第14回 EASTICA総会&セミナー開催 飛躍的なデジタル技術革新が続き、アーキビストは技術をどのように扱い、どう向き合うのかが問われています。東アジア諸国をはじめとする国内外の参加者が議論を深めたEASTICA(国際公文書館会議東アジア地域支部)第14回総会及びセミナーの様子をご紹介します。


東アジアのアーキビストが集う

 2019年11月25日から27日にかけて、EASTICA総会及びセミナーが、当館とEASTICAの共催により、東京で開催されました。日本、中国、韓国、北朝鮮、モンゴル、香港、マカオの5か国2地域が参加するこの地域支部は、1993年に発足して以来、東アジア地域におけるアーキビストが、課題を議論したり、交流を行ったりする場となっています。日本での開催は4年ぶりで、11月25日に理事会、翌26日に総会とセミナー、27日に国・地域別報告が行われました。

名誉会員の表彰を受けたサイモン・チュー氏(右)と握手する加藤丈夫国立公文書館長(左)
名誉会員の表彰を受けたサイモン・チュー氏(右)と握手する加藤丈夫国立公文書館長(左)

 14回目を数える総会では、1年間の活動報告や、EASTICAが長年取り組んでいるアーキビスト養成プログラム(香港大学との共催)の報告、また4年ごとに改選されるEASTICA役員選挙が行われました。これにより、日本は2015年から務めてきた議長国の任を終え、中国が新議長となりました。この他、長らくEASTICAの活動に貢献してきた元事務局長のサイモン・チュー氏(香港)を名誉会員に選出し、表彰を行いました。

 続いて行われたセミナーは、「アーカイブズのこれから―膨張する多様な記録にどう向き合うか―」がテーマ。昨今のアーカイブズにおいて、国を超えた共通の関心事であり課題でもある、デジタル技術の扱いや向き合い方について、講演やパネルディスカッションを通して多くの知見が示されました。
 セミナーには、EASTICA加盟各国や国内外から、167名の参加がありました。

変わりゆくアーカイブズ

 パネルディスカッション「アーカイブズのこれからを考える」では、モデレータを杉本重雄氏(筑波大学名誉教授)、パネリストに講演者の3名を迎え、フロアの参加者を交えた活発な議論が行われました。

 公文書の電子的管理とそれに伴うコストの問題、新しいデジタル技術によって生み出される様々な記録媒体を扱うために必要とされる、アーキビストの新しい専門能力やその養成に関する課題、さらには、公文書の公開におけるデジタル化の有益性と公開がもたらす影響など、幅広い議論がなされました。  

右からモデレータ:杉本重雄氏 パネラー:アンセア・セレス氏、ローレンス・ブリュア氏、高野明彦氏
右からモデレータ:杉本重雄氏 パネラー:アンセア・セレス氏、ローレンス・ブリュア氏、高野明彦氏

アーキビストが果たす役割

 どれだけ技術が発展しようとも、記録や情報を生み出し、利用するのは人間である、という加藤丈夫国立公文書館長の挨拶で幕を開けた、EASTICA第14回総会及びセミナー。フロアから出された「検索エンジンなどの、機械が行う情報検索にはできない、アーキビストの専門性とは何か」という問いに、セレス氏は次のように答えました。

 「アーキビストは利用者が必要とする情報を、背景情報や文脈、情報の出どころを理解した上で見極め、提供します。また、情報の公益性に配慮し、偏見を抑え、バランスを考慮して情報を抽出し、その情報の価値を説明できるのがアーキビストです」。

 デジタル技術を扱う上でアーキビストはどのような役割を果たすべきなのか、そのために何が必要なのか。アーキビストたちの模索と探求は続きます。

アンセア・セレスICA事務総長

講演1:アンセア・セレスICA事務総長

“すばらしい新世界”―AIとアーカイブズ

 記録が大量に生み出され、永久保存の対象となる記録の人による特定が困難になっている現代、そのプロセスを人工知能(AI)によって自動化する動きが始まっています。AIによる選別の判断は正しいのか、正しさを検証する記録はどう残すのか。AI時代のアーカイブズが直面する課題と、人(アーキビスト)の役割を問う講演でした。


ローレンス・ブリュア米国国立公文書記録管理院(NARA)首席記録官

講演2:ローレンス・ブリュア米国国立公文書記録管理院(NARA)首席記録官

米国の公文書管理改革―デジタルアーカイブズのこれからを創る

 記録の完全な電子的管理の実施に向け、NARAは2023年以降紙媒体等のアナログ記録は受け入れないという目標を立てています。電子的に作成された記録を電子的に扱うことは自然なことで、「我々は利用者に何を提供できるか」という点で議論をすることが重要であると強調、電子政府化の実現に向けたNARAの強い意志を感じさせる講演でした。


高野明彦 国立情報学研究所教授

講演3:高野明彦 国立情報学研究所教授

デジタル技術によるアーカイブズの開き方~“Japan Search”が目指す世界~

 公文書館や図書館、博物館などには、多様な情報が蓄えられていますが、それらは互いにつながっていません。その中で、検索者が選んだ言葉の集まりや関連の度合いを基にした「連想検索」、日本全国の様々な機関の所蔵資料情報を一元的に提供する “Japan Search”など、多様な情報源を連携させる取組が紹介されました。

※各講師による発表資料は、こちらで公開しています。

ICAとEASTICA

国際公文書館会議(International Council on Archives,ICA)は世界の記録の保存・管理・利用を支援し、各国の公文書館の相互連携や発展を支援する目的で創設された国際組織です。EASTICAはその東アジア地域支部で、このような地域支部が、世界中に13あります。

ICA

【創設】 1948年、ユネスコの支援で国際非政府機関(NGO)として発足。
【概要】 本部はパリのフランス国立公文書館内。約190か国・地域、1,300会員が参加。4年に一度の大会と、大会のない年に年次会合が開催される。その他、専門セクションや専門家グループ等、各分野の専門家による集まりを中心に活動が行われている。

EASTICA

【創設】 1993年、北京で創立総会開催。
【概要】 東アジアの5か国2地域の国立公文書館、地方公文書館、専門家団体など約50会員で構成。理事会は毎年、総会は2年に一度開催。2003年以降、香港大学と共催で、アーキビストの専門教育プログラムを実施、人材育成に努めている。