第4回「世界の中の国立公文書館」

国立公文書館で働くアーキビストたちは、日々どのようなことを考えて業務を行なっているのでしょうか?
知られざるアーキビストの素顔を紹介するこのコーナー、今回は国際担当者にせまります!

アーキビストになられた理由と経緯を教えてください。

最初にお伝えしますと、私は、自分でアーキビストと名乗ることにためらいがあります。ですから、採用経緯をお話しします。2011年の秋に、当館が国際会議を主催することになっていまして、春先にそのスタッフを募集していたんです。当時館に勤務していた知人に応募を勧められました。直接のきっかけはそういうことだったのですが、幼少期にアメリカで暮らしていたことがあり、ワシントンDCの国立公文書館を訪れたことがあったんです。当時は本当に幼くて、そこにどんな文書が展示されているか―一番有名なのは独立宣言なのですが―全く理解してはいなかったのですけれども、壮麗な神殿風の建築物の中に古めかしい文書が置かれていて、それを多くの人が食い入るように見ていたという光景だけはしっかり記憶に焼き付いていました。ですから、自分がそういう、一種の知の殿堂、人類の記憶の殿堂の一つで働けるんだとしたら、それはすごく面白いだろうな、と思って応募したのです。

国際担当のお仕事について、教えてください。

館が加盟している国際的な組織の会合が1年間に2つありまして、そこへの出張が一番大きな仕事かと思います。私が採用された時もそうでしたが、当館が主催する側になることもあります。その国際会議では、館の役職員が発表や報告をすることが多いので、その発表の資料作りのお手伝いをはじめ、参加準備に関わる業務が多いです。

それから、来館対応。特に海外の公文書館関係者の方が視察を申し込んで来られた時に、館内での見学プログラムのアレンジをしています。来館者は幹部から実務者まで、幅広いですね。

次に、海外の公文書館の情報収集。例えば年報を入手して、現在この公文書館ではこういうことに重点的に取り組んでいるといった情報を翻訳し、それを館の業務に役立てたり、国内の関係者と共有したりできるようにします。

また、海外レファレンスといって、所蔵資料について海外の方から問い合わせを受けることがあります。質問事項に答えるのはレファレンス担当の職員ですが、回答を翻訳するのは国際担当の仕事です。

国立公文書館 書庫にて通訳中
国立公文書館 書庫にて通訳中

2つの国際会議とは、どのような組織なのでしょうか?

ICA(International Council on Archives, 国際公文書館会議)は、公文書館や記録管理に携わっている国家機関、団体、個人が加盟できる国際NGOです。ICAには地域ブロックごとに13の地域支部があり、日本が属しているのが東アジア地域支部、略称EASTICAです。

会議ではどのようなことが行なわれているのでしょうか?

年に1回行なわれているICAの年次会合で一番時間を費やすのは、専門家プログラムと呼ばれている数々のプレゼンテーションです。さきほど話に出たように、各館の役職員による成果発表や業務報告が行なわれるのですが、毎年、その年の会議のテーマが事前に発表され、発表者が募集されます。

これとは別に、ICAという組織を動かしていくための運営会合もあります。日程としては、専門家プログラムに2日、運営会合に1日、合わせて3日ぐらい。EASTICAのほうは、専門家プログラムに2日、運営会合に1日、視察に1日と、合わせて4日ぐらいです。ICAでは、なるべくコンパクトな日程で集中的に討議して、効率的に運営しようと努力しています。ですから、プログラムは朝から晩までびっしりですね。

EASTICA第12回総会(2015年、福岡)
EASTICA第12回総会(2015年、福岡)

活動の目的は、どのようなものでしょうか?

これはアーカイブズの世界に限ったことではないと思いますが、時代が進んで仕事が細分化されていけばいくほど、1人の人間、1つの機関で全ての問題を解決するのが難しくなります。それで、3人寄れば文殊の知恵とでもいうのでしょうか、ある課題について、「当館ではこのように解決した」「ここの部分をこうアレンジすれば貴館にも応用できるのではないか」といったように、世界中のアーカイブズ関係者が繋がって、共通の課題を解決しようと連携しています。

例えば、一般にアーカイブズとその関係者の社会的認知度はあまり高くないという課題があります。それはアーカイブズ先進国とされる国においても同様だそうです。そこで関係者全体で機運を盛り上げ、アーカイブズの重要性を社会に発信すべく、ICAの働きかけでユネスコは2011年に「世界アーカイブズ宣言」を採択しました。これはアーカイブズの世界でもマイルストーンとなる文書だと思います。

「世界アーカイブズ宣言」のポスター(2011年11月))
「世界アーカイブズ宣言」のポスター(2011年11月)

ありがとうございました。
中山さんは冒頭で、アーキビストと名乗ることにためらいがあるとおっしゃっていましたが、それでは、中山さんにとってアーキビストとはどういう人なのでしょうか?

私は多分、アーキビストという言葉をとても狭義に捉えていて、「資料の専門家」だと考えているんですね。所蔵資料に精通していて、利用者に的確なアドバイスができる人。元々そういう人たちのことを指していた言葉だったと思うんです。
今は公文書館の業務の裾野が広がっているので、そういった一番コアな部分でのアーキビストだけでなく、私のような人間も働いています。そこで、私なりに拡大解釈を試みますと、アーキビストとは、「所蔵資料、および公文書館に、アクセスしようとする人たちの手助けをする人」でしょうか。
アーカイブズという言葉は、所蔵されている「資料群」と、資料を所蔵している「建物」の両方を意味すると思っています。その点を踏まえた上で、「アーカイブズへのアクセスをサポートする人」。これなら、私も含まれると思います。

三人寄れば文殊の知恵 世界中のアーカイブズ関係者が共通の課題を解決しようと連携しています