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解説
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昭和38年度国民生活白書

解説

昭和39年(1964)3月、政府は昭和38年度国民生活白書を公表しました。本資料は、公表に先立ち閣議で報告された昭和38年度国民生活白書(案)のうち、総論要約の部分です。
この年の国民生活白書の副題は「消費生活の向上とその平準化傾向」とされており、国民所得の上昇と格差の縮小が進み、消費支出も伸びをみせるとともに国民間の格差が縮小していると分析しています。その一方で、経済成長が急激であったことによる歪みが国民生活に影響を及ぼしているとし、社会資本整備の立ち遅れ、消費者物価の急騰、都市部への産業や人口の集中、公害の拡大などが指摘されています。また、広告・宣伝の増大が、浪費を招いているとする一方で、広告費の拡大が消費の平準化と大量消費を可能にしているというように消費社会の傾向についても述べられています。

(1)表紙、まえがき

(2)1.経済成長と国民生活の前進

(3)2.消費生活の平準化傾向の内容

(4)3.消費生活平準化傾向の背景

(5)4.国民生活をめぐる問題点

(6)むすび

こんな「問い」はいかが

資料全体

1.本資料では、国民生活に差がなくなり「平準化」が進んでいるとしていますが、どのような実態が取り上げられているか、資料を読みまとめてみよう。
2.高度経済成長がはじまる前の社会では、どのような格差がみられたか、資料を読み考えてみよう。

「(2)1.経済成長と国民生活の前進」及び「(3)2.消費生活の平準化傾向の内容」

1.高度経済成長下では国民の生活内容にどのような変化が生じたか、資料を読み、衣食住に注目して、それぞれの特徴をまとめてみよう。
2.本資料では、農村と都市における暮らしや収入の差が少なくなっていると説明しています。資料を読み、社会や国民生活にどのような変化が生じているか、まとめてみよう。
3.本資料では、余暇の過ごし方に変化が生じていると説明しています。資料を手がかりにして、どのような娯楽やレジャーがこのとき広まったか具体的に調べてみよう。

「(4)3.消費生活平準化傾向の背景」

1.本資料では、高度経済成長下で国民生活の「平準化」が進んだ背景として、大量生産・大量消費について説明しています。資料を読み、産業や流通にどのような変化があり、国民生活にそのことがどう影響していたか、調べてみよう。また、現在の身の回りの暮らしと比較して、共通点や相違点を考えてみよう。
2.本資料では、高度経済成長下で国民生活の「平準化」が進んだ背景として、広告・宣伝の活発化について説明しています。資料を読み、どのような広告・宣伝活動が具体的に活発となり、広告・宣伝活動の変化が国民生活にどう影響していたか、調べてみよう。また、現在の身の回りの暮らしと比較して、共通点や相違点を考えてみよう。
3.大量生産・大量消費の実現や広告・宣伝の活発化は、国民の生活意識にどのような影響があったか、資料の内容を手がかりに関係性を考えてみよう。

「(5)4.国民生活をめぐる問題点」

1.本資料では、急激な経済成長によって国民生活にはどのような問題が生じていると述べられているか、資料を読んでまとめてみよう。
2.本資料で説明されている内容を手がかりに、都市部の生活環境がどのような状態であったか具体的に調べてみよう。

資料情報

本資料は、『閣議・事務次官等会議資料』という資料群に収録されています。『閣議・事務次官等会議資料』は、昭和21年(1946)以降の閣議,事務次官等会議の資料を開催日順に綴ったものです。

資料名 昭和38年度国民生活白書
請求番号 平14内閣02232100
デジタルアーカイブ https://www.digital.archives.go.jp/item/362642
資料名

昭和38年度国民生活白書
総論要約 まえがき

(表紙)
昭和38年度国民生活白書(案) ―総 論 要 約― ―消費生活の向上とその平準化傾向― 昭和39年3月 経 済 企 画 庁 (中略)
第1部 総  論 ま え が き  戦後日本経済は、回復、自立、発展の過程を通じてめざましい成長をとげた。とくに、34年を起点とする民間設備投資の飛躍的な拡充を契機として、わが国の経済力は一段と強化された。この経済規模の拡大過程を通じて、雇用状態は著しく改善され、国民の消費生活もめざましい向上を示した。
 この場合、とくに注目しなければならない事実は、第1に、都市勤労者世帯における階層別実収入の格差が縮小し、消費の平準化傾向が急速に進行したことである。第2に、農、非農家間の所得格差の縮小を背景としつつ、都市、農村における消費パターンの異質性が漸次解消の方向に向い、消費の都市化が進んだことである。かくして、国民全般の消費生活の平準化傾向がかなり進展した。
 また、消費生活の平準化傾向は、消費支出の高度化の過程を通じて達成されつつあることが大きな特徴である。
 このように高度経済成長は、国民全体の消費を向上せしめるとともに、国民生活の平準化傾向を強め、福祉社会実現への道をひらいたといえよう。しかし、他方、経済成長が急激であったため、成長にともなう歪などが国民生活の各分野にあらわれてきたことも否めない事実である。
 それは、第1に、住宅、上・下水道、公園など国民生活をとりまく社会資本の整備が相対的に立ち遅れたこと、第2に、生鮮食糧品、中小企業製品およびサービス料金を中心とする消費者物価の急騰、第3に、人口、産業の大都市への急激な集中にともなう交通難、公害などの増大、第4に地価の暴騰による国民の住宅建設意欲の低下、第5に広告、宣伝の激化などにともなう消費の浪費的傾向の拡大などである。

資料名

昭和38年度国民生活白書
総論要約 1.経済成長と国民生活の前進

1.経済成長と国民生活の前進
 高度経済成長は、国民生活の向上と充実に大きな役割を果たした。とくに、次にあげる5つの国民生活に関する基礎条件の変化は、福祉社会への前進を示す明るいシグナルとして評価されなければならない。 (1) 国民の所得水準の上昇
 その第1の条件は、国民の所得水準が著しく高まり、その水準が欧米先進国のそれに接近しつつあるということである。
 いま、国民1人当り国民所得をドル換算してみると、36年度418ドル、37年度461ドル、そして38年度には520ドルになるとみられる。この水準は1961年のイタリーのそれとほぼ肩を並べる水準であり、日本の経済発展の段階がようやく西欧的国民生活を可能にする基礎条件をもちつつあることを示している。
 また、就業者1人当りの個人所得は、34年度から37年度に至る間の実質増加率で30%をこえる大幅なものであった。
(2) 就業構造の近代化
 第2の条件は、国民1人当り所得水準の大幅な上昇が、就業構造の近代化を通じて達成されたということである。
 昭和34年から37年に至る間の産業別就業者の増減をみると、第1次産業は約260万人の減少を示し、37年には1,293万人となった。他方34年から37年にかけて第2次、第3次産業の就業者は約400万人の増加を記録した。
 第2次、第3次産業の就業者の増大は、当然近代的就業者である雇用者の比重を高めた。
 雇用者の増加は、国民生活面においても重要な進歩の条件を形成する。すなわち、国民所得における勤労所得の比重を高め、先進国型の所得構造をもつことによって、消費者としての行動が類型化され、大衆消費を可能にすることである。事実、37年度における勤労所得の国民所得に占める割合は53.4%になり、ほぼイタリー並の水準に達した。
(3) 賃金格差の縮小
 第3の条件は、労働力需給関係の急速な変化による賃金格差の縮小である。
 いま求人数を求職者数で除した求人・求職比率でみると、34年には中学卒1.2倍、高校卒1.0倍、学卒者以外0.4倍であったが、37年には中学卒2.9倍、高校卒2.7倍、学卒者以外0.7倍となり、38年においても中学卒2.6倍、高校卒2.7倍であって、学卒者については労働市場は完全に売手市場に変化した。
 したがって、それまで労働条件の比較的悪かった企業では労働力確保の必要上、その初任給を上げざるをえなかった。その結果、まず初任給の段階で企業規模別賃金格差は縮小し、それに伴って、新規労働力に近い若年層の賃金格差もまた縮小するという形で、規模別、年令別の賃金格差の縮小がみられた。
 また農家も雇用機会の増大にともない兼業化が進行したこともあって、農家所得としては、勤労者世帯との実収入格差の縮小傾向がみられた。
 また、都市勤労者世帯についても、31年から34年にかけては、第4、第5分位層という高所得者層の実収入の伸び率が高かったが、若年労働力を中心とする急激な格差縮小を徐々に反映し、34年から37年には低所得層の第1分位の伸びが最も高くなり、階層間所得格差の縮小傾向を強めたといえよう。
 また、生活保護世帯についても生活扶助基準をみると、年々その水準は引上げられ、たとえば、36年には対前年16.1%増、37年には18.1%増、38年には17.0%増という引上げによって、36年以降一般勤労者世帯との収入格差は漸次縮小しつつあり、保護世帯の世帯員1人当り実収入は35年には勤労者世帯の31.8%であったのが、37年には36.1%となっている。
(4) 個人消費支出の着実な増大
 第4は、個人消費支出の着実な増大にともなう消費財市場の拡大である。国民所得における個人消費支出額は、34年度には約6兆8,770億円であったが、37年度には10兆2,607億円となり、約1.5倍の規模に拡大した。
 個人消費支出の増加は昭和36年度以降は毎年1兆円以上の増加であって、これはフィリッピンの国民所得の規模に等しい消費財市場が年々新しく生まれていることを意味する。この消費財市場の拡大は、消費者物価の上昇による影響を除去しても年々7~8%の増加を示した。
(5) 消費支出の平準化傾向
 第5は、国民全体の消費水準は、35年を100として37年度には114.2という着実な上昇をつづけながら、所得階層別、農、非農家別の消費の格差が縮小し、いわゆる消費の平準化傾向が進んだことである。
 勤労者世帯の所得階層別の消費支出の伸びをみると、31年から34年にかけては、所得階層の上位のものの伸びが高く、低所得者層の第1分位の伸びが最も低かった。しかるに、34年度から37年度にかけては、逆に第1分位の伸びが最も高く約40%の増加を示した。このような消費支出にみられる階層別平準化傾向は、今後景気循環の過程において若干これと異なる現象がみられるにしても長期的観点に立ってみた場合、構造的な傾向として持続されよう。このことは、国民の所得が先進国的なレベルに接近しつつある段階における国民の消費の基本的方向を示すものといえよう。
 つぎに、農家の消費支出も次第に都市化が進み、しかも都市と農村との消費水準格差が縮小したことである。第1に農外所得の割合が著しく増大し、成長農産物を中心とする商品化も一段と進み、消費における現金支出の比重が高まったこと、第2に農村における生活革新指数の上昇は35年を契機として急上昇し、昭和37年には34年を100として163.2となり、都市化傾向が進んでいること、第3にエンゲル係数の低下も著しく、35年以降は、全都市全世帯のそれとほぼ同様な水準になったこと、第4に、農村の消費水準は35年を100として37年には116.2となり、都市以上に大幅な上昇率を辿り、都市との格差を縮小したことなどである。

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昭和38年度国民生活白書
総論要約 2.消費生活の平準化傾向の内容

2.消費生活の平準化傾向の内容
(1) 食料消費の質的変化
 世帯における食料消費の動向のなかで第1に目立つことは、エンゲル係数の低下傾向である。都市全世帯についてみると、34年に42%であったものが37年には、39.0%に低下した。とくに、穀類の家計における消費金額は、消費者米価の値上げなどがあったにもかかわらず、この3年間に支出金額で減少した。
 食料消費の動向の第2の特徴は、嗜好の洋風化、高級化、多様化の進展である。これはとくに、肉、乳、卵、調味料、加工食品、酒類、飲料および外食などの増加に明らかに現われている。
 とくに、外食費の増加が大幅で、5年間にほぼ2倍に達している。
 このような動きを所得階層別、品目別にみると、34年から37年の間に第1分位の肉乳卵類に対する支出は倍増したのに対して、所得の高い階層ほど増加率が低く、第5分位では、その増加率は約40%にとどまっている。これに対して、31年から34年にかけては、高所得層ほど肉乳卵類に対する支出が大幅に伸びた。また、最近かなり価格が上昇した生鮮魚介類についても、34年から37年に至る間の伸びは第1分位が最も大幅で、31年から34年の間に最も停滞したのとこれもまた著しい対称をなしている。
 このように食料消費の内容が階層別に著しく平準化しつつ高度化したが、今後改善を要する問題がないわけではない。
 それは、動物性蛋白質、脂肪などの摂取量が国際的にみれば、未だ著しく少いことである。たとえば、国連の調査によれば、昭和36年におけるわが国の1人当り年間の肉類、牛乳、油脂の消費量は、それぞれ、6kg、2kg、5kgで、これはアメリカ合衆国の1/16、1/8、1/4という水準にある。
(2) 普及期の第2段階にはいった耐久消費財
 31年以降35年頃までいわば第1期というべき耐久消費財ブームを形成した。
 この期の耐久消費財は、テレビを中心とする家庭用電化製品であった。すなわち、31年から35年までの4年間に家具什器費は2倍にふえたが、その増加分の7割程度は、電化製品の増加によるものであり、そのなかでもテレビが急増した。
 それが35年になると、電気冷蔵庫、ラジオ兼用電蓄、テープレコーダー、電気掃除機、電気井戸ポンプ、電気ガマ、電気こたつ、扇風機などの普及が増大した。すなわち、35年を境にテレビの独走時代は終りをつげ、各種の耐久消費財の購入が、はじまるとともに、家具什器の中でもいわゆる平準化傾向が進行して、所得階層別の耐久消費財普及の差も縮小するなど以前とは普及の仕方がはっきりと差異を示すに至った。
 耐久消費財普及の第2段階における平準化傾向の進行を都市勤労者世帯についてみると、第1-2表のように34年と37年と比較すると、第1分位の支出額は約2.7倍になったが、所得の多い階層ほど増加率は低く、第5分位では約1.3倍になったにすぎない。これを31年から34年に至る間と比較すると第2分位以上の階層はみな倍増以上したのに、第1分位だけが1.6倍にも満たなかった。すなわち、耐久消費財の場合は食料の場合よりも、もっとも典型的に平準化傾向が著しく進んだことが明らかである。
(第1-2表省略)
 耐久消費財普及の第2段階における平準化傾向を耐久消費財の階層別の普及率でみると、昭和33年には、調査分類上の最低所得層の年収20万~30万円の世帯では、電気冷蔵庫はほとんどなく、また電気洗濯機、電気ガマ、扇風機、テレビなどは、5~15%程度しか普及していなかったが、高所得層では、すでに電気冷蔵庫が10%程度、その他の耐久消費財はほぼ50%前後の普及率を示していた。
 これに対して、38年8月には、最低所得層の20万~30万円層で、電気冷蔵庫は約17.5%その他の耐久消費財は、40%前後の普及率を示しており、33年当時の60万~70万円層とあまり違わぬ水準に到達した。
(3) 熱源転換の著しい光熱消費
 光熱消費は、従来1世帯当りの消費量が小さく、増加のテンポも小幅であったが、光熱消費をともなう耐久消費財の著しい普及と、取扱が簡便で、清潔安全な熱料源を消費者が強く需要するに至ったことから、消費内容はここ数年間に、量、値とも急変するに至った。
 34年から37年にかけて、都市世帯の光熱費の増加率をみると、料金上昇10.4%もあって光熱費全体では40%の増加であるが、そのうち電気、ガス代は58%増加し、電気、ガス以外の光熱費は17%の増加に止まった。また、電気、ガス代の支出増加を、5分位階層別にみると、低所得階層ほどその増加が著しく、第5分位の46%増に対して、第1分位では69%の増加となっている。
 さらに、農家世帯の電気代の増加率をみると、都市世帯のそれを、さらに上回り、34年度と、37年度をくらべると、67%の大幅な増加となっており、都市農村の平準化傾向が著しい。
(4) 「能動的レジャー」消費の拡大
 生活時間を食事、睡眠などの生理的必要時間、労働時間およびその他の自由な余暇時間の3者に分類すると、労働時間の短縮は、余暇時間の増大を意味する。この関係を戦前と戦後とについてみると、戦前の余暇時間は、職員が4時間前後とかなり長く、労務者はやや短く、農業従事者の余暇時間はさらに一段と短かった。
 これに対して戦後は、労働者、農業従事者の余暇時間は、平均して5時間前後に達し、戦前より50%以上も長くなった。また、職業別の差が著しく少くなり、平準化傾向が進んでいるのが特徴である。
 なお、余暇時間の使い方を35年と37年とについて比較してみると、テレビの普及などの影響でごろ寝などの休息がふえたのと家庭外でする娯楽がふえたのが目立っている。この家庭外の娯楽を、さらに旅行にいくとか、スポーツをするとかいうような能動的なレジャー活動と、映画や野球をみるというような受動的なレジャー活動とに分けてみると、増加の著しいのは旅行や、スポーツなどの能動的なレジャー活動である。
 旅行についてみると、内閣広報室の「国民の旅行に関する世論調査」によれば国民の63%は旅行を好み、75%以上の人は、年に一度くらいは、旅行をしたい希望をもっている。
 つぎに、旅行をした実績を当庁の「消費者動向予測調査」でみると、過去1年間に1泊以上の観光、慰安旅行をした世帯は、33年8月には43%であったが、5年後の38年8月現在では、この比率は61.2%にまで上昇し、旅行が国民各層にますます普及していることを示している。
 つぎにスポーツについて、内閣広報室の「スポーツに関する世論調査」をみると、スポーツ愛好家は32年の49%から、37年には63%にふえた。また、スポーツを週1回以上やっている人も10%から19%にまで増加している。
 このようなレジャー活動の増大は、当然レジャー関係消費の増加をもたらした。
 いま、便宜上電車、汽車賃(定期代を除く)、教養娯楽費、交際費およびこずかい費をもって、レジャー関係の消費支出とすれば、37年現在で約9万3千円、月平均7,700円余である。その伸び率をみるとレジャー関係の支出額は3年間に約42%増加しており、家計費全体の伸び率34%を上回っている。
 このような、レジャー関係の支出の増加を階層別にみるために、とりあえず、交際費を5分位階層別にみると、31年と34年との間では、おおむね低所得層ほど増加率が低いが、34年から37年にかけては低所得層の伸びの方がはるかに高い。
 すなわち、第1分位の増加率は62%にも達しているが、所得が多くなるにつれて増加率は低くなり、第5分位では36%の増加にとどまっている。

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昭和38年度国民生活白書
総論要約 3.消費生活平準化傾向の背景

3.消費生活平準化傾向の背景
 消費生活の平準化傾向が34年以降これだけ大幅に進んだ背景には、そのほかにも消費者の平準化意識の増大、技術革新の進展による大量生産体制の確立、新しい製品の出現、生産された大量の消費財を消費者にとどける流通機構の変化、割賦制度の充実、販売競争の激化に伴う広告、宣伝の活発化などがあり、それぞれ大きな影響を与えていることも見逃せない。 (1) 消費者意識の平準化傾向
 いま、内閣広報室が36年に全国の約2万世帯に対して行なった生活意識の調査によれば、自宅の暮しが国民全体からみて中流程度に達していると思っている世帯は76%に達しており、33年の調査にくらべて3ポイント増加している。なかでも「中流の中」だと自認している世帯の増加がめだっている。
 国民各層の間で、所属意識の平準化傾向がここまで広まれば、当然これら世帯の消費パターンは同質化の方向を辿り、消費の平準化傾向が強まることは疑いないところである。
(2) 技術革新の進展
(i)新製品の出現
 技術革新の進展が、消費生活の平準化傾向の推進に寄与した第1の点は、新製品の生産である。日常生活では、戦前には想像もしなかったような消費財が多数使用、消費されている。たとえば、テレビをはじめとする各種の電化製品、種々のプラスティック製品、ナイロンの靴下、テトロンのズボンやワイシャツなどの合成繊維衣料、抗生物質から栄養剤にいたる医薬品などほとんど日常生活のあらゆる部面にわたっている。 (ii)大量生産体制の確立
 技術革新が消費生活の平準化傾向に及ぼした影響の第2の点は、新技術の多くが大量生産技術であるということである。
 この大量生産技術の確立は、当然消費財の規格化を促進した。規格化は、流通機構の変化をもたらす1つの要因になったばかりでなく、消費生活自体の規格化、平準化傾向をおし進めた。
(iii)コストの低下
 大量生産技術の発達は、生産コストの低下をもたらし、販売競争を通じて価格の低下を生じている場合が多い。市場における大量生産商品、すなわち規格品の占める比率はますます高まった。都市世帯が購入した工業消費財を、それを製造した企業の規模によって分類すると、大企業の製品は32年には、工業消費財の22%であったが、35年には25%にまで高まった。
(3) 流通機構の変化
 技術革新の進展による新製品の生産、量産体制の確立など消費財生産側の変化は、消費支出の増大、その平準化傾向などの消費者側における変化とあいまって、消費財を伝達するパイプである流通機構にも種々の変革を迫っており、すでにその影響が現われている。それは、第1に生産者の流通機構への進出、系列化の進行であり、他は能率の高い百貨店やいわゆるスーパー・マーケットなどの大量販売小売店の流通機構における比重の増大である。そしてさらに、これら流通機構の変化は、生産者側における変化とともに、消費生活の平準化傾向を促進する背景ともなっている。 (i)生産者の流通機構への進出
 流通機構の変化の第1の形態は生産者が直接、間接に流通機構へ進出するものである。これには特定の商品を大量に販売するうえに、消費者の行動を適確に把握するため、販売部門を強化したり、在来の低能率の流通経路を短縮して無駄な人員と経費を排除したり、販売店の系列化を推進したりするものがみられる。この形態は卸、小売業者に対して生産者の指導力が著しく大きい家庭用電気製品、薬品、自動車など耐久消費財関係の業種や、乳製品、菓子などの加工食品関係業種に比較的多くみられる。
 これらの流通経路の短縮や系列化は、主として従来の流通経路がタッチしていない新製品の新らしい流通経路として生じたものが多く、多くの消費者が、新製品の購入に当って利用している場合が多い。それだけに耐久消費財のめざましい普及と、したがってその平準化傾向とに果した役割は大きいといわねばならない。
(ii)大量販売小売店の発展
 流通機構の変化の第2の形態は、百貨店やいわゆるスーパー・マーケットなどの大量販売小売店の発展である。
 まず、百貨店について商業統計表によってみると、昭和37年の百貨店(一部のスーパーマーケットを含む)数は347店で、昭和31年の約2倍に達しており、月間販売額は500億5,300万円で31年の販売額の約3倍にも増加し、小売業総販売額の10%をこえるに至った。
 このように百貨店が伸びた背景には、人口の都市集中、バスなどの交通機関の発達による市場の拡大と消費生活の平準化があるが、百貨店側も巨大な資本力によって品質の優れた多種類の商品を揃えるとともに、積極的な広告、宣伝、種々の催し物を行なって消費者の誘引に努めたことによるところも大である。他方消費者側でもあらゆる種類の消費財を豊富に揃えている百貨店を買物の便利さや信用の点から積極的に利用したことも見逃せない。
 一方、最近の新しいタイプの大量販売小売店であるスーパー・マーケットは、昭和28年に第1号が東京に出現して以来、35年頃までは比較的微増傾向をつづけていたが、36年以降激増し、37年現在で、総数で700店をこえると推定され、人口10万当り1.8店にまで発展した。
(4) 広告費の増大
 わが国の総広告費は近年急増の一途をたどっており、昭和37年には前年より15.4%増加して総額2,435億円に達した。これは国民1人当り2,600円の広告をみている計算になる。
 わが国の広告費を諸外国のそれと比較すると、アメリカ(4兆4,280億円、国民1人当り23,400円)イギリス、西ドイツ、カナダについで世界第五位である。広告費を媒体別構成比でみると、37年現在で新聞広告37%、テレビ広告28%、ラジオ広告7%、雑誌広告5%などとなっており、テレビ広告の増加が著しい。
 広告費が増大した要因としては、第1に技術革新にともなう大量生産の進展である。
 第2は、広告媒体それ自体の発展である。たとえば、30年と37年における広告の動向をみると、30年には新聞の全紙面に占める広告のスペースは26.6%、テレビ、ラジオの総放送時間に占める契約時間の割合は、それぞれ45.2%、44.0%であったが、37年には新聞で33%、テレビ、ラジオでそれぞれ73.6%、57%に増大した。
 第3に企業におけるマーケッティングの隆盛が、広告の増大をもたらした。それは広告の販売戦略上の重要性を企業が強く評価したからである。
 このように広告を離れた消費生活は考えられなくなっているといっても過言ではない。そして、国際的にみても日本の広告費の伸びが著しいことが指摘できる。
 この広告費の増大が、国民所得の水準の上昇もあって、消費の平準化傾向と大量消費を可能にしたことは否定できない事実である。
 しかしながらこのように、広告の消費者に及ぼす影響が大きいことは、国民の生活自体に深刻な弊害を与える可能性がある。
 たとえば、販売競争に打勝つために虚偽誇大な広告を行なって、消費者を欺瞞する場合もみられるし、青少年に悪い影響を及ぼすようないかがわしい広告も完全に跡をたっていない。また、浪費を国民に強いるおそれさえ少なくない。このような事態を改善するためには生産者または広告主の良識にまつところが大きいが、それとともに消費者保護の行政を一層充実していくことも必要であろう。

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昭和38年度国民生活白書
総論要約 4.国民生活をめぐる問題点

4 国民生活をめぐる問題点
 経済成長があまりにも急激で、しかも高かったために、国民生活に関して種々の面で歪が生じた。とくに、それが国民生活における社会資本に関連する分野と消費者物価とに集中的に生じたのが特徴的である。 (1) 消費者物価の上昇
 高度成長のもたらした生活面における歪みの第1は、消費者物価の高騰である。30年以降きわめて落着いた推移を示してきた消費者物価は、34年後半から騰貴傾向に転じ、35年には3.6%、36年には5.3%、37年には6.8%と次第に騰勢を強め、38年も前年に対して7.6%の上昇となっている。このような消費者物価の高騰は、国民の健全な消費生活にゆるがせにできない問題となっている。
 消費者物価上昇の内容は主として農林水産物、個人サービス、零細企業性工業消費財および中小企業性工業消費財であり、これを消費者物価の分類に即してみると食料および雑費であり、この2種類の商品の値上げだけで消費者物価上昇の約8割を占めている。
 このような消費者物価の上昇は、それが日常生活に必要な財の価格に関するものであるだけに、国民の消費生活に深い関係をもっている。この点をみるために、30年度以降の名目個人消費から消費者物価の影響を差引いた実質個人消費支出の増加率をみると、34年度以降年々、7~8%増と31~33年の増加率をかなり上回っているものの名目支出の増加率に比べればかなりかい離が生じている。この名目支出と実質支出のかい離が最近の国民にその実質で消費生活が向上しているにもかかわらず、暮しが苦しくなったという感じをもたせる要因の1つとなっていることは否定できない。このような感じをもつもう一つの大きな要因は、消費行動の変化による面も大きい。すなわち、所得が著しく上昇する過程において、デモンストレーション効果などが強く働き、それら高級財が必需財に転化する結果、月賦支払、電気、ガス料金の支払の増加など家計の中で弾力的でない支払部分が増加し、そのためやりくりが苦しくなるなど消費行動の変化自体からくる問題もある。
 かかる事情は一面では家計における貯蓄の停滞となって現われやすい。たとえば、家計調査によれば37年における勤労者世帯の貯蓄性向は16.2で、前年の16.5にくらべてやや低下した。
 なお、地価の高騰も国民生活の健全な発展をさまたげる大きな要因となっている。それは国民に住宅の自力建設の希望を失わせるのみならず、社会的生活環境整備や 交通施設の充実を用地買収面において阻害するからである。
(2) 住宅難
 住宅建設の戸数増加は著しく、37年には、73.5万戸と34年度に比較して、29.6%の建設増を示している。しかしながら、現段階でもなお国民の住宅難は解消していない。
 それは、第1に大都市への人口集中あるいは小規模世帯への世帯分化などによる住宅への量的需要圧力がなお強く存在すること。
 第2は国民生活の充実向上を通じて、より近代的な良質住宅に対する質的需要が強いことのためである。
 しかもこれら2つの需要圧力が一体となって大都市においてとくに集中的に現象化している。
 たとえば、住宅公団等の賃貸住宅に対する近年の競争率をみると33年頃は58倍にすぎなかったものが、36年以降30倍を越える驚異的な競争率を示していることからもうかがわれる。
 したがって、現段階における住宅難は終戦直後にみられた狭小、過密などによる住宅難とは異なり、生活水準のかなりの向上を反映した住宅難ともいうべき様相を濃くしているのがその特徴である。
(3) 交通難
 これは雇用者の増加にともなう通勤交通量の増大、レジャー消費の増大による旅行の大衆化などによるところが大きく、とくに東京、大阪などの大都市では、産業、人口の集中により交通量が著しく増加したため、交通施設とのアンバランスが顕著になり、深刻な交通難が生じている。このため、都市の生活は、利便性、快適性が阻害されている。
 いま、わが国の大都市交通圏内の人口増加をみると、昭和30年から35年までの5年間に首都交通圏19%、中京交通圏14%、京阪神交通圏17%、といずれも10%以上の増で、5%にも達しないロンドン、ニューヨークなどの外国諸都市に比較し著しく増加率が高い。しかもこの増加人口のうち、通勤人口となる比率が高く、35年の一般客を含んだ輸送人員の30年に対する伸びは、それぞれ46%、51%、25%と激増している。このため、通勤通学時の最混雑時には首都圏で定員の3倍をこえる区間もみられ、中京、京阪神でもこれに近い区間がある。
 路面交通も自動車数の激増により幹線道路のみならず街路の混雑度をますますひどくしている。自動車台数は32年度から37年度末までに東京では2.33倍、大阪2.69倍、愛知2.69倍になっている。
 交通難と関連して、安全の確保が問題になっている。安全は交通の最大の要件であるが、鉄道についてみれば、38年には鶴見事故などが発生しており、列車のスピードアップ、運転密度の高度化などに伴い万全の事故防止対策が望まれる。
 道路交通事故は自動車数の増加に伴い、事故件数は逐年増加し警察庁調べの自動車の関係した事故は37年には48万件、死者1万1千人、傷者31万4千人にのぼった。このうち死者の32.7%は歩行者であり、道路混雑の最大の被害者となっている。
 また、トラックや大型化したバスが歩道のない狭い裏道まで通るようになるなど生活環境施設の整備や日常生活圏の安全確保の問題と結びつけて考慮しなければならない事態が生じている。
(4) 整備の著しく遅れている生活環境施設
 下水道、終末処理場、清掃施設などの処理施設の遅れは、国民生活の向上を阻害している。
 すなわち、下水道の普及率は総人口に対する利用人口の比率でみれば、37年度末においてわずかに11%であり、さらに下水を処理する終末処理場につらなる下水道を利用する人口については8%にすぎないという状態である。これをイギリスの90%、ドイツ70%、スエーデン60%など欧米諸国の普及率と比べればその施設整備の遅れは著しいものがある。
 また、最近における都市人口と市街地面積の増加によって、とくに大都市において処理すべき汚水、し尿の総量は増加し収集されたものの不衛生処理は、30年の7.8%から36年の18.4%へと増加している。適当な埋立地の減少などもなり、その処分は大きな問題となっている。
 都市公園は余暇時間の増加、生活様式の変化とともにその必要性は増大しつつあるが大都市では人口の急増によりかえって、人口当り公園面積が減少する場合もみられる。
(5) 公 害
 騒音、振動、ばい煙、粉じん、排ガスによる大気汚濁、水質汚濁、地下水くみ上げによる地盤沈下などの公害は国民生活にとって大きな問題となっている。すなわち、河川は工場排水、下水道の流入、ごみの投棄などにより汚染され、都市美観の維持からも真剣に検討されるべき段階になっており、大気汚染による人体の健康、疾病、死亡率に対する悪影響も各地で問題となり、森林、果樹、公園の草木におよぼす影響も大きい。
 このような一般公害は、損害補償の調整もむずかしいが、公害の人体への悪影響も具体的に明らかになってきており、公害に対するきびしい対策と取り締りが強く要請されよう。

資料名

昭和38年度国民生活白書
総論要約 むすび

― む す び ―  以上みてきたように、国民の消費生活においては、耐久消費財の著しい普及、レジャー関係支出の増大などにみられるような高度化、多様化を伴いながら国民全般の消費の平準化傾向が進展した。
 事実、国民1人当り所得や主要耐久消費財の普及、繊維、エネルギー、新聞用紙などの消費の状況をみると、わが国はほぼ西欧先進諸国に近づき、またそれと肩を並べうる段階に到達したといえよう。
 しかしながら、経済成長があまりに急速で、しかも高かったことに伴って、国民生活の各分野に種々の問題が現われたことも事実である。
 すなわち、国民生活の基盤を形成する住宅、生活環境等の社会資本の立ち遅れをはじめとし、都市公害、通勤難の増大および消費者物価、地価の高騰などの問題が表面化するに至っている。
 したがって、今後は国民経済の一層の充実と相まって、これら分野に改善を加え、経済諸資源を国民福祉の向上に資するよう適正に配分することが政策の基本的課題となろう。このためには、将来の福祉国家のビジョンを想定し、それを目標として、国民経済の発展の過程で完全雇用を達成し、所得水準の向上と所得格差および地域格差の是正を図るとともに物価の安定、住宅、生活環境施設の確保、社会保障の充実、公害の防止、消費者保護の増進など諸般の政策を強力にすすめ、国民全体が豊かで合理的な生活を享受しうるような社会を実現することが肝要である。