35. むさしあぶみ
明暦の大火の顛末はさまざまな形で語られ記録に残されました。『むさしあぶみ』はその代表的な作品。江戸からやってきた楽斎坊が京都北野天神で大火の様を語るという趣向の物語風見聞記ですが、炎の中を逃げ惑う人々を描いた臨場感あふれる挿絵と的確な記述で、災害記録としても高く評価されています。万治4年(1661)刊。火災の悲惨さを述べるばかりでなく、死者供養のために回向院が建立されたことや、囚獄(牢屋奉行)の石出帯刀が囚人がみすみす焼死するのを憐れんで独断で牢から解き放った美談なども紹介されています。
著者の浅井了意(?―1691)は、真宗の僧侶で仮名草子作者。本書のほかに『東海道名所記』『江戸名所記』『浮世物語』などの著作があります。全1冊。