

連合国軍最高司令官に提出されたる米国教育使節団報告書
戦後、教育の平常体制への切替えが進められるなか、日本に民主的な教育制度を確立するための方策を求めるため、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)からアメリカに要請がなされ、昭和21年(1946)3月上旬、米国教育使節団が来日しました(第一次)。同使節団は、同月末、連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサーに報告書を提出しました。
本資料は、その報告書を翻訳したものの写しで、同年8月に設置された「教育刷新委員会」(資料3参照)の配布資料に含まれているものです。
使節団が作成した150頁近い報告書は、「第一章 日本の教育の目的及び内容」、「第二章 国語の改革」、「第三章 初等及び中等学校の教育行政」、「第四章 教授法と教師養成教育」、「第五章 成人教育」、「第六章 高等教育」に分けられ、日本の過去の教育の問題点の指摘した上で、これに変わるべき民主的教育理念や教育方法、制度について提言しており、戦後の教育改革を包括的に方向づけたものとして位置づけられています。
ここで紹介するのは、「第一章」の要旨としてまとめられた部分です。
参考: 文部科学省 「第二編 第一章 戦後の教育改革」(『学制百五十年史』より)
1. 米国教育使節団は、戦前の日本の教育にはどのような問題があると考えたか、整理してみよう。
資料名 | 連合国軍最高司令官に提出されたる米国教育使節団報告書 |
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請求番号 | 平2文部01349100 (件名番号:001) |
デジタルアーカイブ | https://www.digital.archives.go.jp/item/1520332 |
参考: 文部科学省 「第二編 第一章 戦後の教育改革」(『学制百五十年史』より)
連合国軍最高司令官に提出されたる米国教育使節団報告書
日本の教育の目的および内容
高度に中央集権化された教育制度は、仮にそれが極端な国家主義と軍国主義の網の中に捕らえられていないにしても、強固な官僚政治にともなう害悪を受けるおそれがある。教師各自が画一化されることなく適当な指導の下に、それぞれの職務を自由に発展させるためには、地方分権化が必要である。かくするとき教師は初めて、自由な日本国民を作り上げる上に、その役割を效しうるであろう。
この目的のためには、ただ一冊の認定教科書や参考書では得られぬ広い知識と、型通りの試験では試され得ぬ深い知識が、得られなくてはならない。カリキュラムは単に認容された一体の知識だけではなく、学習者の肉体的および精神的活動をも加えて構成されているものである。それには個々の生徒の異なる学習体験および能力の相違が考慮されるのである。それゆえにそれは教師をふくめた協力活動によって作成され、生徒の経験を活用し、その独創力を発揮させなくてはならないのである。
日本の教育では独立した地位を占め、かつ従来は服従心の助長に向けられて来た修身は、今までとは異なった解釈が下され、自由な国民生活の各分野に行きわたるようにしなくてはならぬ。平等をうながす礼儀作法、民主政治の協調精神、および日常生活における理想的技術精神、これらは、みな広義の修身である。 これらは、民主的学校の各種の計画および諸活動の中に発展させ、かつ実行されなくてはならない。
地理および歴史科の教科書は、神話は神話として認め、そうして従前より一層客観的な見解が教科書や参考書の中に現れるよう、書き直す必要があろう。初級中級学校に対しては地方的資料を従来より一層多く使用するようにし、上級学校においては、優秀なる研究を、種々の方法により助成しなくてはならない。
保健衛生教育および体育の計画は、教育全計画の基礎となるものである。身体検査、栄養および公衆衛生についての教育、体育と娯楽厚生計画を大学程度の学校にまで延長し、またできるだけ速やかに諸設備を取り替えるよう勧告する。
職業教育はあらゆる水準の学校において強調されるべきものである。よく訓練された職員の指導の下に、各種の職業的経験が展望せられ、同時に工芸、およびその基礎たる技術および理論に重点を置くべきである。技術工および労働者の寄与にたいしては、これを社会研究のプログラムに組み入れ、かつ独創性および創造性を発揮する機会が与える〔ママ〕べきである。
(後略)