

教育基本法案提案理由
「教育基本法」が枢密院本会議*で審議されるにあたって、同席上で文部大臣が口頭説明するため、文部省調査局審議課が作成した、法案の提案理由にかかる起案書です(昭和22年(1947)3月5日起案)。
資料で述べられる内容によると、本法は戦前の教育勅語のように詔勅のような上から与えられたものではなく、国民の総意により自らのものとして決めた「法律」の形をとったことが述べられています。また、同法は教育の理念を宣言する意味で「教育宣言」であり、今後制定される各種教育諸法令の根本法であるとし、同法の各条文と日本国憲法の関係を説明しています。
当該枢密院本会議は、同月12日に開催、「教育基本法」は全会一致で可決され、帝国議会へ提出されることとなりました。教育基本法はその後、同月31日に公布・施行されました。
なお、教育基本法は制定後、半世紀以上を経た平成18年(2006年)に、その普遍的理念を継承しながら、時代の変化に対応するために全部改正が行われました。
*枢密院本会議:枢密院は、大日本帝国憲法下で、皇室典範や憲法に関すること等について天皇に意見を求められる機関(諮詢機関)として設置された機関です。明治33年(1899)、「教育制度の基礎に関する勅令」は枢密院の審議を経ることとされ、昭和13年には「教育に関する重要の勅令」が枢密院の権限に加えられていました。枢密院は、日本国憲法の施行に先立ち、昭和22年5月2日に廃止されました。
1. 戦前、日本の教育方針・国民道徳の基準は何という文書に示されていただろう。また、それはだれが定めたのだろうか。
2. 教育基本法が、「詔勅(勅語)」ではなく、「法律」の形式をとった理由はどのように説明されているだろうか。
3. なぜ教育「基本法」と名付けたと説明されているだろうか。
4. 教育基本法の内容について、各条文と「日本国憲法」との対応を確認してみよう。
さらなる探究のために
・この文書が、「起案者」から「大臣」に至るまで、誰が決定に関わったかを確認し、当時の行政の仕組みを学ぼう。
資料名 | 教育基本法案提案理由 |
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請求番号 | 平15文科00041100 (件名番号:003) |
デジタルアーカイブ | https://www.digital.archives.go.jp/item/918395 |
教育基本法案提案理由
伺
枢密院本会議の席上、文部大臣から説明せられるべき、教育基本法案の提案理由、左案の通りでよろしいでしょうか。
案
教育基本法案提案理由
今回御諮問に相成りました教育基本法案につきまして、提案の理由を御説明申し上げたいと存じます。
民主的で平和的な国家再建の基礎を確立するために、さきに憲法の画期的な改正が行われ、これによってひとまず民主主義、平和主義の政治的法律的な基礎、いわば、枠となるべきものがつくられたのであります。しかし、この基礎の上に立って、真に民主的で文化的な国家の建設を完成するとともに、世界の平和に寄与すること、すなわちこの枠の中に、立派な内容を充実させることは国民の今後の不断の努力にまたなければなりません。そしてこのことは一つにかかって教育の力にあると申しても、あえて過言ではないかと存ずるのであります。かかる目的の達成のためには、この際教育の根本的刷新を断行するとともに、その普及徹底を期することが何よりも肝要でございます。
かかる教育刷新の第一前提と致しまして、新しい教育の根本理念を確立明示する必要があると存ずるのであります。それは、新しい時代に即応する教育の目的、方針を明示し、教育者並びに国民一般の指針たらしめなければならないと信ずるからであります。
次に、これを定めるに当たりましては、従来のように、「詔勅」「勅令」等の形式をとりまして、いわば、上から与えられたものとしてではなく、国民の盛り上げます総意によりまして、いわば国民自らのものとして決めるべきものでありまして、国民の代表者をもって構成せられます議会におきまして討議確定するため、法律をもって致すことが新憲法の精神にかなうものと致しまして、必要かつ適当であると存じた次第であります。
さらに、新憲法に定められて居りまする教育に関係ある諸条文の精神を、一層敷衍具体化致しまして、教育上の諸原則を明示致す必要を認めたのでございます。
さて、これらの教育上の原則ならびにさきに申し述べました教育の根本理念は、単に学校教育のみならず、広く家庭を含めました社会教育にも通ずべきものでありまして、これらの根本理念ならびに原則は、個々の教育法令に別々に掲げることなく、基本的な単一の法律に規定致しまして、その他の教育法令は、すべてこの法律にかかげる目的ならびに原則に則って制定せらるべきものとすることが適当であると考えまして、この法律を教育基本法と称した次第でございます。
以上申し述べました理由にもとづきまして、この法案を作成したわけでございますが、この法案は、教育の理念を宣言する意味で、教育宣言であるとみられましょうし、また今後制定せらるべき各種の教育上の諸法令の準則を規定するという意味におきまして、実質的には、教育に関する根本法たる性格をもつものであると申上げうるかと存じます。したがって本法案は、普通の法律には異例でありますところの前文を附した次第でございます。
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次にこの法律の内容を御説明申上げますると、まずこの法律制定の由来、趣旨を明らかにしますために、ただいま述べましたように、前文を附してございます。次に本文に入りましては、第一条に新時代に即応すべき教育の理念を明らかにするために、教育の目的をかかげました。次に第二条におきましては、このような教育の目的をいかに達成すべきか、その方針を明示致しました。第三条教育の機会均等のくだりでは、新憲法第十四条第一項、同じく第二十六条第一項の精神を具体化しました。第四条義務教育では、憲法第二十六条第二項の義務教育に関する規定を一層はっきりと規定致したのであります。さらに第五条では、新憲法第十四条第一項の精神を敷衍して男女共学を謳いました。第六条学校教育では、学校の性格、教員の身分について規定し、第七条では社会教育の原則を謳ったのでございます。第八条政治教育では、民主主義社会における政治的教養の重要性ならびに学校における政治教育の限界をお示し致しました。第九条宗教教育では新憲法第二十条の信教の自由の規定が、教育上いかに適用せられるべきかをお示し致したのであります。第十条教育行政の条では、教育行政の任務の本質とその限界を明らかに致しました次第でございます。
以上、本法案制定の理由、性格ならびに内容をご説明申上げましたが、なお、この法案は教育の根本的刷新について議すべく、昨年九月に設置されました教育刷新委員会の建議に基づき作成したものであると附言させていただきます。何卒慎重御審議賜らんことをお願い申し上げます次第でございます。