国民所得倍増計画について
日本経済は、昭和30年代から昭和48年(1973)までの間、年平均10%の経済成長を続けました(高度経済成長)。
昭和35年(1960)12月27日、政府は国民総生産(GNP)を10年以内に2倍とする目標を設定した国民所得倍増計画を閣議決定します。この計画では、安定的な経済成長により、国民の生活水準の向上と完全雇用の達成を究極の目的と位置づけ、社会資本の充実、産業構造の高度化、貿易促進による外貨収入の拡大を図るとともに、教育・訓練を通じた人的能力の開発や科学技術の向上にも取り組むとしています。また、社会保障の充実や社会福祉の向上も課題として取り上げています。
本資料は、国民所得倍増計画の閣議決定に関する文書です。この閣議決定における「国民所得倍増計画の構想」では、「速やかに国民総生産を倍増して、雇用の増大による完全雇用の達成をはかり、国民の生活水準を大幅に引き上げることを目標とするものでなければならない」としています。
1.国民所得倍増計画で中心的課題の一つとされている社会資本の充実について、計画ではどのようなものを「社会資本」と呼んでいるか、資料を読みまとめてみよう。また、具体的にどのようなものが実際に造られたか、調べてみよう。
2.国民所得倍増計画で中心的課題の一つとされている産業構造の高度化について、計画ではどのようなことを「高度化」と捉えているか、考えてみよう。また、日本社会の産業構造は、その後どのように変化したか、調べてみよう。
3.国民所得倍増計画で中心的課題の一つとされている貿易の促進について、計画では外貨収入の拡大が重要な鍵と説明しています。国内産業における輸入と輸出の関係をまとめた上で、なぜ外貨が重要と位置付けられているか、説明してみよう。
本資料は、『内閣公文』という資料群に収録されています。『内閣公文』は、憲法,詔書,法律,政令,条約,告示,訓令の原議書及び閣議決定その他の内閣関係の保存文書(人事に関するものを除く)を保存文書分類表に従って分類し,これを保存期間別に区分して編集したものです。
| 資料名 | 国民所得倍増計画について |
|---|---|
| 請求番号 | 平11総02714100 |
| デジタルアーカイブ | https://www.digital.archives.go.jp/item/3158356 |
国民所得倍増計画について
総甲第一七〇号 起 案 昭和三十五年十二月二十六日
閣議決定 昭和三十五年十二月二十七日
施 行 昭和三十五年十二月二十七日
内閣総理大臣(花押) 内閣官房長官(花押) 内閣参事官(印)
法制局長官(印)
内閣官房副長官(印)(印)
植木国務大臣(花押) 古井国務大臣(花押) 小金国務大臣(花押) 池田国務大臣(花押)
小坂国務大臣(花押) 周東国務大臣(花押) 石田国務大臣(花押) 小沢国務大臣(花押)
水田国務大臣(花押) 椎名国務大臣(花押) 中村国務大臣(花押) 迫水国務大臣(花押)
荒木国務大臣(花押) 木暮国務大臣(花押) 安井国務大臣(花押) 西村国務大臣(花押)
別紙 内閣総理大臣請議
国民所得倍増計画について
右閣議に供する。
指 令 案
例文
総理府甲第522号
昭和35年12月26日
内閣総理大臣 池 田 勇 人 殿
内閣総理大臣 池 田 勇 人(印)
国民所得倍増計画について
標記について、別紙のとおり閣議を求める。
国民所得倍増計画に関する件
昭和三十五年十二月二十七日
閣 議 決 定
政府は、別冊「国民所得倍増計画」をもつて、昭和三十二年十二月十七日閣議決定の「新長期経済計画」に代えるものとするが、今後における経済の運営にあたつては、内外経済の実勢に応じて弾力的に措置するものとし、とくに、別紙「国民所得倍増計画の構想」によるものとする。
国民所得倍増計画の構想
(1)計画の目的
国民所得倍増計画は、速やかに国民総生産を倍増して、雇用の増大による完全雇用の達成をはかり、国民の生活水準を大幅に引き上げることを目的とするものでなければならない。この場合とくに農業と非農業間、大企業と中小企業間、地域相互間ならびに所得階層間に存在する生活上および所得上の格差の是正につとめ、もつて国民経済と国民生活の均衡ある発展を期さなければならない。
(2)計画の目標
国民所得倍増計画は、今後十年以内に国民総生産二六兆円(三三年度価格)に到達することを目標とするが、これを達成するため、計画の前半期において、技術革新の急速な進展、豊富な労働力の存在など成長を支える極めて強い要因の存在にかんがみ、適切な政策の運営と国民各位の協力により計画当初三カ年について三五年度一三兆六千億円(三三年度価格一三兆円)から年平均九%の経済成長を達成し、昭和三八年度に一七兆六千億円(三五年度価格)の実現を期する。
(3)計画実施上とくに留意すべき諸点とその対策の方向
経済審議会の答申の計画は、これを尊重するが、経済成長の実勢はもとより、その他諸般の情勢に応じ、弾力的に措置するとともに、経済の実態に即して、前記計画の目的に副うよう施策を行わなければならない。とくにこの場合次の諸点の施策に遺憾なきを期するものとする。
(イ)農業近代化の推進
国民経済の均衡ある発展を確保するため、農業の生産、所得及び構造等各般の施策にわたり新たなる抜本的農政の基底となる農業基本法を制定して農業の近代化を推進する。
これに伴い農業生産基盤整備のための投資とともに、農業の近代化推進に所要する投融資額は、これを積極的に確保するものとする。
なお、沿岸漁業の振興についても右と同様に措置するものとする。
(ロ)中小企業の近代化
中小企業の生産性を高め、二重構造の緩和と、企業間格差の是正をはかるため、各般の施策を強力に推進するとともにとくに中小企業近代化資金の適正な供給を確保するものとする。
(ハ)後進地域の開発促進
後進性の強い地域(南九州、西九州、山陰、四国南部等を含む。)の開発促進ならびに所得格差是正のため、速やかに国土総合開発計画を策定し、その資源の開発につとめる。さらに、税制金融、公共投資補助率等について特段の措置を講ずるとともに所要の立法を検討し、それら地域に適合した工業等の分散をはかり、以つて地域住民の福祉向上とその地域の後進性克服を達成するものとする。
(ニ)産業の適正配置の推進と公共投資の地域別配分の再検討
産業の適正配置にあたつては、わが国の高度成長を長期にわたつて持続し、企業の国際競争力を強化し、社会資本の効率を高めるために経済合理性を尊重してゆくことはもとより必要であるが、これが地域相互間の格差の拡大をもたらすものであつてはならない。
したがつて、経済合理性を尊重し、同時に地域格差の拡大を防止するため、とくに地域別の公共投資については、地域の特性に従つて投融資の比重を弾力的に調整する必要がある。これにより経済発展に即応した公共投資の効果を高めるとともに、地域間格差の是正に資するものとする。
(ホ)世界経済の発展に対する積極的協力
生産性向上にもとづく輸出競争力の強化とこれによる輸出拡大、外貨収入の増大が、この計画の達成の重要な鍵であることにかんがみ、強力な輸出振興策ならびに観光、海運その他貿易外収入増加策を講ずるとともに、低開発諸国の経済発展を促進し、その所得水準を高めるため、広く各国との経済協力を積極的に促進するものとする。
(表紙)
国 民 所 得 倍 増 計 画
昭和35年12月27日
経 済 企 画 庁
(中略)
第2章 計画の課題
1.計画の主要目的
この計画の窮極の目的は、国民生活水準の顕著な向上と完全雇用の達成に向かっての前進である。そのためには、経済の安定的成長の極大化が図られなければならない。
このような観点から、この計画では、成長を軸に安定を必要条件と考え、以下の諸点を計画の中心的課題としてとりあげる。
第一は、社会資本の充実である。戦後の急速な経済成長は過去に蓄積された外部条件の上になされてきたが、28年ごろから経済規模が戦前水準をこえ、さらにその後も高成長がつづいたため、道路、港湾、用地、用水等の社会資本が、生産資本に対して相対的に立ち遅れ、成長のあい路となっている。したがって、今後は公共投資等を通じこれら部門の量的質的向上を図ることが重要な課題となっている。また国民生活の面においても公共的な施設やサービスに依存する面が、私的な消費に比べて立ち遅れが目立ってきているので、生活環境、文教、レクリエーション、交通等の社会的施設の拡充に努め、健康的な国民生活の内容充実に役立てなければならない。
これら社会資本の充実は産業と生活の基盤を強化するとともに、雇用と所得を拡大することによって経済成長に役立つであろう。
この場合、従来のわが国における基礎施設投資はがいして計画の規模が小さく、短期に施設の取り替えや、事業のやりなおしを必要とする場合が多い。そのため多年の高い投資率にもかかわらず、有用な資産としての国富が、諸外国に比べて著しく貧弱なうらみがあった。戦後の回復段階を終えた今後の10年については、目前の応急的な効果にのみとらわれることなく、つとめて長期的観点に立って、将来におけるより充実した国富を実現するための投資に意を用いるべきである。
第二は、産業構造高度化への誘導である。経済成長にともなう購買力の増大は、財貨およびサービスに対する需要を喚起するが、その需要増加の度合は相対的にみて第1次産業の生産物より第2次産業の生産物ならびに第3次産業のサービスに対する方が高く、第2次産業の中でも重化学工業製品に対する需要が相対的に大きくなる傾向にある。一方、将来の技術革新のテンポや人口および労働力のすう勢や自由化体制への移行等を考えると国民経済全体の生産性を引き上げることが強く要請される。この要請にこたえるには、個々の企業あるいは個々の産業の生産性をあげると同時に、産業構造の比重を生産性の低い部門から高い部門に移すことが必要になってくる。すなわち、生産、需要の両面から産業構造を高度化させる強い要請があり、その方向への誘導がこの計画にとっての大きな課題となっている。
第三は、貿易と国際経済協力の促進である。国際収支の限界は、戦後これまでの経済成長を制約してきた。この制約度合は、今後の生産性向上にもとづく輸出競争力の強化によって減少する可能性はあるが、天然資源の不足がつねにかなりの規模の輸入を不可欠にしているわが国経済の性格からみて、依然大きいものがあろう。その意味で輸出を中心とした外貨収入の拡大がこの計画達成のための重要な鍵となっている。さらに、低開発諸国の経済発展を促進し、その所得水準を高め、あわせてその輸入購買力の拡大と資源供給力の増加を図るという立場から、これら諸国との経済協力を積極的に進めなければならないという課題がある。
第四は、人的能力の向上と科学技術の振興である。最近の科学技術の著しい進歩は、生産設備への投資の増加、新製品・新機械の創出、耐久消費財の需要増加にみられる消費水準の向上等を通じて経済成長と産業の近代化に大きく貢献した。このような技術革新は今後ともつづくものと思われるが、それが経済のあらゆる部門にしん透し、かつ国民生活の向上に役立たせる必要性が益々強まっている。このような科学技術の急速な進展と産業構造の高度化、さらには今後予想される労働力の推移等を考えると、これまではややもすれば経済問題と切り離して考えられてきた教育・訓練・研究等人間能力の開発問題を、経済成長との関連において積極的にとりあげる必要が生じている。今後の経済進歩と社会福祉の向上は、国民能力の有効な利用に大きくかかっているのである。
第五は、二重構造の緩和と社会的安定の確保という課題である。わが国経済の多年の懸案である二重構造の緩和は、近年の高い成長によってその解決へのしょ光がきざし、今後も高成長が引きつづき行なわれるならば、それだけその解消にも近づくことになろう。しかし、この問題はわが国経済社会に根深い基盤をもつものであり、成長が高ければ自然に解消していくというものではない。経済成長にともなう構想変化に即応するように人口の流動性を高め、産業間の労働力移動を推進するという課題を果さなければ、成長にともなって雇用の機会が生ずるにもかかわらず、失業や不完全就業が残るということになろう。また、成長にとり残される部門については、社会的緊張の緩和という点で特別の考慮を払うことが要請される。そして雇用の改善とはただ単に増加労働力の吸収だけでなく、とくに低所得者層を積極的に解消していくことであることを強調しておく必要がある。このような点で社会保障の充実と社会福祉の向上が、今日ますます重要な課題となってきている。それらは経済の成長を促進するばかりでなく、近代福祉国家としての義務を果すことでもある。
以上のような課題にこたえるとともに経済の安定成長を確保するため財政金融の適正な運営がなされなければならない。とくに、自由化体制への移行などに関連して財政金融政策の地位は、いっそう重視されるべきものとなっている。この際、経済成長のための資金供給確保と景気変動幅の縮小という要請から、その運営は前向き機動的であるとともに、経済の長期的成長力を倍〔培〕養する方向をとらなければならない。
2.計画の目標
以上のような計画の目的を実現するため、国民経済の規模を今後およそ10年間に実質価格で倍増することを計画の目標とする。
この計画目標の実現の過程で、前述のわが国に課せられた多くの課題を果していくことが必要であり、かつ、可能であると考える。
国民総生産の規模の倍増を今後10年間に実現する場合の主要経済指標は第2表の通りである。
(第2表省略)
(以下略)











