじょうろうしゃならびにしゅつろうのうえためあずけにんずうかきつけ)
遊女の「花柳」、「小菊」、百姓の「たみ」……在牢者名簿には江戸庶民の克明な記録が残されている

それから、冤罪の話。実は、12〜13世紀頃の中国の裁判実話集に出ているものと、現代の日本社会における冤罪の構造は何も変わっていません。役人としては自分の業績や点数のために、とにかく犯人を挙げないといけない。そして、挙げた限りは白状させないといけない。江戸時代も全く同じ状況だったわけです。町奉行所与力が、無実だとわかっている家の召使いに言いがかりをつけて自白するかどうか試してみるエピソードをコラムで紹介しましたが、紹介だけで、展示資料はありません。「読ませる」部分です。こういうエピソードを入れることで、個々の資料に繋がりができてくる。自分と関係のない事柄ではなく、「今」や「私」と結びついてくる。展示からそのような結びつきを感じて頂き、何かしら心揺さぶられる印象が残れば嬉しいですね。

コラムや図解のパネルもとても充実していましたが、やはりそれだけ思い入れがあるということでしょうか?

展示は一期一会です。ぼくは結構あっさりとしていて、終わってしまえば撤去して、30分ぐらいで片付けてしまいます。
コラムや図解は目録にも載せていないのです。目録は、資料名と年代と、大体どういうものかという基本情報だけを載せています。だって、差をつけないとおかしいでしょう?差別化しないと、展示会に足を運ぶ価値が軽くなってしまう。
たとえば、後でネットで目録を買うか、デジタル版を見ればいいやと言って展示に行かない人が出て来てしまうと困りますから。会場に来て、実際に見た人が一番得(?)をするように構成しています。

「江戸時代の罪と罰」展 展示風景2
担当者こだわりの「読ませる」コラムは、目録には載っていない、来場者だけのお楽しみ
ありがとうございました。
最後に、氏家さんにとって、アーキビストって何でしょうか?

ぼくは、古いものを読む、ただそのためだけに採用されました。なので、最近は、自分の肩書きを「古文書読み」としています。「○○読み」っていいでしょう?太平記読みとか、歌読みとか、そういう人たちと同じです。